書評
同書は、定期試験期間中でもシフトを入れられてしまう「ブラックバイト」に対して、「自分がいないと店がまわらない」と考え、断れない責任感のあるまじめな生徒の例を挙げる。たしかに、学習意欲が高い生徒に対しては、解決してやりたい。だが、学習意欲がわかないまま、定期試験のみに追い回される生徒に対しては、より本質的な支援が必要と評者は考える。彼らが社会に出てから、個人として、社会人として、充実して生きていけるかどうかこそ重要であろう。彼らには、試験勉強にあくせくさせることよりも、たとえバイトにおいても相互受容できる関係を持ったり、社会的な広い視野からものを見たり、考えたりできるような力を育むことこそ、本質的な教育目的とすべきではないだろうか。
「7人に1人」の「貧困状態」の高校生にとって、生活費を稼ぐためのダブルワークは当たり前で、毎日兄弟の世話や家事をこなし、「多重債務」を背負う危険もある。そのほとんどは「家族のため」に働いており、決して後ろ向きに生きているのではない。そして、最新ファッション(じつは低価格なファストファッション)にスマートフォン(じつはライフライン)が「普通」に見させる点でも、同書は注意を促す。同書は、「見えない貧困」について、困窮度を4段階に分類し、さらには貧困研究の先進地であるイギリスで開発された「剥奪指標」(欠如した権利)を用いて、これを可視化する取り組みを紹介する。その結果、@物的資源=生活に必要な「物」、Aソーシャルキャピタル=人とのつながり、Bヒューマンキャピタル=教育や経験の3つの欠如を指摘する。
書評
NHKスペシャル取材班 (著)
高校生ワーキングプア −「見えない貧困」の真実
出版社: 新潮社
発売日: 2018/2/16
「7人に1人」の「貧困状態」の高校生にとって、生活費を稼ぐためのダブルワークは当たり前で、毎日兄弟の世話や家事をこなし、「多重債務」を背負う危険もある。そのほとんどは「家族のため」に働いており、決して後ろ向きに生きているのではない。そして、最新ファッション(じつは低価格なファストファッション)にスマートフォン(じつはライフライン)が「普通」に見させる点でも、同書は注意を促す。
同書は、「見えない貧困」について、困窮度を4段階に分類し、さらには貧困研究の先進地であるイギリスで開発された「剥奪指標」(欠如した権利)を用いて、これを可視化する取り組みを紹介する。その結果、@物的資源=生活に必要な「物」、Aソーシャルキャピタル=人とのつながり、Bヒューマンキャピタル=教育や経験の3つの欠如を指摘する。
同書は、定期試験期間中でもシフトを入れられてしまう「ブラックバイト」に対して、「自分がいないと店がまわらない」と考え、断れない責任感のあるまじめな生徒の例を挙げる。たしかに、学習意欲が高い生徒に対しては、解決してやりたい。だが、学習意欲がわかないまま、定期試験のみに追い回される生徒に対しては、より本質的な支援が必要と評者は考える。彼らが社会に出てから、個人として、社会人として、充実して生きていけるかどうかこそ重要であろう。彼らには、試験勉強にあくせくさせることよりも、他者と相互受容できる関係を持ったり、社会的な広い視野からものを見たり、考えたりできるような力を育むことこそ、本質的な教育目的とすべきではないだろうか。
紹介
日本の子どもの「7人に1人」が「貧困状態」。
働かなければ学べない。その実態に迫る!
学費のみならず、生活費を稼ぐためダブルワークは当たり前。
もらいものばかりの家では、親に代わりきょうだいの世話や
家事をこなす毎日。成績優秀でも学費が賄えず、多額の奨学金を
はじめ「多重債務」を背負う危険性も……。
最新ファッションにスマートフォン、一見すると、普通の彼らが
直面する「見えない貧困」の実態を炙り出す一冊。
はじめに
序章 働かなければ学べない
高校生が抱える悩み
『ワーキングプア』から10年
子どもの貧困が本格化している
日本の子どもが危ない
「高校生」が分水嶺になる理由
「いつまでも中流だと思いたい」団塊ジュニアの悲哀
第一章 家計のために働く高校生たち
「働くのは当たり前」
大黒柱になった女子高生
彼女が働く理由
「高校生ワーキングプア」のリアルな一日
自慢のお姉ちゃん
事故に遭う
それでも「家族を守りたい」
進学──夢への第一歩
第二章 奨学金という“借金"を背負って進学する高校生たち
高校で開かれる奨学金の説明会
生徒の6割が奨学金を申し込む
「奨学金は借金です」
2人に1人が奨学金を借りる時代
高卒求人の激減
手続きで浮かんだ「見えない貧困」
「奨学金が返せない」非正規労働で働く若者たち
奨学金=借金800万円を背負う
親には相談できない
入学金が払えない?
給付型奨学金が導入されても……
奨学金返済で結婚や出産ができない、ほか
第三章 アルバイトで家計を支える高校生たち
普通に見える高校生が……
生活費のために働く高校生が51%
「働くことが多くてしんどい」
アルバイトで成績が下がった
高校生の「生活困窮」に気づかない教師たち
貧困の再生産を繰り返させないために、ほか
第四章 「子どもの貧困」最前線を追う
子どもたちの「見えない貧困」
貧困を見せないようにする
もらいものに囲まれた生活
足りないものは何ですか?
見ようとしないと「見えない」
社会的損失40兆円の衝撃
「頑張らない自分のせい」=自己責任論
スマートフォンがライフライン
大人にさせられた子どもたち
子どもを守りたい親たちの苦しみ、ほか
第五章 「見えない貧困」を可視化する
貧困を可視化する大阪府の実態調査
子どもたちの剥奪指標
3つの欠如
調査から見えてきた「ひとり親家庭」の厳しさ
家事は子どもの仕事
新しい衣服や靴が買えない
「お母さんが好きだから」
子どもたちの声を潰さない社会に、ほか
おわりに
若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。