書評
何かというと問題視される若者たち。それなのに、彼らのACGには、経済界から大きな期待が寄せられる。そこには大きな「チグハグ」が存在する。教育は、ポップカルチャーに対して、どんなスタンスをとればいいのか。
「クールジャパン」として、ポップカルチャーのACG(アニメ、コミック、ゲーム)による経済効果が、大人たちから熱い注目を浴びている。そのとき、宇野の、「陽の当たらない夜の世界」こそ、革新と創造性を生み出してきたという指摘は、十分に認識しておく必要がある。そのうえで、「下位の文化」だけでなく、連帯や共同などの教育的価値を伝えるとともに、現在の支配的文化に対抗して新しい時代を生み出す文化(カウンターカルチャー)と、それによる新しい価値の創造をめざしたい。
書評
宇野常寛
日本文化の論点
ちくま新書
出版年月日 2013年3月10日
定価 本体756円
宇野氏は、「日本独自の発展」を遂げているサブカルチャーを、「夜の世界」と名付け、その存在の大きさを指摘する。そして、「奇跡の復興を遂げ、それゆえに制度疲労を起こし、ゆるやかに壊死しつつある高齢国家日本」を、「昼の世界の姿にすぎない」と述べる。「陽の当たらない夜の世界」こそ、革新と創造性を生み出してきたというのだ。
国家的にも「クールジャパン」として、ACG(アニメ、コミック、ゲーム)の輸出が重視される今日、生徒にとっての「夜の世界」の存在をわれわれも認識する必要があることは確かだろう。
後半では、「西洋近代のものとは異なった原理で駆動する新しい世界」の象徴として、AKB48を取り上げる。劇場公演、握手会、選抜総選挙、じゃんけん大会といったシステムの意味を吟味し、資本主義によって人間の想像力が画一化するどころか、欲望が多様化し、変化したと評価する。
しかし、生徒の想像力、創造力は、本当に育ってきたのか。教育は、従来の文化を伝承するだけでなく、新たな文化を創出する営みでもある。サブカルチャーは、「サブ」という名のとおり、現在の支配的文化に対するたんなる「下位の文化」にとどまる恐れもある。望ましい文化創出のためには、連帯や共同などの教育的価値を伝えるとともに、社会の現状に問題意識を持ち、これに対抗する文化(カウンターカルチャー)の担い手を育成する必要があるのではないか。東日本大震災後、人々の絆や地域の重要性等について、若者の認識は高まっているはずである。ただし、押しつけで文化は育たないことはいうまでもない。
内容(「BOOK」データベースより)
情報化の進行は、二〇世紀的な旧来の文化論を過去のものにした―。本書は情報化と日本的想像力の生む「新たな人間像」を紐解きながら、日本の今とこれからを描きだす。私たちは今、何を欲望し、何に魅せられ、何を想像/創造しているのか。私たちの文化と社会はこれからどこへ向かうのか。ポップカルチャーの分析から、人間と情報、人間と記号、そして人間と社会との新しい関係を説く、渾身の現代文化論。
序章 〈夜の世界〉から〈昼の世界〉へ
論点1 クール・ジャパノロジーの二段階論――集合知と日本的想像力
論点2 地理と文化のあたらしい関係――東京とインターネット
論点3 音楽消費とコンテンツの「価値」
論点4 情報化とテキスト・コミュニケーションのゆくえ
論点5 ファンタジーの作用する場所
論点6 日本文化最大の論点
終章 〈夜の世界〉から〈昼の世界〉を変えていくために
あとがき
付録 『日本文化の論点』を読むキーワード
【参考】1998年11月『青少年問題』癒しのサンマと若き旅人たち−地域若者文化のはぐくみ方
若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。