研究交流部門・会員交流運営委員会・研究プロジェクト推進委員会コラボ企画ワークショップ 「わくわく子育てに必要な能力」       西村美東士(若者文化研究所) 1 プロフィールの設定  ワークでは、最初に、この「わくわく子育て」というタイトルが問題になった。年配の会員から、「わくわく」という表現に違和感があるという発言があった。  前回のワークからは、親が子育てを自分自身にとってプラスとしてとらえられるようにすることが大切という結果が得られたが、それを発展させて、「わくわく」という表現を使ったが、実感がわかないという人もいるだろう。しかし、少なくとも子育てを「苦役」というとらえかたからは脱却したい。子育ては、親にとっても「花の人生」の大事な一時期だからである。そこで、議論の結果、「わくわく」とは、子育てをポジティブに楽しむという意味としてとらえるということで合意を得た。  ワークショップは、職業開発能力手法のCUDBAS(クドバス)という方法で行った(職業教育開発協会(VEDAC))。ただし、本来のクドバスは、5または6人の同じ所属の職業人のグループで行うが、ここでは、参加者(12人)全員参加で行った。  ただし、一般的な親全体を対象とすると、親像(職業人像)が漠として正確さに欠けてしまう。そこで、次の表のように、筆者が作成した 親像をもとに、話し合ってこれを修正して、子育て者のプロフィールを作成した。その際、参加者の一人を選んで、本人の状況などを聞き取り、後の作業で不明な点が出てきた場合は、本人に「実際のところどうなのか」を聞くことにした。そのことによって、シャープな分析ができるからである。このようにして、「リアルな子育ての現場」からの課題を、参加者全員の問題意識として共有し、そこからいわば帰納法的に必要能力を構造化することができると考えた。   2 能力カードの記入  能力カードは、一枚に一件のみ書く。本来のクドバスでは、5〜6人で一人30枚程度書く。自分たちでやる場合はそちらのほうが望ましい。なるべく具体的に書く。能力は技能、知識、態度。語尾は「できる・知ってる・態度がとれる」とする。記入している時間は「自己内対話」の時間となる。  「わくわく子育て」のためには環境や社会からの支援が不可欠だが、ここでは扱わない。ただし、親から仲間、職場、地域、社会に対して働きかけるために必要な能力は、このワークショップで扱うべき重要事項だと思われる。  書き手が読み上げ、説明する。進行役(筆者)が回収し、模造紙上に貼った。他の人の類似のカードは、その隣に貼り付ける。  類似の「能力カード」の行の先頭に、それらの能力を必要とする「仕事カード」を書き込んで貼り付ける。仕事カードは「〜する」という動詞で表記する。 3「能力カード」と「仕事カード」の配列  今回は、次の写真のように、参加者が前に集まって、何人かのチームで「仕事カード」を重要順に模造紙に貼り直した。さらに仕事カードについては、全員で協議して重要順を決め、その順に、カードを移動させた。   4 パソコン入力と重要度記入  グーグルドキュメントを使って写真をテキスト化し、エクセルに入力する。重要順に並べた能力カード一枚一枚に「A重要 B普通 Cあまり重要ではない」の記号を振る(今回は時間がなく、できなかった)。  結果を次の図に示す。この図を「クドバスチャート」と呼ぶ。チャートは個々の「能力カード」から「帰納法」で行ったが、他者には「仕事カード」から説明したほうが結果が伝わりやすい。  「帰納法」の作業では、ほとんどの人が「参画」できる。しかも、能力カード書きにおいて自己内対話を進めた結果としての表現が、皆の間で尊重され、共有され、チャートとして構造化に反映される。  これに対して、このチャートを説明するときは、いわば「演繹法」で次のように説明する。しかし、付言すれば、学校教育でも社会教育でも、このような受け身の学びが続くと、演者の話し方がどんなに上手でも、学習者は飽きてしまう。「参画型」の問題解決、発見、研究を織り込むことが必要である。 【チャート(結果)説明】  われわれのワークによれば、「わくわく子育て」をするために必要な仕事は、重要順に次のとおりである。 1 自分をケアする 2 子どもを信じる 3 子どもと会話する 4 子どもを理解する 5 子どもと一緒に活動する 6 自分の楽しみに巻き込む 7 うまくやる   そのために必要な能力は、重要順に次のとおりである。  「自分をケアする」については、あきらめないけどがんばりすぎないようにできる、自分も子どもにも完璧を求めないようにできる、答えを出さずに悩んでいることができる、自分の心の平和を保つアイテムを知っている、気分転換できる、よく寝れるようにできる、子どもの寝顔を見て安らげる、である。  「子どもを信じる」については、子どもを信じて、本人のやろうとすることを見守れる、どんな時も子どもを信じることができる、子どもの持っている力を信じる態度がとれる、である。  「子どもと会話する」については、子どもの意見を傾聴できる、会話ができなくても、子どもが何を言っているか、何を考えているか理解することができる、子どもの「こうしたい」を言葉にして明確化できる、本心で話し合える、である。  「子どもを理解する」については、子どもの興味・持ち味・特性を見極めることができる、子どものいいところを探すことができる、子どものコメントにハッと気づかされることができる、子どもを笑顔にする方法を知っている、細かいことは気にしないが、心情を気にかけることができる、である。  「子どもと一緒に活動する」については、子どもが興味あることに関心が持てる、子どもがおもしろいと思ってやっていることに興味を示して関われる、子どもと同じ活動を楽しくできる、子どもの宿題を教えようとせずに、一緒に考え、楽しく取り組むことができる、子どもが何をしようとしていても、おもしろいと思える、である。  「自分の楽しみに巻き込む」については、自分のやりたいことを、子どもと一緒にやることができる、自分の楽しみを大切にする態度がとれる、自分も子どもも、それぞれが好きなことを楽しむ態度がとれる、である。  「うまくやる」については、夫に報(伝える)連(共有する)相(相談する)できる、家事の役割分担をすることができる、ネガティブな状況でも感謝することができる、子どもの利益を考え、自分の気持ちを一時引く態度がとれる、である。   5 事後のチャートの活用 (1)  学習プログラムの作成  筆者の経験によれば、現場の5人が一人30枚程度書いた能力カードは、必要能力をほぼ網羅できており、あとで百人に聞いてもこれといったカードは出てこない。  したがって、この能力カードを網羅した学習プログラムを作成すれば、必要能力を構造化(カリキュラム化)したものにできるということになる。ここで必要能力とは、技能、知識、態度のことで、語尾は「できる・知ってる・態度がとれる」になる。そして、この表現のままで、そのコマの教育目標となる。  仕事カードを科目名にして「演繹的」に作成するよりも、縦横無尽にカードを拾って科目を構成する方が、ダイナミックなプログラムになる。1科目に5個程度の必要能力が拾えれば、30コマ程度のプログラムが作成できよう。  これに基づいて、例えば講師依頼をする場合、そのコマの目標を明確に示すことができる。また、一つの目標は、複数のコマに設定せず、そのコマで必ず達成するよう講師に依頼することが重要である。  到達度評価については、各教育目標について評価する。大学等の評価(形成的評価)についても、このようにすれば、正確な評価が期待できる。 (2)  能力マップの作成  必要能力を縦に並べて、右列にチーム(作成メンバーではなく)全員の保有能力を必要能力ごとに書き込む。必要能力ごとの平均値、標準偏差、各人の平均値も求めておくと、ソートができて有益である。  能力マップの特徴については、次のように述べられている(VEDACホームページ)。 ・能力マップは人材育成を計画的に実施する際に、役立つツールです。能力とは知識、技能、態度の3つです。 ・よく言われるスキルマップとは異なります。これは作業管理に使うもので、教育には向きません。なぜなら、必要な能力が書かれていないからです。通常、作業名が書かれています。 ・能力マップはひとりひとりの能力が書かれており、教育目標そのものです。ですから、すぐに教育計画に反映することができます。    保有能力については、5段階で評価する。たとえば、1できない、2助けがあればできる、3できる、4創意工夫できる、5人に教えられる、などである。  保有能力を把握できれば、その後のチーム内での相互学習や外部講師を招聘しての学習会などに活用することができる。 (3)  ラダーの作成  このチャートを、たとえば初心者、中級者、上級者、指導者などのレベル別に作成すれば、ラダー(能力ラダー)ができあがる。ラダーは、「はしご」という意味であり、原則として後戻りがない。  子どもの参画について、ラダーが議論されているが、その多くは参画形態のラダーである。本来の能力ラダーとしての検討が望まれるところである。  また、幼いころから専門職を目指していた学生が、実際に就職したとたん、実際の職場と、自分のイメージしたものとのギャップを感じ、「私は向いていない」と思い込んで離脱するなどの問題が生じている。これについても、ラダーが示されることによって、「どこができていて、どこができていない」という正確な自己評価ができるようになるだろう。そのことによって、キャリアアップに向けた自己開発ができるようになることが期待できる。 【参考】  職業教育開発協会(VEDAC) クドバスカード4パックセット4千円(税込)。1グループ5〜6人の4グループ分です。正規に購入すれば、成果公開ができます。  研究交流部門でオンライン実施も含め、ファシリテートが可能です。お声がけください。