工藤 勇一 (著) 麹町中学校の型破り校長 非常識な教え (SB新書)(2019/9/6) 言語: 日本語 発売日: 2019/9/6 ¥913  著者は、2014年に千代田区立麹町中学校長に就任し、日本中で行われている教育を問い直し、学校改革を断行した。氏は、子どもの自律を重視し、宿題については「すでに分かっている生徒には無駄であり、分からない生徒には重荷である」として、定期テストについては「ある時点での学力を切り取って評価することに意味はない」として、固定担任制については「学級担任が生徒に対して責任を持ち過ぎてしまい、生徒の自律を妨げる」として、それぞれ廃止した。また、制服の改定や、私服を一部導入するなど数多くの改革に取り組んでいる。親が「いまもっとも子どもを入れたい」中学校と言われている。  大人が手をかけすぎることで、子どもの自律のチャンスが奪われ、「人のせいにする」子どもが育つとして、本書は、子どもがもともと持っている力を伸ばすために、親はどう接すればよいか、学び・しつけ・人間関係をテーマに、親が陥りがちな勘違いとジレンマをときほぐす。また、未来を生きるために必須の非認知能力や対人スキルも具体的にレクチャーする。  宿題については、次のように言う。そもそもの目的は「子どもの学力を高める」ことだが、実際は作業になってしまい、やらされ感でいっぱいで、机に座らせることを目的にしてしまうと、言われたことしかやらない子どもになりかねない。学習習慣とは、「主体的に」勉強できる子どもになってもらうことであり、そのために大人がすべきは、長時間の「やらされ勉強」を強制することではなく、子どもの学習意欲を高め、かつ自分に合った学習スタイルを見つけてもらうことである。  「わからないものをわかるようにする」学びのために、次のように言う。麹町中学校では期末テストを廃止し、3階層のテストを実施している。この単元テストは点数に納得できなかったら、自己申告で再チャレンジができる。再テスト制度こそが、子ども一人ひとりの学びのスタイルを身につけるための肝。一発勝負のテストだと、意識が「他人との点数の比較」に向いてしまうので、素直に喜べない子どもたちが多い。比較対象が自分になるとそれを喜べる。すると、子どもたちはわからないものをわかるようにしようと主体的に課題解決のサイクルを回し始める。  しつけについては、次のように言う。叱る基準・しつけの優先順位を決めていけば、叱る頻度が減り、大人も子どもも不要なストレスを抱えなくてすむ。子どもとの付き合い方もかわる。さらに「本当にダメなこと」がはっきりと子どもに伝わるようになるので、子育てが楽になる。言わなくてもいいことはできるだけ言わない心がけが重要である。  著者は、「ルールを守らせることに必死な大人」に警告を発する。土曜日に重い勉強道具でも自宅勉強のために全部持ち帰るよう指導し、子どもが共有部に隠すようになると教員が必死に探し出す。著者は「そのあまりのくだらなさにあきれてしまった」と言う。学校だけで通用させている「常識」が、社会的には「あまりにくだらないこと」である危険性には十分注意したいものだと評者も考える。