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若者サミットに期待する








         

若者の活動に関する新たな議論から

 若者文化研究所 西村美東士
 全日本社会教育連合会『社会教育』2020年5月
若者サミットに期待する
〜若者の活動に関する新たな議論から〜

若者文化研究所所長 西村美東士

 若者サミットが開かれると聞いた。この機会に、若者へのエールを送りたい。ここでは、日本教育新聞社『週刊教育資料』に書評を執筆した関連図書を紹介する。2021年財団法人日本青年館設立100周年に向けて、今後、議論をさらに発展させ、若者によるまちづくりと社会起業の新しい展望を切り開きたい。

自己決定の方法
 20代で起業しようとすると、周りの大人たちに心配される。「まだ世の中のことを知らないのだから、やめた方がよい」と言われることが多い。私は、まちづくりや起業を考えている若者に呼びかけたい。「世の中のことはたかがしれている」。心配してくれる人の御好意には感謝しつつも、惑わされず、自己決定しよう。やってみて、振り返ったとき、あなたは気づくに違いない。世の中のことは、アクションしてみて知ることができる。失敗したとしても、その「失敗」は、その後の人生に生かせば「経験」である。
 「惑わされずスルー」して自己決定にはどうしたらよいか。駒崎弘樹『社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門』では、「現実はもっと厳しいよ」と批判する「ドリームキラー」に対しては、「貴重な意見ありがとう。でもまあ、俺はやるけどね」という「スルー能力」の必要を説くとともに、一割くらいは「よい批判」があるので、「なんで」と聞き返し、彼らのライフスタイルを推察し、ターゲットとすべき人物像を発見するという方法を示している。
 また、駒崎氏は、メンバーのメールはGメール、チームの予定表はグーグルカレンダー、ファイルの共有はグーグル等、顧客管理システムはクラウド型のセールスフォースを利用して、グループウェアを構築し、ブログとフェイスブック、ツイッターの3つを使うことによって、活動状況を資金を使わずに情報発信するよう勧める。

個人化の幸せ
 82年、87年、92年、02年と行われてきた「NHK中学生・高校生の生活と意識調査」では、2012年、「とても幸せだ」とする生徒(今の20代)が、過去最高の増加率(中学生55%、高校生42%)を示した。古市憲寿氏は、ゆとり教育の成果と評価し、「こんなに願い通りにいい子に育っているのに、政治家は教育に対して何をしたいのか」と述べる。しかし、「いい子であるだけでは幸せにはなれない」社会に出ていき、幸せな生涯を過ごすためには、社会のなかでの自分らしさを確立し、社会での立ち位置を決める必要がある。
 同調査では、「思い切り暴れ回りたい」を「まったくない」とする回答が82年19%から、12年69%にまで増加した。親にも反抗せず、仲がよい。80年代に「荒れる学校」で育った中高年世代には理解できないことかもしれない。
 このように今の若者の幸せのとらえ方には、「荒れる学校」で育った中高年とは大きなギャップがある。しかし、小さくまとまらずに生きるためには、新しいことが社会で起こせるという経験をしておくことも重要であると考える。
 川島高之『社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門』は、仕事(ワーク)と共に、私生活(ライフ)と社会活動(ソーシャル)という「3本柱の生活」が人生を強く豊かなものにしてくれると言う。氏は「三本柱の生き方」によって、人脈が広がる/視野が広がる/多様性が身につくと言う。そして、経済成長期の「オヤジ」が、「圧倒的な権力」を背景とした理不尽な命令や支配に対するストレスで、家庭を暗くさせたとし、若者に、結果志向で「柳に風」のしたたかさでやっていこうと言う。
 前衛芸術家の篠田桃紅は、美術家団体にも属さず、「一人で自由に生きる」という指針のもとに活躍している。それは、いわゆる「無所属」の若者と通じるところがあるのだが、どこが違うのかというと、「自由と個性を尊重するから孤独かつコミュニケーションが大切」、「孤立ではなく、人と交わらないのでもなく、混じらない、よりかからない」という考え方が傑出している(『103歳になってわかったこと』)。個人化社会で個を守って生きるためには、このような生き方が必要なのだ。
 宮本みち子『若者が社会的弱者に転落する』は、親も子も「やりたいこと」の呪縛にとらわれ、結果として現実逃避が続いているとし、(個人化社会における)「自己選択・自己責任」について、「何がやりたいことなのかを自問自答するなかからは、やりたいものをみつけることはむずかしい」として、「ライフコースの個人化」を批判している。しかし、前出篠田のような「やりたいことをやる」という生き方をしようとする芸術家肌の若者がいても、正当に評価されるような社会にしていきたい。

他者との交流
 中原淳、溝上慎一『活躍する組織人の探究』は、大学のあり方について、単に就職できたかどうかではなく、就職後の適応状況を見なければならないと言う。そのためには、クラブ・サークル活動やアルバイトによる「豊かな人間関係」において、「良好な友達づきあい」以上の質が求められ、「異質な他者」からの影響が大きいことが示唆された。なお、「勉学第一」とした者は良い結果にならなかった。このようなことから、まちづくりや起業の中で「見知らぬ他者」と出会うことは大きな意味があるといえる。
 筆者は、まちづくりの仲間関係としては、目的の明確化とその成功のイメージを共有するコアな仲間が3人必要で、それ以外はサポーターになってもらい、その外にときどき参加する浮遊層を置き、参加度のグラデーションのある同心円集団を形成するとよいと考えている。イギリスのナショナルトラスト運動も、最初はたった3人で始めたのだから、「3人集まれば地球は変えられる」と言えるだろう。これに対して、起業では、コアはたった一人の場合が多いと思う。一人が、関係者とネットワークしてコラボすることになるだろう。
 加藤諦三『どんなことからも立ち直れる人』では、 逆境をはね返す力「レジリエンス」の獲得法として、家族関係を超える他者との愛他主義的人間関係を挙げる。そして、「同調圧力の仲間関係からは安定した自己肯定感はいつまでも得られない」と言う。活動における異質の他者との交流が、人生の逆境を乗り越える個人の力になると言えよう。
 中高年以降は利潤による継続性を考えたい。なぜなら、役所からの補助金は年度が変われば切られたりする。それで事業が中止になれば、頼りにしてくれている人に申し訳ないことになってしまうからだ。しかし、少なくとも20代は、自由に人生の体験をしておいてほしい。
 個人化敵視者と現代の「幸福な若者」との断絶はすでに述べたとおりだ。個人化敵視には、今の若者はついていけない。このことを認識して、今の若者の個人化傾向に適合する新たな議論が巻き起こりつつあると言ってよいだろう。さらに、若者にとって「新たなことが起きる驚き」のためには、「上から目線」からも、上から提案されたことに「いい子」として応える「おねだり路線」からも、決別する必要がある。このようにして若者のうちに得た「世の中のことはたかがしれている」という体験が、中高年になってからの社会の中での自分にとって大事な宝となるに違いない。


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