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若者論のトレンドCONCEPT

書評

 評者は考える。教育は価値創造の活動である。研究者が細分化された検証可能な知見だけを提供してくれても、それだけでは足りないことが多い。教育の現場で試行錯誤して「新しい世界」にチャレンジする必要に迫られる。このようなとき、80歳を超えた学者の思い切った「大きな見解」の提起は、教育に携わる者にとって勇気づけられる。



見田氏は、青年たちの精神の変化を追跡してきた結果を、次のようにまとめる。@「近代家族」のシステム解体と、関連して婚姻主義的な性のモラルの解体、A「生活満足感」の増大と保守化、B〈魔術的なるもの〉の再生。これらは、経済成長課題の完了、これによる合理化圧力の解除、あるいは減圧によって、一貫した理論枠組みのなかで明晰に、統合的に把握することができると言う。見田氏は、20世紀の悲惨な成行の根底に@否定主義、A全体主義、B手段主義を見る。そして、これに対して「新しい世界を創造する時のわれわれの実践的な公準」として、@肯定的であること、A多様であること、B現在を楽しむということの3つを挙げる。そして、「一つの細胞がまず充実すると、他の一つずつの細胞が触発されて充実する」として、最後に「今ここに一つの花が開く時、すでに世界は新しい」と謳い上げる。


書評





見田 宗介 (著)
現代社会はどこに向かうか
――高原の見晴らしを切り開くこと
(岩波新書)
出版社: 岩波書店
発売日: 2018/6/21
¥ 821

 社会学者が80歳になって「短い大著」を書いた。この本の表紙には、次のように書かれている。「曲がり角に立つ現代社会は、そして人間の精神は、今後どのような方向に向かうか。私たちはこの後の時代の見晴らしを、どのように切り開くことができるか。前著から約十年、いま、新しい時代を告げる」。
 見田氏は、青年たちの精神の変化を追跡してきた結果を、次のようにまとめる。@「近代家族」のシステム解体と、関連して婚姻主義的な性のモラルの解体、A「生活満足感」の増大と保守化、B〈魔術的なるもの〉の再生。これらは、経済成長課題の完了、これによる合理化圧力の解除、あるいは減圧によって、一貫した理論枠組みのなかで明晰に、統合的に把握することができると言う。
 見田氏は、20世紀の悲惨な成行の根底に@否定主義、A全体主義、B手段主義を見る。そして、これに対して「新しい世界を創造する時のわれわれの実践的な公準」として、@肯定的であること、A多様であること、B現在を楽しむということの3つを挙げる。そして、「一つの細胞がまず充実すると、他の一つずつの細胞が触発されて充実する」として、最後に「今ここに一つの花が開く時、すでに世界は新しい」と謳い上げる。
 評者は考える。教育は価値創造の活動である。研究者が細分化された検証可能な知見だけを提供してくれても、それだけでは足りないことが多い。教育の現場で試行錯誤して「新しい世界」にチャレンジする必要に迫られる。このようなとき、80歳を超えた学者の思い切った「大きな見解」の提起は、教育に携わる者にとって勇気づけられる。


この本の内容
曲がり角に立つ現代社会は,そして人間の精神は,今後どのような方向に向かうだろうか.私たちはこの後の時代の見晴らしを,どのように切り開くことができるだろうか.斬新な理論構築と,新たなデータに基づく徹底した分析のもとに,巨大な問いに改めて正面から応答する.前著から約十年,いま,新しい時代を告げる.

目次
はじめに

序章 現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと
 1 未来の消失? 現代の矛盾
 2 生命曲線/歴史曲線.「現代」とはどういう時代か
 3 グローバル・システムの危機.あるいは球の幾何学――情報化/消費化社会の臨界
 4 世界の無限/世界の有限.軸の時代T/軸の時代U
 5 高原の見晴らしを切り開くこと

一章 脱高度成長期の精神変容――近代の矛盾の「解凍」
 1 脱高度成長期の精神変容.データと方法
 2 「近代家族」のシステム解体
 3 経済成長課題の完了.「保守化」
 4 魔術の再生.近代合理主義の外部に向かう触手たち
 5 〈自由〉〈平等〉対〈合理性〉.合理化圧力の解除,あるいは減圧
 6 近代の理念と原則の矛盾.封印と「解凍」.高原展望
 補1 合理性,非合理性,メタ合理性
 補2 生活スタイル,ファッション,消費行動――「選ばれた者」から「選ぶ者」へ

二章 ヨーロッパとアメリカの青年の変化
 1 ヨーロッパ価値観調査/世界価値観調査.データと方法
 2 幸福の高原と波乱
 3 「脱物質主義」
 4 共存の地平の模索
 5 共存の環としての仕事
 補 〈単純な至福〉

三章 ダニエルの問いの円環――歴史の二つの曲がり角

四章 生きるリアリティの解体と再生

五章 ロジスティック曲線について
 1 グローバリゼーションという前提――人間にとってのロジスティック曲線1
 2 一個体当たり資源消費量,環境破壊量の増大による加速化――人間にとってのロジスティック曲線2
 3 テ クノロジーによる環境容量の変更.弾力帯.「リスク社会」化.不可能性と不必要性――人間にとってのロジスティック曲線3

六章 高原の見晴らしを切り開くこと
 1 総理の不幸
 2 フリュギアの王
 3 三千年の夢と朝の光景
 補 欲望の相乗性

補章 世界を変える二つの方法
 1 ベルリンの壁.自由と魅力性による勝利.
 2 二〇世紀型革命の破綻から何を学ぶか.卵を内側から破る.
 3 胚芽をつくる.肯定する革命 positive radicalism.
 4 連鎖反応という力.一華開いて世界起こる.

あとがき

著者略歴
見田宗介(みたむねすけ)
1937年東京に生まれる
現在―東京大学名誉教授
専攻―現代社会論,比較社会学,文化の社会学
著書―『時間の比較社会学』*(岩波現代文庫)/『宮沢賢治――存在の祭りの中へ』(岩波現代文庫)/『旅のノートから』*(岩波書店)/『現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来』(岩波新書)/『社会学入門―人間と社会の未来』(岩波新書)/『定本 見田宗介著作集』(全10 巻,岩波書店)/『定本 真木悠介著作集』*(全4 巻,岩波書店)
(*印は,真木悠介の筆名)
編集―『社会学事典』(共編)(弘文堂)/『岩波講座 現代社会学』(共編)(岩波書店)





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