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書評

 ときの教育政策に振り回されて、卒業までの教育に追い回される。これでは教育は創造の楽しさを失ってしまう。学校からのトランジション後の生涯の充実を目指すとともに、二、三十年後の社会に向けた価値をともに創り出す、そこにこそ改革とALの神髄と楽しさがあると言えよう。

 講義を受けるとなると、ノートを取るなど、いかにも講義を聞いているように見える「身体化」が生徒には確立されている。これに対して、AL(アクティブラーニング)では集中度が低い。そのため、教師には「講義の方が良い」という本音がある。このような「従来の教授学習の枠組み」を、その外にある「仕事・社会へのトランジション(移行)」につなぎ直すよう著者は提唱する。


書評




溝上慎一(著)
アクティブラーニング型授業の基本形と生徒の身体性
2018/3/1
出版社:東信堂
1080円

 講義を受けるとなると、ノートを取るなど、いかにも講義を聞いているように見える「身体化」が生徒には確立されている。これに対して、AL(アクティブラーニング)では集中度が低い。そのため、教師には「講義の方が良い」という本音がある。このような「従来の教授学習の枠組み」を、その外にある「仕事・社会へのトランジション(移行)」につなぎ直すよう筆者は提唱する。「主体的・対話的で深い学び」というALについても、県や学校によって相当な温度差があり、格差が生まれている。二〇三〇年、二〇五〇年社会を乗り越える準備である改革に対応できない学校に対して、筆者は警鐘を鳴らす。「(関係者の無知により)県や地域、学校が衰退していくのは勝手だが、そこに居住し、大人になっていく子ども・若者の未来が危ぶまれるのには心が痛む」。そして、進学実績や就職率に一喜一憂するのではなく、ALに適した目標設定とアセスメントが必要だと言う。
 AL改革の喫緊の課題は、「一方通行的な知識伝達型としての講義型を講義+AL型授業に転換すること」であり、そのことによって、主体的学習は、面白さなどの即自的な「課題依存型」から「自己調整型」、そして自身を認知する対自的な「人生型」へと深まると筆者は言う。
 評者は考える。ときの教育政策に振り回されて、卒業までの教育に追い回される。これでは教育は創造の楽しさを失ってしまう。学校からのトランジション後の生涯の充実を目指すとともに、二、三十年後の社会に向けた価値をともに創り出す、そこにこそ改革とALの神髄と楽しさがあると言えよう。

目次 :
第1章 アクティブラーニング型授業における教師と生徒の関係性((山形県立)庄内総合高等学校/ 庄内総合高等学校の改革のリーダー ほか)
第2章 アクティブラーニング型授業の基本形とさまざまな創意工夫(アクティブラーニング型授業における教師と生徒の関係性をつくる、アクティブラーニング型授業に即した生徒の身体化を促す/ 個‐協働‐個/内化‐外化‐内化の学習サイクルをつくる ほか)
第3章 よく思い出す技ありの名場面集(ICTを利用して生徒のワークをその時間内でフィードバックする/ 「立ってワークをおこない終えたら座る」をもう一歩進めて ほか)
第4章 文科省施策「社会に開かれた教育課程」をよくよく理解して(変わる日本社会と学校教育/ 「変わる日本社会」の前提を理解しない学校現場 ほか)
第5章 主体的な学習をそもそも論から理解する(主体的とは/ 主体的な学習とは ほか)

【著者紹介】
溝上慎一 : 1970年1月生まれ。大阪府立茨木高等学校卒業。神戸大学教育学部卒業、1996年京都大学高等教育教授システム開発センター助手、2000年講師、2003年京都大学高等教育研究開発推進センター助教授(のち准教授)。2014年より教授。大学院教育学研究科兼任。教育アセスメント室長。京都大学博士(教育学)。日本青年心理学会常任理事、大学教育学会常任理事、『青年心理学研究』編集委員、“Journal of Adolescence” Editorial Board委員、公益財団法人電通育英会大学生調査アドバイザー、学校法人桐蔭学園教育顧問、中央教育審議会臨時委員、大学の外部評価・AP委員、高校のSGH/SSH指導委員など。日本青年心理学会学会賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)







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