書評
ICTが求める教育の転換
ICTには次のような大きな魅力がある。生徒のなじんでいる言語(メディア)で語りかけられる。(生徒会等)多忙な生徒の時間の自己管理を助ける。自己の理解度や学力に応じて進行管理できる。つまずいている生徒を助ける。生徒と教師及び生徒間の関与を増やせる。教師の生徒理解を深める。学習の個別化をもたらす。教室の透明性を高め、保護者自身の学習や学校への態度が変わる。そして、次のような点で、教育観の転換が行われる。生徒「みんな」が同様な学習成果をあげるということはありえない。学習は本質的に「個人的事象」であるのだから。能力別指導が、ICT活用により個人別指導にまで下りてきて、その上で生徒間協働が図られる。さらに、そこでは、教師対学習者、学習者対学習者の双方向の対話という普遍の要素が求められる。
書評
ジョナサン・バーグマン、アーロン・サムズ
反転授業
出版社: オデッセイコミュニケーションズ
発売日: 2014/5/20
1620円
本書の監修者山内祐平氏らは、昨年10月、東京大学で「反転学習社会連携講座」を開設した。翌11月、武雄市教育委員会は小学校でのICT環境整備による反転授業試行を発表した。現在、全国の教師がSNSを通して、スキルやコンテンツ共有の活動を行っている。
反転授業は一般に「説明型の講義など基本的な学習を宿題として授業前に行い、個別指導やプロジェクト学習など知識の定着や応用力の育成に必要な学習を授業中に行う教育方法」を指す。山内氏らは、「従来の授業では学習内容の説明に授業時間の大半を使うため、個別指導や協調学習など教員や学習者同士の相互作用的な活動に十分な時間を確保することができなかった」とし、「従来の授業相当分の学習をオンラインで授業前に行うことで、知識の定着や応用力の育成を重視した対面授業の設計が可能になる」と主張する。
本書では、次の通りそのメリットを挙げている。生徒のなじんでいる言語(メディア)で語りかけられる。(生徒会等)多忙な生徒の時間の自己管理を助ける。自己の理解度や学力に応じて進行管理できる。つまずいている生徒を助ける。生徒と教師及び生徒間の関与を増やせる。教師の生徒理解を深める。学習の個別化をもたらす。教室の透明性を高め、保護者自身の学習や学校への態度が変わる。
評者は、次のことを再認識すべきと考える。生徒「みんな」が同様な学習成果をあげるということはありえない。学習は本質的に「個人的事象」であるのだから。能力別指導が、ICT活用により個人別指導にまで下りてきて、その上で生徒間協働が図られる条件が整いつつあると感じる。
商品の説明
内容紹介
2000年代後半から米国の初等中等教育を中心に反転授業というキーワードが草の根で広がり、教育関係者の間で注目されている。反転授業は一般に「説明型の講義など基本的な学習を宿題として授業前に行い、個別指導やプロジェクト学習など知識の定着や応用力の育成に必要な学習を授業中に行う教育方法」を指す用語である。
従来の授業では学習内容の説明に授業時間の大半を使うため、個別指導や協調学習など教員や学習者同士の相互作用的な活動に十分な時間を確保することができなかった。反転授業では、従来の授業相当分の学習をオンラインで授業前に行うことで、知識の定着や応用力の育成を重視した対面授業の設計が可能になる。2012年頃から徐々に日本の教育関係者の間でも反転授業に対する関心が高まり、その流れは高等教育や企業内教育にも拡がりつつある。
-序文より-
著者について
ジョナサン・バーグマン(Jonathan Bergmann)
高校教員、専門は科学。「私のクラスの私の生徒たちにとって何がベストか」─
教育に携わる者はこの問いを指針として胸に掲げるべき、という信念のもと、25年のキャリアを通じてその問いの追求に心を砕いている。2002年に数学および科学教育部門でプレジデンタル・アワード・フォー・エクセレンスを受賞。2010年にはコロラド・ティーチャー・オブ・ザ・イヤーで最終選考まで残った。現在はイリノイ州ケニルワースのジョセフ・シアーズ・スクールでリード・テクノロジー・ファシリテーターを務めている。3人のティーンエイジャーの子を持つ父として、妻とともに充実した人生を送っている。
アーロン・サムズ(Aaron Sams)
2000年より教職に携わる。2009年に数学および科学教育部門でプレジデンタル・アワード・フォー・エクセレンスを受賞。コロラド州学習指導要領の科学科目で改正委員会副会長を務めた。妻と3人の子どもとの時間を大事にするため、定期的に電子機器の電源をオフにする習慣があり、電子機器に縛られて家族などとの時間を確保できない人びとに「電源オフの日曜日(アンプラグド・サンデー)」の導入を推奨している。コロラド州バイオラ大学で生化学の理学士と教育学の修士号を修める。現在はコロラド州ウッドランド・パークで科学専門の担任教師を務める。
『反転授業』表紙
科学教師のジョナサン・バーグマン氏とアーロン・サムズ氏は、2007年から米国コロラド州にあるウッドランド・パーク高校で、講義画像を使った授業を開始。その授業を「Flipped Classroom(反転授業)」と呼んでいたところ、メディアが取り上げて名前が一般に広まったという。
『反転授業〜基本を宿題で学んでから、授業で応用力を身につける』は、反転授業の導入効果や実践方法、さらに発展させた”反転型完全習得モデル”など、2人のノウハウを凝縮。特に動画の作成方法や、生徒をいかに評価するかというキーになる部分は、それぞれ10ページ以上を割いて紹介している。
また、自宅にコンピューターのない生徒にどう対応するべきか、学校の賛同をどのように取り付けるのか、やる気のない生徒はどうすればいいのかなど、反転授業の導入校が直面しがちな課題について解説するなど、実用的な内容になっている。
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