書評
PISA等の国際順位の低下に敏感に反応した結果としての「ゆとりと充実」路線から「確かな学力」路線への軌道修正に、震災からの教育復興のなかで、疑問が生じている。
学校教育は、そもそも児童・生徒一人一人の幸福追求と生涯学習の基礎づくりのためにある。同時に、学校施設が住民の生涯学習の拠点の一つとして存在している。その基本が、震災からの教育復興を考えるに当たり、あらためて浮かび上がってきた。
書評
題名:震災からの教育復興−岩手県宮古市の記録
監修:国立教育政策研究所
発行日:2012年10月15日
本書は、宮古市教育現場での防災の取り組み、被災状況、復興の記録である。徳永保所長は、戦後日本の「青空教室」において、「学校施設が復興されず、衣食住が十分でないのにもかかわらず、何にも先駆けて教育が再興」されたことを想起する。社会教育の視点からは、「リヤカー引っ張っても図書館だ」という戦後の図書館人の気概を思い出させる。
所員の葉養正明は、震災以前の教育活動にどう戻るかという「教育復旧」の観点から、震災を糧とした取り組みをどう切り開くかという「教育復興」の観点への転換を示唆する。そして、@PISA等の国際順位の低下に敏感に反応した結果としての「ゆとりと充実」路線から「確かな学力」路線への軌道修正、A教育指導や学校運営の効率性を高めることに視点を置いた学校の適性配置政策の推進の二点について再検討を促す。
@に対して、被災地では、「学習のケア」だけでなく、「心のケア」「生活のケア」が行われてきたというのである。日本の子どもたちも、学校が楽しいという子が多い。理由は「友達と遊べるから」である。教育においては、たとえばその交友関係が支持的風土になるように指導することこそ重要といえよう。Aについて、葉養は、学校を地域コミュニティの文化拠点として考える観点を効率化の観点と並立的に捉え、前者に、遊びや住民の満足度を組み込んだ発想を見出している。生涯教育の視点からこれを読んで、学校教育がそもそも児童・生徒一人一人の幸福追求と生涯学習の基礎づくりのためにあり、また、学校施設が住民の生涯学習の拠点の一つとして存在していることを再確認することができた。
題名:−岩手県宮古市の記録− 震災からの教育復興
監修:国立教育政策研究所
発行所:株式会社悠光堂
発行日:平成 24 年 10 月 15 日
本書は、宮古市が不足の事態として直面した東日本大震災をめぐり、教育現場でのこれまでの防災の取り組み、被災状況、復興の記録を残すことを目的としています。
山本正徳宮古市長を始めとする多くの方々の貴重な寄稿によって、編集・刊行されました。
教育関係者の方には、この記録から、日頃の防災教育や、教育者たるものの使命や役割等を考える材料にしていただきたいとしています。被災校の生徒さんからのメッセージや、資料集として危機管理マニュアルなども収録されています。
一例として、宮古市小中学校のための危機管理マニュアル
【四、児童生徒の心のケアと教職員の配慮(1)心のケアの必要性】
では次のように述べています。
大災害発生後には、多くの被災者が災害による恐怖、衝撃あるいは大切にしていたものを失った喪失感、無力感等の様々なダメージを受けることが多い。
こうした災害後の心の反応は、程度の差こそあれ被害者なら誰にでも生じることであり、災害での様々な体験、被災後の生活環境、人的環境の変化等は、外傷的ストレスとして長期にわたって続く恐れもある。
児童の精神的ケアについては、身近な担任の先生や養護教諭、又は保護者が子どもの話を十分に聞き、恐ろしい体験や不安な感情を分かち合い、安心感を与えることが大切で、児童生徒の諸症状を参考に個に応じた対応が必要である。
本書を監修した国立教育政策研究所は、被災地の学校及び教育活動の復興を支援するため、被災地において必要となり得る学校教育の実施運営上の工夫などについて、教育関係者の知識と経験を共有する場を設けています。
題名:震災からの教育復興−岩手県宮古市の記録
監修:国立教育政策研究所
発行日:2012年10月15日
本書は、宮古市教育現場での防災の取り組み、被災状況、復興の記録である。徳永保所長は、戦後日本の「青空教室」において、「学校施設が復興されず、衣食住が十分でないのにもかかわらず、何にも先駆けて教育が再興」されたことを想起する。社会教育の視点からは、「リヤカー引っ張っても図書館だ」という戦後の図書館人の気概を思い出させる。
所員の葉養正明は、震災以前の教育活動にどう戻るかという「教育復旧」の観点から、震災を糧とした取り組みをどう切り開くかという「教育復興」の観点への転換を示唆する。そして、@PISA等の国際順位の低下に敏感に反応した結果としての「ゆとりと充実」路線から「確かな学力」路線への軌道修正、A教育指導や学校運営の効率性を高めることに視点を置いた学校の適性配置政策の推進の二点について再検討を促す。
@に対して、被災地では、「学習のケア」だけでなく、「心のケア」「生活のケア」が行われてきたというのである。日本の子どもたちも、学校が楽しいという子が多い。理由は「友達と遊べるから」である。教育においては、たとえばその交友関係が支持的風土になるように指導することこそ重要といえよう。Aについて、葉養は、学校を地域コミュニティの文化拠点として考える観点を効率化の観点と並立的に捉え、前者に、遊びや住民の満足度を組み込んだ発想を見出している。生涯教育の視点からこれを読んで、学校教育がそもそも児童・生徒一人一人の幸福追求と生涯学習の基礎づくりのためにあり、また、学校施設が住民の生涯学習の拠点の一つとして存在していることを再確認することができた。
題名:−岩手県宮古市の記録− 震災からの教育復興
監修:国立教育政策研究所
発行所:株式会社悠光堂
発行日:平成 24 年 10 月 15 日
本書は、宮古市が不足の事態として直面した東日本大震災をめぐり、教育現場でのこれまでの防災の取り組み、被災状況、復興の記録を残すことを目的としています。
山本正徳宮古市長を始めとする多くの方々の貴重な寄稿によって、編集・刊行されました。
教育関係者の方には、この記録から、日頃の防災教育や、教育者たるものの使命や役割等を考える材料にしていただきたいとしています。被災校の生徒さんからのメッセージや、資料集として危機管理マニュアルなども収録されています。
一例として、宮古市小中学校のための危機管理マニュアル
【四、児童生徒の心のケアと教職員の配慮(1)心のケアの必要性】
では次のように述べています。
大災害発生後には、多くの被災者が災害による恐怖、衝撃あるいは大切にしていたものを失った喪失感、無力感等の様々なダメージを受けることが多い。
こうした災害後の心の反応は、程度の差こそあれ被害者なら誰にでも生じることであり、災害での様々な体験、被災後の生活環境、人的環境の変化等は、外傷的ストレスとして長期にわたって続く恐れもある。
児童の精神的ケアについては、身近な担任の先生や養護教諭、又は保護者が子どもの話を十分に聞き、恐ろしい体験や不安な感情を分かち合い、安心感を与えることが大切で、児童生徒の諸症状を参考に個に応じた対応が必要である。
本書を監修した国立教育政策研究所は、被災地の学校及び教育活動の復興を支援するため、被災地において必要となり得る学校教育の実施運営上の工夫などについて、教育関係者の知識と経験を共有する場を設けています。
若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。