書評
青少年の自立と社会参加が重要だと考えるなら、青少年指導者の実践記録を科学化するとともに、その蓄積と交流を図って当然であろう。
学校教育でも社会教育でも、その指導者が自らの実践を報告することは義務であり、その交流を求めることは権利であると考える。教育実践は孤立させず、共同研究として蓄積発展させるべきである。しかし、有意義な共同研究のためには、「子どもたちの目が輝いていた」という主観的な評価ではなく、自己客観視した評価が求められる。その意味では、青少年教育の実践研究の蓄積について、「青少年問題に関する文献集」の発行が中止されて久しいことは残念なことである。
これだけ青少年支援の重要性が叫ばれていながら、下のような研究の基盤となった指導者間の実践研究の交流が中断したままでいることは理不尽なことだと考えます。
【参考】文献集の成果西村美東士科研費報告書「現代青少年に関わる諸問題とその支援理念の変遷−社会化をめぐる青少年問題文献分析」
【参考】青少年教育実践の成果交流西村美東士科研費研究成果公開促進費助成「青少年文献データベース」
書評
藤田結子・北村文 編
現代エスノグラフィー
新曜社
定価2415円
発売日 2013年3月7日
エスノグラフィーは、一般に民族誌と訳される。本書では、調査者が組織、コミュニティなどの「フィールド」に入り込み、人々の生活や活動に参加して観察し、記述する方法としてとらえる。また、従来の「科学的」な参与観察だけでなく、能動的に協働して、解釈を実践し、多元的な語りを得るインタビュー、自分の所属集団の内側からの観察、自分の問題を自覚した当事者とピアグループによる問題への対処、対話と相互行為の積み重ねによるライフストーリー構築など、新しいアプローチについても論考する。
「生きる力の育成」などの教育の目的を考えると、その多様性、動態性から、学習と指導の両側面において、エスノグラフィーの手法は有効であると考えられる。
第一に、教師の一番の勝負の場である授業が、ふだんは管理職にさえ観察されることもなく、評価を受けることもできない。効果測定などの量的評価だけでなく、エスノグラフィーの記述手法を活用した他者からの評価が、教師の自己客観視を育てるはずである。第二に、児童生徒個人の日々の変化、とくに社会性の獲得等に関する観察と記述を充実する必要がある。学習は、本質的に個人的事象だからである。第三に、総合的学習の時間などにおいて児童生徒が作成する「成果」を、学習成果としてだけではなく、エスノグラフィー的な研究成果として、科学的な評価や指導を行う必要がある。総合的学習の時間については、現在「ゆとり批判」の波にさらされているが、それよりも、今日の科学的方法へのわれわれの理解が不十分であったことを問題にすべきと言ったら言い過ぎか。
説明文
エスノグラフィーは、一般に民族誌と訳されるが、本書では、調査者が研究テーマに関わる「フィールド」(組織、コミュニティなど)に自ら入って、人々の生活や活動に参加する「参与観察法」を基本とする調査方法論であるとする。また、従来の「科学的参与観察法」だけでなく、能動的に協働して、解釈を実践し、多元的な語りを得るインタビュー、自分の所属集団の内側からの観察、自分の問題を自覚した当事者とピアグループによる問題への対処、対話と相互行為の積み重ねによるライフストーリー構築など、新しいアプローチを含めて論考する。
アクティヴ・エスノグラフィー、フェミニスト・エスノグラフィー、ネイティヴ・エスノグラフィー、当事者研究など、新しい考え方、方法論が次々に現われた。世界的標準となりつつあるこれら多様なアプローチを詳説し、従来公けにするのがためらわれたような「現場で出会う種々の問題」をも公開する。フィールドワークの面白さから厳しさまですべてを詰め込んだ、「文化の現場」をめざすすべての人のための「新しい」必携書。
元来は文化人類学、社会学の用語で、集団や社会の行動様式をフィールドワークによって調査・記録する手法およびその記録文書のことを「エスノグラフィー」(ethnography)といいます。エスノ(ethno-)は「民族」を、グラフィー(-graphy)は「記述」を意味し、一般に「民族誌」と訳されます。近年は商品開発やマーケティングに欠かせない調査手法として注目され、さらには人材育成やプロジェクトマネジメントなどの分野でも活用されるケースが増えています。
内容紹介
クリフォード=マーカス編の『文化を書く』以来、エスノグラフィーは一変した。アクティヴ・エスノグラフィー、フェミニスト・エスノグラフィー、ネイティヴ・エスノグラフィー、当事者研究など、新しい考え方、方法論が次々に現われた。世界的標準となりつつあるこれら多様なアプローチを詳説し、従来公けにするのがためらわれたような「現場で出会う種々の問題」をも公開する。フィールドワークの面白さから厳しさまですべてを詰め込んだ、「文化の現場」をめざすすべての人のための「新しい」必携書。
内容(「BOOK」データベースより)
『文化を書く』以来、エスノグラフィーは一変した。多くの新しい考え方、方法論が次々現われた。世界的標準となりつつある多様なアプローチを解説し、従来公けにするのがためらわれた「現場で出会う種々の問題」をも明らかにする。フィールドワークをする人のための新たな必携書。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
藤田/結子
コロンビア大学大学院社会学部修士課程、ロンドン大学ゴールドスミス校メディア・コミュニケーション学部博士課程修了(Ph.D.)。現在、明治大学商学部准教授。専門は社会学(文化、グローバリゼーション)、メディア研究
北村/文
東京大学大学院・ハワイ大学大学院を経て、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。現在、津田塾大学学芸学部英文学科講師。専門は社会学(アイデンティティ論、相互行為論)、ジェンダー研究、日本研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
◆街へ出る前に、フィールドへ行く前に◆
フィールドワーク、エスノグラフィー(民族誌)について、手紙の書き方、ノートの取り方から機器の扱い方まで、手取り足取り解説した本は多くあります。J・クリフォードらの『文化を書く』以来、文化を誰が、どこから、どう書くのか、という政治性が指摘されていますが、本書はそのような問題意識を組み入れながら、ポジショナリティ、自己再帰性、表象の政治、当事者研究などの基本概念を詳述し、介護、障害、ボランティアなどの新しい対象分野を取り上げ、さらにはフィールドに出たときに調査者が出会う初歩的な問題についても、体験をとおした適切なアドバイスをしています。これからのフィールドワークに必携の「思想的」ガイドブックといえましょう。
ワードマップ 現代エスノグラフィー─目次
はじめに
「新しい」アプローチ一覧
第一部 現代エスノグラフィーの展開
エスノグラフィー現場を内側から経験し記述する
『文化を書く』エスノグラフィー批判の衝撃
自己再帰性他者へのまなざし、自己へのまなざし
ポジショナリティ誰が、どこから、どう見るのか
■コラム 厚い記述
表象の政治語る、語られる、語りなおす
ポスト構造主義とポストモダニズム「知識」の断片性・不完全性・文脈依存性
第二部 エスノグラフィーの「新しい」アプローチ
アクティヴ・インタヴュー質問者と回答者が協働する
フェミニスト・エスノグラフィー「女」が「女」を調査する
ネイティヴ・エスノグラフィー「内部者」の視点から調査する
当事者研究「自分自身でともに」見いだす
アクション・リサーチ協働を通して現場を変革する
チーム・エスノグラフィー他者とともに調査することで自らを知る
■コラム チームでの実践を振り返る
ライフストーリー個人の生の全体性に接近する
オートエスノグラフィー調査者が自己を調査する
オーディエンス・エスノグラフィーメディアの利用を観察する
マルチサイテッド・エスノグラフィーグローバルとローカルを繋ぐ
第三部 応用研究
アイデンティティ「なる」「する」様態に迫る
ジェンダー・セクシュアリティ男/女の線びきを問いなおす
人種・エスニシティ越境する人々の意味世界を理解する
学校教師と生徒のまなざしを明らかにし、変えていく
医療・看護病いとケアの経験を記述する
障害経験される世界に接近する
生/ライフ「生き方」を主題化し表現する
社会運動・ボランティア「参与」しながら観察する
メディア・大衆文化メディアが受容される文脈をさぐる
第四部 フィールドで出会う問題
調査の説明と同意 フィールドに入るときに
権力 フィールドのただなかで
親密性 フィールドのただなかで
守秘義務と匿名性 フィールドを後にするときに
利益 フィールドで得たもののゆくえ
■フィールドからの声
話してもらえる私になる
若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。