書評
教育関係者としては、「みんなぼっち」の若者に対して、社会的視野を拡大させるための「ズレ愛」の方策を考える必要があろう。
本書では、若者に無理に共感するのではなく、かといって頭ごなしに否定もしない大人の理想的なスタンスを、「ズレ愛スタンス」と定義する。その内容は、@“誰かが”ではなく“私が”で向き合う、A“集団”ではなく“個”に向き合う、B“上から”ではなく“尊重”、C“Whyなき命令”ではなく“Whyの共有”、D“どちらの論理”ではなく“共通の論理”の5つだと言う。また、若者のなかの「3人の自分」全員から「アリ!」をもらえると、実際の行動まで変わるとして、著者は次の3つを挙げる。「世の中における自分」→いまの世の中の空気と照らしてアリかどうか。「内輪の中の自分」→友だちや身近な人たちからの見え方としてアリかどうか。「純粋な自分」→まわりのことは関係なく自分自身がアリかどうか(=I)。
書評
若者離れ
−電通が考える未来のためのコミュニケーション術−
電通若者研究部編
吉田将英、奈木れい、小木真、佐藤瞳共著
発行株式会社エムディエヌコーポレーション
発売日: 2016/7/29
1620円
若者少数社会では、「量の影響力」が少ないことを理由に若者離れに陥っている。そのため、若者特有の感性やアイデアといった「質の影響力」を社会に還元できずにいる。「わかってもらえている」という安心感や信頼があれば、若者の行動は変わるのに、世の中にあふれる若者論のほとんどが、若者からすれば「わかってない」ととらえられている。
以上の観点から、本書では、若者に無理に共感するのではなく、かといって頭ごなしに否定もしない大人の理想的なスタンスを、「ズレ愛スタンス」と定義する。その内容は、@“誰かが”ではなく“私が”で向き合う、A“集団”ではなく“個”に向き合う、B“上から”ではなく“尊重”、C“Whyなき命令”ではなく“Whyの共有”、D“どちらの論理”ではなく“共通の論理”の5つだと言う。
また、若者のなかの「3人の自分」全員から「アリ!」をもらえると、実際の行動まで変わるとして、著者は次の3つを挙げる。「世の中における自分」→いまの世の中の空気と照らしてアリかどうか。「内輪の中の自分」→友だちや身近な人たちからの見え方としてアリかどうか。「純粋な自分」→まわりのことは関係なく自分自身がアリかどうか(=I)。
若者のコミュニケーションについては、次のように述べる。サークルという「内輪」に閉じてしまうことによって「ほかのことに興味が持てない」「めんどくさい」といった外の社会に対する排他性につながってしまう。さらに、限られたコミュニティであることが、個人にとっての行きづらさにつながる。評者の所属する青少年研究会では、この傾向を「みんなぼっち」と呼んでいる。本書では、サークルの持つWEの居心地の良さをそのままに保ちつつ、新たな社会とのつながりの形と、人とのほどよい距離感をIとして保てる形を両立したサークル用スマホアプリを開発したと言う。教育関係者としては、「みんなぼっち」の若者に対して、社会的視野を拡大させるための「ズレ愛」の方策を考える必要があろう。
目次
はじめに
「電通若者研究部」(通称‥電通ワカモン)とは
1章 いま、若者を考える必要性
1‐1 現代日本における“若者”という存在
1‐2 だからこそ、まずは「対話」から
1章のまとめ
コラム あなたの若者離れ度をチェック!
2章 若者の考察―若者まるわかりクラスター
2−1 若者たちを徹底分析!十人十色の若者たち
コミュニケーションで見た若者まるわかりクラスター
2‐2 “見られている”に規定される若者行動
2‐3 SNSの投稿から見る若者の特徴行動
2章のまとめ
3章 成長してきた環境とその価値観
3‐1 若者目線で見た若者たちが生きてきた時代
3‐2 変化の波@継続する不況と将来の不安 不況生まれ“デフレ育ち”
3‐3 変化の波A人口減少と教育の変化 減り続ける若者の数
3‐4 変化の波B情報環境の変化 コミュニケーション大洪水
3‐5 いまの若者たちが大事にする価値観 WEの時代
3章のまとめ
(対談) 女優松岡茉優×電通若者研究部代表吉田将英
教えて、松岡さん。
自分らしく生きるには?若者と大人が仲良く生きるには?
4章 若者は何を考え、何をしたいのか
4−1 「WEの時代」の自分らしさのあり方とは?
4−2 「世の中」と「若者」の関係性のこれまで
4−3 相対化されきった時代の「自分らしさのあり方」
4−4 「I」の先にある、いまの時代の“若者らしさ”
4−5 「I」の有無で180度変わる若者
4章のまとめ
コラム いまどきの若者あるある
5章 いま、大人に必要な考え方、動き方
5−1 どのように「I」をゆるく肯定できるか
5−2 若者の「I」と向き合うコミュニケーション術
5−3 3人の自分から「アリ!」をもらう
5−4 「I」との対話 コミュニケーションケーススタディ
5−5 フラットに向き合うことの価値
5章のまとめ
おわりに
著者プロフィール
引用・参考文献
若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。