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< 社会形成者の育成−クドバスの活用により学習目標に社会的要請を組み込む

 若者文化研究所 西村美東士

押しつけでは、文化は育たない。それでは、社会形成者としての能力をどのように育てることができるのか。
「社会形成者としての能力」は、じつは、若者が自ら身につけたいと思う能力であることに私は思うようになった。
それは、多くの人々がもつ「潜在的社会化可能性」と言ってよいだろう。
教育における学習者への「基本的信頼」も、そこから成立すると考えられる。
通常の仕掛けのないアンケートでは、見えてくるのは顕在的可能性ばかりで、潜在的可能性は見えてこない。
「潜在的社会化可能性」を明らかにするためには、精神論や一般論ではなく、クドバスによって分解された能力を彼ら自身の手によって明らかにすることが効果的である。


2005/3/9「クドバスを活用した子育て学習の内容編成−高校生の子をもつ親のために−」聖徳大学生涯学習研究所紀要『生涯学習研究』3号、pp.41-54
 少子高齢社会のなかで、現在、青少年の社会参画能力の育成の必要が叫ばれている。しかし、子育てに悩む多くの親たちにとって、わが子にそのような能力を身につけさせようと思うゆとりがあるのだろうか。あるいは、親自身、大人自身のなかに、どれだけ社会参画や社会貢献をしたいと考える者がいるのだろうか。本研究で構造化した「高校生の子をもつ親に必要な能力」のなかにも、直接的にそのことに言及したカードはなかった。
 しかし、実際に「社会参画能力」をクドバスでリスト化したところ、親がわが子に身につけさせたい能力、さらには親自身が身につけたいと思っているであろう能力と、まったくといっていいほど差異はないと推察された。表11は、筆者が全国規模の青少年教育施設職員数十人に対して「青少年の社会参画」についての1時間半の講義を行い、そのときに青年の社会参画に必要な能力を一人一枚以上で書き出してもらって、あとは筆者一人でクドバスの手法でそれをリスト化したものである。

 ロジャー・ハートは、子どもの参加を8つの段階(@操りの参画、Aお飾り参画、B形式的参画、C与えられた役割の内容を認識した上での参画、D大人主導で子どもの意見提供ある参画、E大人主導で意志決定に子どもも参画、F子ども主導の活動、G子ども主導の活動に大人も巻き込む)に区分し、「参画のはしご」という評価の視点を提起した(4)。はしごであるから、上の段も下の段もどちらも必要である。また、大人のほうも社会に参画することが前提となっている。
 しかし、そこでも、個人の主体性、他者とのコミュニケーション、多様性の許容などの能力が必要とされている。これらは、ほとんどすべて、青少年や大人たちが自らの能力として身につけたいと思うことと一致すると考える。
 このようなことから、社会の側からの「青少年の社会化」要請と、青少年自らの社会化ニーズとが(筆者追記:今までは)かみ合っていないといえるのではないか。もちろん青少年の側のニーズには未成熟な点もあろう。しかし、クドバスの作業結果から明らかなとおり、青少年も大人も、社会参加、社会貢献、社会参画につながる能力をいらないと思っているわけではないのである。ただし、その活動をするよう社会の側から押しつけられていると感じた場合は拒否したくなるのだと考えられる。
 「社会参画をしよう」という「漠然としたメッセージ」を伝えることよりも、ロジャー・ハートの主張するような「はしご」をシステムとして用意することのほうが重要ではないか。そして、その一環として、クドバスのような手法で青少年や親が自ら求める能力を組織化、構造化、明示化し、その能力の目的的な獲得を支援する学習プログラムの提供が望まれているのではないか。  以上の考察から、学習内容編成において社会的要請にどう対応すべきかということについて、次のように考えたい。
 たとえ、子育て支援側がすべてを企画する講座だとしても、受講者が身につけたい能力の達成こそを目標とすべきである。しかし、逆に、たとえ、受講者参画型の講座だとしても、子育て支援側は社会的に必要な学習課題をつねに認識し、それが受講者のニーズと整合するチャンスを鋭敏に見つけ出して、提案者、問題提起者としての役割を果たすべきである。とくに公務としてその役割を担っているときはなおさらである。
 もし、一方的な「社会的要請」があるとしたら、それをクドバスの能力カードに入れ込む行為は、クドバスの良さを台無しにしてしまうことになろう。しかし、科目やテーマの設定において、受講者のニーズと社会的要請とが整合する企画は十分可能なはずである。たとえば本研究で作成した学習プログラムにおいても、(筆者追記:指導者の介入によって)「子育てのまちづくり」をいくつかの能力カードと結びつけ、一般の親を引きつける科目またはテーマを提起することは可能だったのかもしれない。なぜならば、社会化ニーズは、社会の側だけでなく、個人の側にも、それとは違ったかたちで顕在化、または潜在化して存在していると考えられるからである。両者の出会いこそが、今後の参画型社会をつくりだすと考える。



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