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若者論のトレンドCONCEPT

書評

夢を持って「自己決定」で東京に出てきた若者が、じつは水路づけられていて、さらには夢破れて「わがふるさと」に「追い帰される」のが、Uターン、Iターンの残酷な現状。教育においては、これに対抗して、地方の時代をどう実現するのか。


若者が志をもって、地方から東京に出て活躍する。あるいは、生徒一人一人が各地の就職先、進学先に自己選択で飛び立っていく。大人たちのそのような「妄想」は、地方のほとんどの若者にとっては、まったく通じないことが明らかにされている。現実には「ジモティー志向」、すなわち出身地の学校の友達とつながっていたいというところが妥当な線だろう。

書評

石黒格ほか
「東京」に出る若者たち−仕事・社会関係・地域間格差
ミネルヴァ書房
出版年月日 2012年9月10日
定価 本体3,150円

 石黒氏らは、弘前大学雇用政策研究センターが行った東北地方の若者の東京圏への移動に関する調査結果などをもとに、次のとおり指摘する。収入面では、利益を得るのは高学歴者に偏っており、地域間移動の経済的コストをクリアできる「恵まれた環境」に生まれた者が「恵まれた立場」を手に入れることができる。
 人間関係については、東京圏には、近い世代や年長の親族、既存の友人がいる。新卒採用時に県の出身者枠を設けている企業の寮に入れば、同じ高校出身の先輩が何人もいる。ローカル・トラック(水路付け)により移動先が集中している東京圏と宮城県以外で就職したとき、むしろ孤立した状況に置かれると指摘する。
 進路指導にあたって、「個性化の時代なのだから、生徒一人一人が各地の就職先、進学先に自己選択で飛び立っていくことが望ましい」とは言えないのかもしれない。
 なお、東京圏の大学に進学した者については、出身地で形成した人間関係の減少を、趣味ネットワークの拡大により補うという特徴も興味深い。そのほか、青森から東京圏に出た高卒若者に対するインタビュー結果から、労働現場が厳しく、仲間が次々と辞めて青森に戻っていくなかで残る者の苦悩が示される。逆に大卒で比較的高いスキルをもつ青森出身者が、東京圏で生業としていく過程も示される。
 これらの調査が行われたのは、東日本大震災の一ヶ月前であった。しかし、「高い能力を要求する職業も、高度な教育の機会も、大都市に集中」している現状に対して、地域間格差の是正と教育機会均等のあり方を提唱する本書の意義は、むしろ高まっているといえよう。



「東京」に出る若者たち−仕事・社会関係・地域間格差
石黒格ほか、(2012/9/10) 3000円

序 章 本書の目的とデータの概要
 1 本書の目的
 2 本書で用いるデータの概要
 3 本書の構成


 第T部 大都市への移動と若者の仕事、経済

第1章 地域間労働移動の実態と時系列分析
 1 地域間労働移動を考える
 2 地域間労働移動の実態
 3 地方と都市の間の労働移動

第2章 地域間移動から若者が得る経済的な利益
 1 なぜ若者は地域を移動するのか
 2 データセットと基本集計
 3 所得関数の推計結果
 4 東京に出るとどのくらい儲かるのか

第3章 地域間移動と格差問題
 1 地域間移動は日本社会に何をもたらすのか
 2 なぜ地域間移動は起きるのか
 3 移動できる者と移動できない者
 4 地域間格差と格差の是正策


 第U部 移動する若者たちの社会関係

第4章 地域間移動は地元の人間関係を壊すか
 1 なぜ、人間関係を問題とするのか
 2 分析する「人間関係」の定義と測定
 3 移動パターンのグループ化??移動経路で回答者をグループ化する
 4 アクティブ友人数の実証分析

第5章 移動先で形成する人間関係
 1 高等教育と職場で得た人間関係
 2 アクティブな人間関係の総量は
 3 地方と大都市の差を生む環境要因

第6章 東北出身者のローカル・トラック
 1 人間関係の安定性とローカル・トラック
 2 既存友人関係の実証分析
 3 既存親族関係の実証分析
 4 東京一極集中による流入者の結合

第7章 都市への移動と趣味ネットワーク
 1 都市への移動による人間関係上の利益
 2 趣味ネットワーク拡大の実証分析
 3 なぜ東北からの移動者だけか、なぜ進学だけか


 第V部 青森県の若者のケーススタディから

第8章 大都市に就職した工業高校卒業生の地元意識
 1 地域間移動した若者たちの経験
 2 マイノリティ化する高卒就職者
 3 青森県における高校生の進路
 4 工業高校を卒業して大都市で働く
 5 大都市への移動と地元との距離

第9章 大卒女性の大都市移動とローカルネットワーク
 1 いくつもの分岐点を超えて
 2 シューカツを乗り越えて
 3 チャンスを求めて上京
 4 あこがれの東京で根を張る
 5 正社員を求めて
 6 地方の大卒女性のキャリアにとっての大都市とローカルネットワーク


終 章 若者の地域間移動に関する、いくつかの処方箋
 1 今、起きていること
 2 個人レベルでの対策
 3 ナショナルなレベルでの対策
 4 地域社会の利害との対立


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