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若者論のトレンドCONCEPT

書評

評者は考える。これをリーダーシップとして、異なる価値観をもつメンバーが共存する「縦の関係」すなわち組織・集団で目的を共有し、実現させるための意欲や能力はどう養えばよいのか。「管理職になりたくない」という若者や壮年が増えているなかで、組織的イノベーションのための協働を自己決定する「個人」の育成を、今後の「社会形成者」育成の重要課題と考えたい。

本書は、イノベーションを起こすためには、「知識の創造と実践」が必要であり、そのために、横の関係(現場リーダーの善い目的や思いを起点とした共創の場づくり)と縦の関係(目的や思いを実現する集合的な実践力)の組み合わせが、組織をつくり動かしていくキーコンセプトになると言う。従来の経営学でいわれてきたような、市場や業界でのポジション取りによる差別化や、組織資源の最大活用に基づく効率化というようなアプローチでは、イノベーションは起こせないとし、対立や葛藤を「あれかこれか」の二項対立ではなく、状況に応じて「あれもこれも」の二項動態のチャンスととらえて乗り越えるよう提唱する。


書評



野中郁次郎 西原文乃 著
イノベーションを起こす組織
革新的サービス成功の本質
2017年7月31日
1,944円

 本書は、イノベーションを起こすためには、「知識の創造と実践」が必要であり、そのために、横の関係(現場リーダーの善い目的や思いを起点とした共創の場づくり)と縦の関係(目的や思いを実現する集合的な実践力)の組み合わせが、組織をつくり動かしていくキーコンセプトになると言う。従来の経営学でいわれてきたような、市場や業界でのポジション取りによる差別化や、組織資源の最大活用に基づく効率化というようなアプローチでは、イノベーションは起こせないとし、対立や葛藤を「あれかこれか」の二項対立ではなく、状況に応じて「あれもこれも」の二項動態のチャンスととらえて乗り越えるよう提唱する。
 第1章は、イノベーションを起こす組織について、キーコンセプトのベースとなる組織的知識創造理論を中心に説明する。第2章は、代表的な事例を紹介しながらキーコンセプトについて解説する。事例編(第3章ー第10章)では、実際に思いをかなえてイノベーションを実現した人たちの「物語り」と、その成功要因を見い出す「解説」で構成する。イノベーションを後から客観的にとらえて因果関係を分析するのではなく、当事者目線での主観的な「物語り」に客観的な「解説」を試みることにより、総合的な価値共創の具体的なプロセスを示している。
 著者は、イノベーションとは知識を新たに創り出すプロセスそのものだと言う。ここで「知識」とは、西洋哲学の知識の定義「正当化された真なる信念(justified true belief)」に基づきつつ、「個人の信念を真善美に向かって社会的に正当化していくダイナミック・プロセス(dynamic social process of justifying personal belief towards truth, goodness, and beauty)」とする。また「プロセス」とは「(1)SECIモデル」で表される組織的な知識創造のプロセスであり、それは「(2)場」で起き、「(3)知創リーダーシップの6つの能力」がそのプロセスを機動的に進める動力である。そして、イノベーションを起こす方法は、一つは「(4)現場リーダーの善い目的や思いを起点とした共創の場づくり(横の関係)」であり、もうーつは「(5)目的や思いを実現する集合的な実践力(縦の関係)」である。
 「(1)SECIモデル」とは、この二つのタイプの知ー形式知と暗黙知ーの相互変換をモデル化し、組織的な知識創造のプロセスを示すものである。4つの象限と、それぞれの象限に描かれた円によって構成される。4つの象限は、それぞれ暗黙知と形式知の相互変換のフェーズとなっている。共感を通して個人の暗黙知を他者の暗黙知に変換して新たな暗黙知を生成する共同化(Socialization)、対話によって個人の暗黙知を複数の他者との間で形式知に変換して概念や仮説にする表出化(Externalization)、関連づけによってグループの形式知を組織の形式知に変換して理論モデル化する共同化(Combination)、モデルの実践を通して組織の形式知を個人の暗黙知に変換して蓄積する内面化(Internalization)の4つである。
 著者は、誰もが、ただ気がついていないだけで、膨大な暗黙知をすでに持っていて、その暗黙知を解き放つことによって形式知を創ることができること、そして、新たな経験を通して豊かな暗黙知を得ることによってさらに新たな暗黙知と形式知を創ることができる、つまり、 暗黙知と形式知の相互変換のプロセスを無限に続けていくことで、次々と新たな知を創ることができると強調する。

 評者は次のように考える。本書には、これまでほかで述べられていたことも混在しているが、貴重な新しい提案も目立つ。とくに、「善い」目的や思いを起点とした共創の場づくりというリーダーシップのあり方は、教育的価値としても、最近の若者の志向性としてもなじみがよいと考えられる。ただし、これをリーダーシップとして、異なる価値観をもつメンバーが共存する「縦の関係」すなわち組織・集団で目的を共有し、実現させるための意欲や能力はどう養えばよいのか。「管理職になりたくない」という若者や壮年が増えているなかで、組織的イノベーションのための協働を自己決定する「個人」の育成を、今後の「社会形成者」育成の重要課題と考えたい。

[本の紹介]
―「優れたサービスをつくりとどけるしくみ」を、「共創の場づくり」と「集合的な実践力」で解き明かす ―

画期的なサービスを生み出し成功させた組織を徹底取材し、どのような思い、出会いで生み出し、気づきや挑戦、試行錯誤、創意工夫を経て実現できたのかを分析、「イノベーションを起こす組織」の本質を具体的、かつ分かりやすく解き明かします。

■本書の特徴
優れたサービスを創生し成功に導いたサービス提供事業者の「サービス創生過程」「組織形態」を、ドキュメンタリー形式の「物語り編」と講義形式の「解説編」の2部構成で徹底解説します。
その過程で「イノベーションを起こす組織」の要素である(1)SECIモデル、(2)場、(3)知創リーダーシップの6つの能力、(4)現場リーダーの善い目的や思いを起点とした共創の場づくり、(5)目的や思いを実現する集合的な実践力について、具体的に示します。

■本書の目的
本書の目的は、イノベーションを実現する方法、言い換えれば、知識を創造し実践する方法を具体的に指し示すことである。
では、その方法とは何か。
先走りを恐れずに答えを提示してしまうなら、「現場リーダーの善い目的や思いを起点とした共創の場づくり」と
「目的や思いを実現する集合的な実践力」となる。(「はじめに」より)

■登場するサービス提供事業者
 ・旭川市旭山動物園:「動物たちのいのちの輝き」を伝えたいという共有された
  思いを実現する共創の場づくりを実現
 ・日本食べる通信リーグ:食べることを核として、生きる実感と人との関わりを,
  つくる生産者と消費者によるコミュニティを創出
 ・株式会社ラクーン:流通業界の売り手と買い手の両方をハッピーにする
  ソリューション提供の場を創出
 ・株式会社フォレストコーポレーション:お客様が心の底から喜ぶ価値を、
  地域の知恵と伝統を生かし、創意工夫を凝らして提供
 ・有限会社兵吉屋:地域の伝統の継承と活性化への強い思いを基盤にした
  観光サービスとしての海女小屋レストランを創出
 ・株式会社リブネット:より良い読書経験の提供を通じて子供たちの考える力や
  感じる力を育み、強い思いで次世代人材を育成
 ・医療法人ゆうの森:僻地でも安心して暮らせ最期は自宅でも迎えられる、
  地域住民の生活の質を保証する在宅医療サービスを提供
 ・九州産交バス株式会社:現場リーダーの善い目的や思いを起点とした、
  共創の場づくりを実現

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1部 イノベーションを起こすプロセスの理論的な枠組みを知る(組織的知識創造こそがイノベーションを起こす/JR九州に見る「イノベーションを起こす組織」)
第2部 事例で見る「共創の場づくり」と「集合的な実践力」(予想外の出会いが、地域への強い思いと挑戦を導く/患者や家族との感情の共有が、「真善美」を引き出す/顧客に寄り添う現場のアイデアが、情緒的価値を生む/「よそ者」の思い切りが、好循環の仕組みをつくる/思いや目的の共有が生む現場力の凄み/人と人をつなぐ共感共鳴が、日本各地での活動に広がる/強い思いと大胆な行動力が、追随されない組織をつくる/社長が創発したサービスを社員一丸で改善)
第3部 知識を知恵に錬磨してイノベーションを起こそう(革新的サービス成功の本質)




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