若者文化研究所 西村美東士
消費動向
ロフトが登場したころの若者の消費動向を見てみよう。
1989年4月西村美東士「イチ(市)とクラ(蔵)によるモノの拠点」
日本教育新聞社『週刊教育資料』150号、p.36
記事のポイント
各階は、イチ(市)とクラ(蔵)から構成されている。市は中央にあって、市場感覚、エキサイティングでトレンディーである。蔵は壁際高くまであって、定番商品がきちっと揃えてある。たとえば、同じ茶碗を、すべてのサイズ揃えて、個に合ったものが選べる。従来の売場分類では領域の間が抜けてしまい、不都合である。
ただし、これは、当時の若者のトレンドの反映ではなく、ロフトが仕掛けようとしたトレンドにほかならないのかもしれない。どっちが先かは、不可知である。
以下詳細
東京都渋谷区
イチ(市)とクラ(蔵)によるモノの拠点
−西武ロフトがとらえた若者のニーズ−
先日、われわれの研修で、若者の街、渋谷を訪れ、「雑貨屋イメージの百貨店」、西武ロフトの金谷信之館長の話をうかがう機会があった。
当日はあいにくの雨であったが、じつは引率者の私にとっては「慈雨」であった。なぜなら、平日の昼間でも晴天だと相当の混雑が予想され、店内の見学が十分には行えない危惧があったからである。若者のニーズの把握は難しいとか、あるいはもともとのニーズなどはないのかもしれないなどと言われる中で、ロフトはそれほど若者を「吸引」しているのである。
「生活必需品」に対して、若者が今までと違うものを求め始めている。「非日常」の余暇以上に、日常生活そのものを「余暇」として楽しんでいる。衣類、文具などのタテワリの商品配置では、このようなニーズに対応できない。「業際」が求められる。
そこでは、カルイかもしれないけれど、時、瞬間を大切にして、トレンドや風俗を提供する。それによって、「生活自遊人」という都市生活者のくらし方を提案する。「生活自遊人」とは、集団より、個の世界のマインドをもっている人のことである。生活領域が広く、頭だけでなく、実践をする。
これらの人々はシビアーで、買物もしろうとではない。モノを知っている。そういう人をターゲットにするためには、百貨店ではいけない。ロフトでは、「高度情報装備性」、「高密度・高集積」を売物にしている。商品絞りこみはしない。売場はいわばインデックスであり、主役は客、使い方はそれぞれである。
各階は、イチ(市)とクラ(蔵)から構成されている。市は中央にあって、市場感覚、エキサイティングでトレンディーである。蔵は壁際高くまであって、定番商品がきちっと揃えてある。たとえば、同じ茶碗を、すべてのサイズ揃えて、個に合ったものが選べる。
従来の売場分類では領域の間が抜けてしまい、不都合である。ロフトは、身体、空間、仕事、余暇というような分類とフロアーの設定をしている。
「身体」では、ヤングは朝シャワして身ぎれいでないと仲間扱いされない。そのための商品は、従来の化粧品、薬品などには分類しきれない。
「空間」では、住宅事情もあり、ヤングは収納にこっている。ポットも象印ではなく、そのままオープンに置かれ、デコールになるもの。これらは、インテリア、家具、家電などの分類では、分類しきれない。
「仕事」では、職場で用度品ではなく自分の気に入ったものを使っている。家事も、日用品、雑貨などの考え方ではなく、楽しめるものを求める。衣服をオープンにハンガーに吊しているが、そのカバーがよく売れる。そういうヤングが求めるものは、従来の分類では買うことができない。
「コミュニケーション」では、日々のギフトが大切。それも誕生日などではなく、普通に遊びに行くときの200円位のギフトである。これをイキに行うため、若者は商品選択、ラッピングなどで、勝負する。200円のものだろうが、彼らのチョイスは高額商品と同様に真剣なのである。
ロフト社員320名中、100名が「モノマスター」である。モノマスターは、社内外公募で選ばれている。たとえば、国鉄からの転職者が鉄道模型を担当している。彼の知識は尋常ではない。そのようなモノを使いこなせる人が、仕入れからすべてやる。
CIとしては、MONO−PRESSを発行。これで生活モチベーションをうまくとらえる。(本号は「新しくデビュー」)
雑誌での掲載には、提供主を入れてもらってどんどん商品提供する。ただし、イメージが落ちないよう、雑誌セレクトをする。
人件費が高く、棚揃えが悪いなどの問題はあるが、年間110億の売り上げがある。
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