書評
「とても幸せ」な中高生。でも、幸せならいいのか。
古市憲寿氏は、ゆとり教育の成果と評価し、「こんなに願い通りにいい子に育っているのに、政治家は教育に対して何をしたいのか」と述べる。同時に、今後「失われた20年」のフリーターたちが親世代になったとき、このようにうまくはいかないと予想している。古市氏は、「スクールカースト」の下位にあっても「下は下で友だちもいるし、そこそこ満足している」と言うのだが、教育学の立場からは、このような「幸せ」に対峙して、基本的信頼に基づいた「支持的風土の幸せ」を示すものでありたい。また、「いい子であるだけでは幸せにはなれない」社会に出ていき、幸せな生涯を過ごすためには、社会のなかで自己発揮するための自我の確立と社会での位置決めを支援する必要がある。
書評
NHK中学生・高校生の生活と意識調査2012
−失われた20年が生んだ“幸せ”な十代−
1,890円(税込)
発売日:2013年06月
著者/編集:日本放送協会放送文化研究所
出版社:NHK出版
自分の十代の頃の授業と自分を思い出して生徒を理解しようとすることは、間違ってはいない。青年期特有の不変の課題は共通しているからである。しかし同時に、今の十代の変化を見ておく必要がある。この調査は、「荒れる学校」が社会問題になった82年から、87年、92年、02年と行われてきた。
「とても幸せだ」(中学生55%、高校生42%)とする生徒が、この10年で過去最高の増加率を示した。勉強へのモチベーションも向上した。同書で、古市憲寿氏は、ゆとり教育の成果と評価し、「こんなに願い通りにいい子に育っているのに、政治家は教育に対して何をしたいのか」と述べる。同時に、今後「失われた20年」のフリーターたちが親世代になったとき、このようにうまくはいかないと予想している。
古市氏は、「スクールカースト」の下位にあっても「下は下で友だちもいるし、そこそこ満足している」と社会学の立場から分析する。しかし、教育学の立場からは、このような「幸せ」に対峙して、「支持的風土の幸せ」を示さなければならない。また、「いい子であるだけでは幸せにはなれない」社会に出ていき、幸せな生涯を過ごすためには、社会のなかで自己発揮するための自我の確立と社会での位置決めを支援する必要がある。
「思い切り暴れ回りたい」を「まったくない」とする回答が82年19%から、12年69%にまで増加した。親にも反抗せず、仲がよい。80年代に「荒れる学校」で育った教師は、このような「多数派生徒」の良さを生かしつつ、小さくまとまらせずに育てることを考えなければならない。
10年ぶりの全国調査から読み解く
「新しい十代像」
中高生の9割以上が自分を幸せだと思っているのはなぜか。30年間における生活と意識の変化を分析、いまどきの中高生が抱く幸福感の背景を探っていく。
◎インタビュー/古市憲寿(社会学者)、菊池桃子(タレント、戸板女子短大客員教授)、尾木直樹(教育評論家)
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
中高生の9割以上が幸せと感じているのはなぜ?10年ぶりの全国調査から読み解く「新しい十代像」。
【目次】(「BOOK」データベースより)
序章 “幸せ”な中高生を育てた日本ー調査の概要と時代背景/第1章 楽しい学校に潜むいじめ/第2章 ネットでつながる身近な友だち/第3章 成績は親に左右される?/第4章 イマドキ男女の役割分担/第5章 中高生が幸せな理由/第6章 ネットでつながる“幸福”な中高生ー「2013年春の研究発表とシンポジウム」より
NHK中学生・高校生の生活と意識調査(2012)
失われた20年が生んだ“幸せ”な十代
平成 24 年 12 月
「中学生・高校生の生活と意識調査・2012」について
いじめが再び社会問題化した 2012 年夏、NHKは全国の中高生と親を対象にした「中学生と高校生の生活と意識調査」を実施しました。調査は、1982 年、’87 年、’92 年、2002 年に続き 10 年ぶり5回目で、学校生活、友だちや親との関係、心理状態、社会観などの幅広い質問領域と時系列比較から中高生の生活と価値観をとらえることを目的としています。
【参考】中高生の生活と意識調査2012調査結果概要
【参考】中高生はなぜ「幸福」なのか 参考論文
若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。