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若者論のトレンドCONCEPT

書評

旧帝大卒で一流企業社員の経歴をもつ若年無業者も多い。過去の学校歴社会の観点のままでは、生徒の生涯にわたる個人的、社会的充実を保証する教育は実現できない。

私たちが生きている現在の社会は、若者が仕事を失いやすく、誰もが無業になる可能性があるにもかかわらず、いったんその状態になってしまうと抜け出しにくい社会になっている。これを著者らは「無業社会」と呼んでいる。その一方で、「若者」と「働く」の問題については、感情論で処理されがちである。一人の若者がよい形で社会に(再)参入し、働いていけることは、さまざまな社会課題を構造的に解決するセンターピンであると筆者らは考えている。例えば、私たちの社会が働きたくても働けない若者に無関心であり、彼・彼女らの個人的な問題だと決めつけ続けるなら、その未来は明るいものではない。一人の若者が働くことができないままでいることと、働くことができるようになることのコストギャップは1億5000万円と試算されている。


書評



若年無業者白書2014-2015
−個々の属性と進路決定における多面的分析−
NPO法人育て上げネット 編
出版社: バリューブックス
発売日: 2015/12/12
¥3,780

 NPO法人育て上げネットが提供するサービスを受けた3384名の属性データをもとにした若年無業者の実態調査の報告書である。前白書は2013年に初めて発行された。同テーマを扱った大規模調査は、ほかには見当たらない。
 第1章「若年無業者の経歴による分析」では、選別後の2367名のデータを10代から30代までの年代で区切り、それぞれの職歴、無業期間別に分けて実態を分析している。10代については、実数が百人余りと少なく、自発的な来所も少ない。30代で「正規職で働いていたが、仕事でつまずき退職した後、次の就労に踏み出せないまま無業期間が長期化している若者」については、高学歴層が多いが、中退層も1割近くいる。正規職歴のある他の層が「PCを習いたい」を強く希望しているのに対して、「自分に合う仕事をしたい」「働ける自信をつけたい」を希望(6割強)している。性格については、「対人関係が苦手」(4割強)よりも、「よく真面目だねと言われる」「考えすぎてしまう」という回答(6割前後)が目立つ。学校では、優等生といわれた時期があったのだろうと評者は推察する。
 第2章「支援対象者とアウトカム」では、外に出て友人・知人などと接している人は進路決定できているなどの傾向が示されている。第3章「ジョブトレと地域若者サポートステーションのアウトプット比較」では、育て上げネットが柔軟に運用している有償自主事業「ジョブトレ」(それぞれの悩みや希望に応じた個別的な課題設定に基づいた、グループ行動を基本とする継続的なメニュー)と、仕様が厳格な行政連携事業「サポステ」(地域若者サポートステーション)が進路決定に及ぼす効果を比較している。その結果、限定的なデータからではあるが、有意項目のすべてにおいて「ジョブトレ」に利があることが明らかになった。本書では「サポステの支援に制約をかけている仕様書のあり方」に疑問を投げかけ、「ビハインドを持つ人へポジティブな影響を与える」ジョブトレの意義と課題を提起している。
 同ネットへの来所者のなかには、旧帝大卒で一流企業社員の経歴をもつ若年無業者も多いと聞く。評者は考える。過去の学校歴社会の観点のままでは、生徒の生涯にわたる個人的、社会的充実を保証する教育は実現できない。今日の個人化、流動化社会において、自己発揮するための「生きる力」を育てることこそ、今日の学校教育の役割というべきであろう。この本には、「自分らしく生きる」を超えて、「自分らしさを職業や社会で発揮する」ための支援目標設定のヒントが数多く隠れていると考える。

解説

認定NPO法人育て上げネットが提供するサービスを受けた3384名の属性データを基にした若年無業者の実態調査、第2弾。
2013年に発行した前白書から、さらに詳細な属性分析を行ったほか、日本アイ・ビー・エム株式会社、東京工業大学大学マネジメントセンター西田亮介准教授の協力を受け、無業状態の若者が抱えている課題や困難の客観的なデータ分析を行った。

第1部:若年無業者の経歴による分析
10代から30代まで年齢を区切り、それぞれの職歴、無業期間別に分けた全13群の実態を分析する。
第2部:支援対象者とアウトカム
どのような無業の若者が支援を経て進路決定するのか。支援を経ても支援中断するのはどのような若者なのか。効率的な支援実施のためにデータを分析、考察する。
第3部:ジョブトレと地域若者サポートステーションのアウトプット比較
育て上げネットが柔軟に運用している有償自主事業ジョブトレと、仕様が厳格な行政連携事業「地域若者サポートステーション」の進路決定の可否について意味のある違いがあるかを各項目ごとに分析する。
著者について
◆編者
工藤 啓 育て上げネット 理事長
新宅 圭峰 育て上げネット 事業戦略室 担当部長
◆執筆者
<1章>
新宅 圭峰 育て上げネット 事業戦略室 担当部長
山崎 梓 育て上げネット 事業戦略室
半田 諒志 育て上げネット 事業戦略室(一橋大学社会学部)
<2章>
羽田 忠行 日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 官公庁事業部 シニア・マネージング・コンサルタント
山本 隆之 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクニカル・リーダーシップ 公共・通信クライアントIT推進 アドバイザリー・ITアーキテクト
<3章>
西田亮介 東京工業大学 大学マネジメントセンター 准教授
小野塚亮 慶應義塾大学 SFC研究所 上席所員

筆者からのメッセージ

今回、私たちが取り組み、明らかにしたいことは以下のことです。
1. 三類型から詳細な属性分析へ
2. 若者が抱える「困難度」の計測と支援の拡充
3. 支援現場の意図と実践、アウトカムの可視化

若年無業者三類型(求職型/非求職型/非希望型)をより詳細な属性に分けた分析をします。例えば、「男女」「学歴」「年齢」「無業期間」「暮らし向き」などを考えています。
また、若者が抱える「困難度」の定量的な分析と併せて見ることで、共通する要素が明確になれば、解決はもとより、予防的な取り組みに対しても示唆を得ることができると考えています。今回の白書制作を持って、私たちは政策や制度設計に具体的な「証拠や根拠」を提示します。そして、無業の若者が本当に必要としているサービスを実現していきます。

支援活動が見えづらいという課題を解決すべく
現場に蓄積された英知とデータを可視化

これまで民間の支援現場で行われている「支援活動」の具体的な姿が、なかなか外からわかりづらいという課題がありました。私たちは、ひとつひとつの支援活動の意図と若者支援の実践の理由をうまく説明することができているとは言えません。

そのため、政策や制度設計にかかる審議会や委員会でも、本当に必要なことを具体的に提示できないまま、支援現場でやりづらく、若者にとって不十分なものができあがっています。

今回、引き続きパートナーとして分析に参加していただく西田亮介先生には、「支援現場の意図と実践、アウトカムの可視化」をテーマに、支援現場の暗黙知を分析し、可視化していただくことになりました。既に一人の若者として支援現場の若者と共に支援を受ける体験を長くしていただいております。

経験と勘に証拠や根拠を加えることで、専門性を支える土台形成を行います

対人支援サービスは、ややもすると、属人的かつ匠の世界観が反映されやすくなっています。ひとりひとりの若者は個別の困難を抱えており、対応には経験と勘が大きく影響します。その困難と向き合い解きほぐしていく支援者の支援技術は、いうなれば職人芸のようなものです。

確かにその通りであり、マニュアル対応ですべてうまくいくことはありません。しかし、そこにデータと証拠や根拠が加味されることで、大きな広がりを生み出すこともまた事実です。

これから若者支援に携わる支援者への研修は、経験者が蓄積した経験年数を少しでも短縮できるようにしなければなりません。そうでなければ同じだけの経験年数が必要となり、支援者の底上げには大きな時間を要します。

しかし、個別事例に加え、データの分析があれば、ある程度の支援知識の土台を形成することができます。基礎知識がなければ応用問題は解けません。この基礎部分を少しでもショートカットするためにも、個別事例を量的に網羅した証拠や根拠が欠かせません。

現場での経験と勘に証拠や根拠が加わることで人材育成のスピードが高まると共に、提案や提言の普遍性が担保されます。一人の支援者、一つの団体が独力で解決できることは限られており、専門性の異なる組織や機関との協働はもちろんのこと、社会を創る多くのひとたちに関心を持っていただき、一緒になって社会課題を解決していくためにも、証拠や根拠はなくてはならないものです。


若者支援は社会課題のセンターピン

私たちが生きている現在の社会は、若者が仕事を失いやすく、誰もが無業になる可能性があるにもかかわらず、いったんその状態になってしまうと抜け出しにくい社会になっています。これを「無業社会」と呼んでいます。

その一方で、「若者」と「働く」の問題については、感情論で処理されがちです。一人の若者がよい形で社会に(再)参入し、働いていけることは、さまざまな社会課題を構造的に解決するセンターピンであると私たちは考えています。

例えば、私たちの社会が働きたくても働けない若者に無関心であり、彼・彼女らの個人的な問題だと決めつけ続けるなら、その未来は明るいものではありません。一人の若者が働くことができないままでいることと、働くことができるようになることのコストギャップは1億5000万円と試算されています。

日本では広義の若年無業者が200万人を超えており、コストギャップの額(幅)や対象者数を考えても、若者を支援することは大きな社会投資であることは疑いようがありません。この200万人の若者がよい状況・環境のもとに「働く」と「働き続ける」を実現できる社会をつくりたいと思っています。


翻訳した白書を通じて、海外の若者支援活動に貢献したい

毎年、さまざまな国より若者支援に関わる専門家や研究者、メディアが視察に訪れます。日本の若者が置かれた現状や民間活動を知るためにやってきます。「若年無業者白書」は韓国で翻訳出版されるなど注目されています。

本来、日本の取り組みを海外へ発信することもまた政府の役割かもしれません。しかし、現在は若者支援の専門部局不在により、海外の方も参考にする文献が乏しい状態です。その意味でも、今回制作する白書を英語訳し、政府に変わって日本の若年無業者の実情や分析結果を発信することで、海外の若者支援活動への貢献もしていければと考えています。







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学習目標に社会的要請を組み込む