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若者論のトレンドCONCEPT

書評

「自分が悪かったんでしょ」と言われる個人化社会の「再帰性」の地獄をスルーする生き方から、「再帰性」を受けて立つ自己決定、自己責任の生き方に転換することにより、真の成長と充実がある。

 社会的にコントロールされたことでも、失敗すれば、個人化社会では、結局、「自分が悪かったんでしょ」と言われてしまう。これを再帰性とよんで、通常の論者からは絶望的な事項かのように取り扱われている。これに対して古市は、そこに猛烈に立ち向かわないことによって、若者は絶望からくぐり抜けていると言う、
 さて、教育はどうすればよいのか。個人化の進展は、若者にとって時代の必然である。だとしたら、そのなかで充実して生きられるよう、個人の社会化と個人化を一体的に支援することによって、「ほどほと」などではなく、職場、家庭、社会地域の一員として充実した生涯を送れるよう支援したい。

書評
『僕たちの前途』
古市憲寿
原書房
2012/09出版

 若者文化研究所 西村美東士


 この本では、猛烈とは一線を画す起業家たちが登場する。古市自身も社員3人のITベンチャーの一員だが、儲かっても上場しない、社員も増やさない、同じマンションに住み、会社はファミリーのような存在という。切磋琢磨よりは共存と「つながり感覚」を大切にし、無傷で働こうとするいまの若者を彷彿とさせる。
 古市は、起業を勧めようとしない。最終章近くでは、「自由格差社会」という言葉を提起する。ビザなしでも多くの国に自由に行ける、でも、帰ってこれなくなっても「それも自由だ」と揶揄する。評者のまわりにも「めんどうだから海外旅行はしたくない」という若者が増えているのも頷ける。今や、自由は、手放しで喜べることではない。起業の規制緩和に対しても同様なのだろう。
 社会学では、同様に、個人の自由な選択に責任が帰せられる個人化のマイナス面を強調する。しかし、若手社会学者である古市は、「どうせお金を稼ぐなら、好きな人と好きなことをやっていたい」、「社会を変えたいなんてだいそれた気持ちはない」と言う。社会に猛烈に立ち向かわないことによって、彼は「個人化の罠」からくぐり抜けてきたといえる。
 さて、教育においては、「自由格差社会」のなか、どのように若者の労働観を育てるのか。「猛烈に自己決定で生きよ」というのか、それとも「自分らしさを大切にするためには、くぐり抜けよ」というのか。評者は、理想追求の教育においては、そのどちらでもなく、青少年の個人化のプラスの側面を伸ばしつつ、私生活を大切にしながら、職場や地域では、他者と切磋琢磨し、支え合う人材を育成することが可能と考える。

校正前メモ
 昔、モーレツ社員という言葉が流行した。しかし、起業家だけは違うかも。そう思っていたら、猛烈とは一線画す起業家たちがこの本では登場する。古市自身も社員3人のITベンチャーの一員だ。もうかっても上場しない。社員も増やさない。同じマンションに住み、行き来自由。会社はファミリーのような存在だ。
 切磋琢磨より、つながっている感覚を大切にするいまの若者を彷彿とさせる。またほどほどに無傷で働きたいという若者を彷彿とさせる。最終章近くで、古市は、「自由格差社会」という言葉を提起する。ビザなしでも多くの国に自由に行ける、でも、帰ってこれなくなっても「それも自由だ」というのだ。私は、「めんどうだから海外旅行はしたくない」という学生の言葉を思い出した。今や、自由は、若者にとってうれしくない。
 古市は若き社会学者である。社会学では、社会で生きていく能力を身につける過程である社会化に対して、個人自己管理があたかも決定的になる状態を個人化と呼び、これについてじつは警鐘を鳴らしているのだ。
 社会的にコントロールされたことでも、失敗すれば、結局、「自分が悪かったんでしょ」と言われてしまう。これを再帰性とよんで、絶望的な事項かのように取り扱う。古市は、前著「幸せな日本の」とおり、それを猛烈に立ち向かわないことによって、絶望からくぐり抜けているといえよう、
 教育はどうすればよいのか。個人化の進展に対する絶望なのか、くぐり抜けなのか。私は教育は社会学と異なって、個人の社会化と個人化を一体的に支援することによって、ほどほとではなく、職場、家庭、社会地域の一員として貢献し、充実した生涯を送ろうとする社会形成者の育成にチャレンジしたいと考える。

上場はしない。
社員は三人から増やさない。
社員全員が同じマンションの別の部屋に住む。
お互いがそれぞれの家の鍵を持ち合っている。
誰かが死んだ時点で会社は解散する。
僕は今、そんな会社で働いている。
社長は「会社」というよりも「ファミリー」という言葉を好む。
社長と言っても今27歳である僕の一学年上なので、まだ29歳である。
顔は高校生のような童顔。
低めの身長に太めの胴体。
名前は――
(本書より)

「いい学校、いい会社、いい人生」というモデルから
「降りた」若き起業家たち。
自らもその一員である古市憲寿が、徹底的にそのリアルに迫る。
「G2」に発表されて大反響を呼んだルポルタージュをふまえ、
「起業」や「ノマド」を礼賛するくせに自営業者が減少し続ける
日本社会における「起業」の本当の意味を探る。

誰もなしえなかった起業家研究&ルポ、ここに登場!

おなじみ巻末特別対談も収録、登場するのは
「会社といえばこの人」といえる、あの超有名人!

内容(「BOOK」データベースより)
「下流でもなく、ホリエモンでもなく」。あるいは「草食でもなく、肉食でもなく」。若き起業家たちの生態系に飛び込んで、幸福な若者たちの「働く」意味を考える。『絶望の国の幸福な若者たち』を超える、渾身の労働社会学論考。




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