本文へスキップ

若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。

TEL. メールでお問い合わせください

〒165 東京都中野区・・詳細はメールでお問い合わせください

若者論のトレンドCONCEPT

書評

賑やかな対話よりも、沈思黙考の自己内対話を

マイケル・サンデル氏の教育実践「ハーバード白熱教室」で謳われる「対話」では、学生の自由な思考が禁じられ、賑やかな「反応」だけが求められる。それは根源まで考え抜く力を鍛えるべき哲学の授業として、適切ではない。著者は、次のように批判する。1 口頭でのやりとりに限定されている。文章を読み書きする方法は排除されている。2 学生には質問させない。3 学生に考える時間を与えない。考えるのを保留して考える自由は無い。4 何を考え、何を考えないかの制約条件は氏が一方的に決める。評者は、沈思黙考の自己内対話をいかに深めさせるかと言うことが本質的な課題なのだと思う。


書評


宇佐美寛、池田久美子
対話の害
2015/7/7
出版社:さくら社(2015/7/7)

 宇佐美氏は、「ハーバード白熱教室」におけるマイケル・サンデル氏の対話方法を批判し、これに問題意識を感じない教育学界を憂え、本書で教育学の存在意義を示そうとする。発問とは「この問い以外の問いは考えるな」と指示することであり、その正当性はあるのかと言うのだ。他方、「一方的に、予め用意した内容を音声化する」講義という方法についても、「不合理で無意義な教育方法」と言う。「話して聞かせるくらいならば、その内容を各自に読ませればいい」と言う。「なぜ、この目標なのか」、「この目標だと、なぜこの教材、方法なのか」という自覚と文章化を、氏は教師に求めている。
 池田氏は、サンデル氏の対話方法を、@口頭でのやりとりに限定されている、A学生には質問させない、B学生に考える時間を与えない、C何を考え、何を考えないかの制約条件は氏が一方的に決めるとして、「まるで尋問」と批判する。そして、@紙に書いて示す、A質問させる、B考える時間を十分に与える、C説明責任さえ果たせばあとは自由、という自己の授業方法を対峙させる。
 評者は、次のように考える。対話はソクラテス以来の教育の原点である。しかし、それは「やらせ」による賑やかな見せ物としてではなく、生徒間協働を進め、ものの見方、考え方の枠組みを拡大させるためにある。そこでは、生徒の学習と省察を尊重し、教師の教育意図と対等に立ち向かわせることが重要になる。また、たとえばワークショップのなかでも、個人のカード書き作業のなかに沈思黙考の自己内対話機能が見出される。これらを目標と方法の設定、到達度評価に沿って組み合わせることによって、教育は新しい価値を生み出すことができるのだろう。

内容紹介

マイケル・サンデル氏の教育実践「ハーバード白熱教室」で謳われる「対話」。
しかしそこでは学生の自由な思考が禁じられ、賑やかな「反応」だけが求められる…。
それは根源まで考え抜く力を鍛えるべき哲学の授業として、適切なのだろうか?
著者は、次のように批判する。
1 口頭でのやりとりに限定されている。文章を読み書きする方法は排除されている。
2 学生には質問させない。
3 学生に考える時間を与えない。考えるのを保留して考える自由は無い。
4 何を考え、何を考えないかの制約条件は氏が一方的に決める。

外国の「偉い」思想家の言に容易になびく「知的植民地根性」を指摘し、単なる批判に留まることなく教育方法についての無知・無自覚への反省を促す、骨太な教育論。
著者について
宇佐美 寛(うさみ ひろし)
千葉大学名誉教授(教育学博士)
1934年神奈川県横須賀市に生れる。1959年東京教育大学大学院教育学研究科修士課程修了。1961年‐1962年米国、州立ミネソタ大学大学院留学(教育史・教育哲学専攻)。千葉大学講師、同助教授を経て同教授(1993年‐1997年教育学部長)(1998年‐2000年東京学芸大学教授併任)。2000年停年退官。現在、聖母大学・千葉県立野田看護専門学校等の非常勤講師。

池田久美子(いけだ くみこ)
東京生まれ。1974年東京教育大学教育学部教育学科卒業。1978年東京大学大学院教育学研究科修士課程終了。1981年慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位修得満期退学。元信州豊南短期大学教授。現在、三育学院大学講師。専攻は教育哲学、国語教育。


【参考】ワークショップにおける自己内対話機能について・・2006年12月西村美東士「出産・子育ての自己決定能力」を育む大学授業の方法と効果−女子学生(未来の母親)の社会化を支援する技法



バナースペース

若者文化研究所

〒165-0000
詳細はメールでお問い合わせください

TEL 詳細はメールでお問い合わせください

学習目標に社会的要請を組み込む