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書評

社会で生きるということ・・アクティブラーニングの「妙なノリ」に抗して

「アクティブラーニングにおけるノリや協調を嫌う大学生」にしばしば出会う。そういうとき、彼らにアクティブな参加を求めるのは、逆効果にさえなりかねない。なぜなら、資質、成育歴、環境によって、彼らの行動様式が規定されていることが多いからだ。教師は、彼らの良い面を評価し、自己内対話を促して「個」を深め、自尊感情を養うとともに、人間らしい感情に戻れる「癒し」の原点リセット、たとえば動物の世話をするなどの機会を与えることによって、目的的、計画的に社会化支援機能を発揮する必要があるのではないか。そして大切なことをもう一つ、楽しいことはいいことだ。


書評


溝上 慎一 (編集)
どんな高校生が大学、社会で成長するのか―「学校と社会をつなぐ調査」からわかった伸びる高校生のタイプ
出版社: 学事出版 (2015/7/15)

 溝上氏らは、高校生の学習や生活が、大学での学びや社会に出てからの仕事や人生に与える影響を明らかにするため、2013年に全国の高校2年生約4万5千人の回答を得た。その後、大学1、2、4年、社会人3年目の約十年の追跡調査を行うことにしている。
 本書のキーワードは(学校から社会への)「トランジション」(移行)である。「教室外学習」「対人関係・課外活動」「キャリア意識」の重要性が示唆されたという。また、対人関係力の弱い生徒は、知識習得型からアクティブ型への学習の「拡張」についていけないという新たな仮説も提示している。
 溝上氏は、クラスター分析により、勉学、勉学そこそこ、部活動、交友通信、読書マンガ傾向、ゲーム傾向、行事不参加の7タイプを導き出す。勉学タイプは、8割が部活動と両立しており、「よく学び、将来に向けて頑張り、自己成長を実感している」タイプとされる。しかし、大学生については、氏は他著で、社会人調査の結果から、大学在学時に「勉学第一」とした者は、仕事では良い成果を出していないと指摘している。組織での成功のためには、学生時代に「良好な友達づきあい」以上の質の「豊かな人間関係」による、異質な他者からの影響が大きいというのだ。どちらも実感できる話だ。氏は、勉学タイプにおける部活動と学習の両立が、大学生になってからの主体的態度につながるかどうかを、今後の追跡調査の課題としている。評者は、高校生から大学生への「移行」において、部活動の積極性を超えたレベルでの自己開発と社会的関与に関する態度変容が求められるのではないかと思う。

詳細
 本調査の目的は、高校生の学習や生活が、大学での学びや、社会に出てからの仕事や人生に与える影響を明らかにすることである。河合塾の協力により、2013年に全国約千五百校の高校2年生16万人強から4万5千人強の回答を得た。本書では、その分析結果が示されているが、その後、大学1、2、4年、社会人3年目の約十年の追跡調査を行うことになっている。
 本書のキーワードは(学校から社会への)「トランジション」(移行)である。今回のデータと関連する社会人3千人調査の結果などから、移行のためには「教室外学習」「対人関係・課外活動」「キャリア意識」が重要な要素だと、溝上氏は推察する。そして、コミュニケーション力や対人関係力の弱い学生が、今日の知識習得型からアクティブ型への学習の「拡張」についてきていないという新たな仮説も提示している。
 溝上氏は、クラスター分析の結果、勉学、勉学そこそこ、部活動、交友通信、読書マンガ傾向、ゲーム傾向、行事不参加の7タイプを導き出す。交友と通信、読書とマンガが分離しなかったという結果は興味深い。そこで、勉学タイプは、8割が部活動と両立しており、「よく学び、将来に向けて頑張り、自己成長を実感している」タイプとされる。これは実感できる話だ。しかし、大学生については、氏は他著で、大学在学時に「勉学第一」とした者は、社会に出ると良い成果を出していないと指摘している。「良好な友達づきあい」以上の質の「豊かな人間関係」が求められ、異質な他者からの影響が大きいというのだ。これも実感できる。氏は、勉学タイプにおける部活動と学習の両立が、大学生になってからの主体的態度につながるかどうかを、今後の追跡調査の検討課題としているが、評者は、高校生から大学生への「移行」において、部活動の積極性を超えたレベルでの自己開発と社会的関与に関する態度変容が求められるのではないかと考える。
 また、アクティブラーニングについては、キャリア意識の低い生徒は積極的に取り組まないという問題を指摘している。このことについて、評者は次のように考える。評者も、「アクティブラーニングにおけるノリや協調を嫌う大学生」にしばしば出会う。そういうとき、彼らにアクティブな参加を求めるのは、逆効果にさえなりかねない。なぜなら、資質、成育歴、環境によって、彼らの行動様式が規定されていることが多いからだ。教師は、彼らの良い面を評価し、自己内対話を促して「個」を深め、自尊感情を養うとともに、人間らしい感情に戻れる「癒し」の原点リセット、たとえば動物の世話をするなどの機会を与えることによって、目的的、計画的に社会化支援機能を発揮する必要があるのではないか。

内容紹介
自分の頭で考え、自ら進んで行動し、現代社会を生き抜くタフな若者を育てるためにはどうしたらいいのか、教育は何をすればいいのか。高校2年生を10年間に渡って追跡調査する「学校と社会をつなぐ調査」を実施し、大学、社会で伸びていく高校生のタイプを解明する。【キャリア教育/高校教師対象】

★目次より★
序章 なぜ、学校から社会へのトランジション(移行)調査か(溝上慎一)
第1章 生徒タイプの分析から見えてくる高校生の特徴(溝上慎一)
第2章 調査分析から見た高校生の意識の構造(畑野 快)
第3章 ジェンダーの視点からみた高校生の生活と意識(伊佐夏実・知念 渉)
第4章 高校生の生活と意識における地域差(柏木智子)
第5章 島根県立横田高等学校の事例研究(椋本 洋)
第6章 岐阜県立可児高等学校の事例分析(河井 亨、浦崎太郎)
第7章 3つの観点からの考察〜成果シンポジウムにおけるコメントとリプライ〜
第8章 学校と社会をつなぐ調査から見えてくる高校の特徴〜インタビュー〜
高崎市立高崎経済大学附属高等学校/鴎友学園女子中学高等学校/渋谷教育学園渋谷中学高等学校/神奈川県立横浜翠嵐高等学校/三重県立津高等学校/京都市立堀川高等学校/大阪府立茨木高等学校/大阪府教育センター附属高等学校
第9章 実践的な指導のポイント(椋本 洋)
第10章 理論的まとめと今後の課題(溝上慎一)

著者について
溝上慎一(みぞかみ・しんいち):京都大学高等教育研究開発推進センター教授(大学院教育学研究科兼任)、京都大学博士(教育学)。現在は、学校法人桐蔭学園理事長、トランジションセンター所長、桐蔭横浜大学特任教授。
日本青年心理学会常任理事、大学教育学会常任理事、Journal of Adolescence, Editorial Board 委員。公益財団法人電通育英会大学生調査アドバイザー、桐蔭学園教育顧問ほか。専門は、青年心理学(現代青年期、自己・アイデンティティ形成、自己の分権化)と高等教育(学生の学びと成長、アクティブラーニング、学校から仕事へのトランジション)。

【参考】ホームページ溝上慎一の教育論「用語集」



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