居場所カフェ立ち上げプロジェクト (著, 編集) 学校に居場所カフェをつくろう! -生きづらさを抱える高校生への寄り添い型支援 明石書店 2019/8/10 ¥1,980  本書は、学校にカフェが増えれば、学校を居場所にできる子どもや大人が増えて、地域がもっと豊かに変わるという考えのもとに、生徒の微弱なSOSをキャッチする寄り添い型の支援の日常から、学校との連携・運営の仕方まで、カフェの始め方と意義を解説する。  「生きるストライクゾーンを広げる」では、生身のロールモデルがほぼ親と先生しかいないというひきこもりの彼らに染み込んだ、親や先生から受け継いだ規範意識こそが、生きづらさの正体だと言う。生きるストライクゾーンの狭さは、彼らが生き様に憧れるような「カッコいい大人」や、得体の知れない生き方や価値観をもつ「変な大人」に出会わずに大人になったからだとして、出会った大人のサンプル数が足りなすぎると言う。そこから、支援のポイントは、何らかのスキルを身につけることではなく、多様なロールモデルに出会い、生きるストライクゾーン広げることだと言う。  これに対して、校内居場所カフェでは、生徒が親と先生以外の多様なロールモデルに学校の中で出会い、驚くほど心を許し語り合っていると言う。カフェにはキラキラとした大人だけではなく、生徒からも突っ込まれるような「変な大人」がいたほうが、場としての魅力が増すと言う。雑多な多様性が生む価値観の摩擦こそが生徒を成長させると言う。予測不能な未知のロールモデルに出会い、「それヤバくない?」とか「それはさすがにダメでしょう!」と、ゲラゲラ笑いながら大人たちに突っ込みを入れる生徒たちは本当に楽しそうだと言う。  「そんなのありなんだ」と常識のパラダイムが覆され、生きるストライクゾーンが少し広がり、今まで手を出さなかった悪球にバットを出してみようと考えるかもしれない。それが生きやすさにつながる。これが予防支援としての校内居場所カフェの大きな意義だと言う。  「高校内にあえてサードプレイスを」では、生活保護家庭を中心とした「貧困コア層」は、子ども食堂を訪れないとして、生徒たちが気楽に立ち寄れる学校に、あえてサードプレイスをつくることの意義を訴える。そこで、教師とは違う人々と触れ合うことで、日々の緊張を解いてもらう。この、緊張からの解きほぐしは、高校内居場所カフェでしかもはや行えないのではと言う。その特徴については、第一は「安全・安心」の居場所であること、第二は「ソーシャルワーク」の始まりをそこでは行うことができること、第三には「文化の提供」を挙げる。残念ながら、「貧困であること」は、人々に多様性を与えない。多様な価値は大人からの演説や説教で伝えるものでは決してなく、子どもたち生徒たちがリラックスして享受できる空間の中で日々獲得していくものであり、その多様性は、道徳的文言からではなく、音楽や物語、多様なファッションから獲得していくものだと言う。その「多様な文化と価値の獲得」が、結果として「貧困コア層」の児童虐待の連鎖から生徒を解き放ち、より自由な生き方を選択できる「土台」になるのだと言う。  「地域の交流の場」については、若者支援を通じてさまざまな団体が参加して、地域の人々のつながりが生まれ、高校カフェを通じて地域住民どうしのつながりが広まり、深まると言う。こうして、カフェは、生徒たちだけでなく、地域の人々の居場所、交流の場となる、校内カフェはだれにとっても楽しい居場所だとして、カフェへの参加を呼びかけている。  このように、「学校の役割の多様化の受容」、「多様な大人たちと生徒の交流」、「地域の交流の場としての提供」というこれからの学校の課題を、校内カフェは示唆していると評者は考える。