書評
不透明社会における若者の生き方とその支援
「不透明社会」において、明るい未来をまったく期待できない若者たちが、未来のために努力するより現状を楽しみたいという志向性を持つのは当然だという他の社会学者の見解に対して、氏は「それでも、彼らはこの不透明な道を歩いていかなければならない」と指摘する。卒業後も不透明社会を生きていく生徒に対して、「学校で友達といる今が楽しい」だけでなく、予測がつきにくい社会の中であっても自己の位置決めをして卒業していけるよう支援する必要がある
書評
片桐新自
不透明社会の中の若者たち
大学生調査25年から見る過去・現在・未来
2,160円(税込)
発売日:2014年07月
関西大学出版部
片桐氏は、若者が「新人類」と呼ばれていた頃の1987年から、「ゆとり教育世代」の2012年まで、5年おきに大学生調査を行ってきた。本書では、おもに関西4大学文系学生652人に対して実施した2012年調査結果を分析している。
性別役割については、結婚したら妻が夫の名字を名乗ったほうがよい、家事育児は女性のほうが向いている、「公平に分担する」より「夫もできるだけ協力」、出産したら仕事をやめる、男らしい・女らしいと言われたら嬉しいなど、保守的傾向が見られた。親子関係については、親のようになりたい、子どものままでいたいなど、反抗期なき若者という傾向が見られた。友人関係では、とくに女子学生の場合は、協調性が重視され、目につきやすい場面で一人でいることのマイナスイメージが大きいなどについて、片桐氏は「つながり世代」の特徴ととらえる。情報源としては新聞、パソコンが減り、スマホが急増した。社会意識としては、とくに戦争の不安について、核戦争が起きる、戦争に巻き込まれるなどとする学生が減った。電車やバスで席を譲る、地域行事に参加しているなどが増えたが、社会運動への参加意欲は減った。氏は、これを「やさしさ世代」の特徴ととらえる。政治意識については、福祉社会よりも、競争社会、統制社会を理想の社会とする学生が増えた。自衛隊の海外派遣、天皇制男性優先継承に賛成、日の丸への愛着心が増えた。生き方としては、生活満足度が向上し、生活目標としては、この十年で「豊かな生活」が減り、「なごやかな毎日」「自由に楽しく」が増えた。「転職はなるべくすべきではない」も増えた。出世意欲が減少し、女子はこの十年で「気楽な地位にいたい」が増え、男子は今回、「遊んで暮らしたい」が急増した。氏はこれを「不透明社会の中のゆとり世代の生き方選択」の特徴ととらえる。
「不透明社会」において、明るい未来をまったく期待できない若者たちが、未来のために努力するより現状を楽しみたいという志向性を持つのは当然だという他の社会学者の見解に対して、氏は「それでも、彼らはこの不透明な道を歩いていかなければならない」と指摘する。卒業後も不透明社会を生きていく生徒に対して、「学校で友達といる今が楽しい」だけでなく、予測がつきにくい社会の中であっても自己の位置決めをして卒業していけるよう支援する必要があると評者は考える。
【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 これまでの調査から語ってきたこと/第2章 調査対象者に関する基本データ/第3章 望ましき性別役割の模索/第4章 反抗期なき若者たちの親子関係/第5章 つながり世代の友人関係/第6章 情報源の変化と社会関心/第7章 やさしさ世代の社会活動/第8章 安定・内向き志向の政治意識/第9章 ゆとり世代の生き方選択
東日本大震災と福島第一原発事故後の、先行きが不透明になった日本社会を大学生たちはどう捉え、どう生きていこうとしているのか。昭和の終わりから四半世紀にもわたって、大学生調査を継続してきた気税の社会学者が、日本社会の過去、現在、未来を、若者の意識と価値観から見通す渾身の一冊。
目 次
はじめに
第1章 これまでの調査から語ってきたこと
第2章 調査対象者に関する基本データ
第3章 望ましき性別役割の模索
第4章 反抗期なき若者たちの親子関係
第5章 つながり世代の友人関係
第6章 情報源の変化と社会関心
第7章 やさしさ世代の社会活動
第8章 安定・内向き志向の政治意識
第9章 ゆとり世代の生き方選択
おわりに
参考文献
付録
あとがき
若者が「新人類」と呼ばれていた1987年から、5年おきに行った
授業内で配布回収した調査結果
若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。