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若者論のトレンドCONCEPT

書評

 評者は考える。教師にとって、現場ならでは、そして自分ならではの仮説を持ち、研究を深めることは、義務であり、喜びといえよう。なかには、教職大学院でさらに研究を深めようとする教師もいるだろう。そのときに大切なことは、「勉強したい」という気持ちをさらに一歩進めて、「世界で唯一の研究をする」という自負を持つことである。その研究は実践から離れては成立しない。多忙とは思うが、教師が一人一学説を携えて、交流し、議論し、その成果を実践に還元する教育活動を夢見ている。




著者は、「研究と勉強の違い」について、次のように述べる。大学院が「研究」をする方法を学ぶところと知らずに、もっと「勉強」したいと入ってしまう大学院生がときどきいる。そんな院生が求められて最初に提出する計画書は、「研究計画書」でなく「勉強計画書」である。本人にとっては、確かに「今まで自分が知らなかったことを明らかにする」計画にはなっているのだが、既に他の人によって明らかにされていることを学び、勉強する計画にとどまっている。勉強と学術研究とは違う。本人だけでなく、それまでの学術研究の蓄積のなかで、知られていなかったこと、何らかの意味で新しいことを明らかにするのが学術研究である。



書評





近藤 克則 (著)
研究の育て方: ゴールとプロセスの「見える化」
出版社: 医学書院 (2018/10/22)
発行 2018年10月
定価 2,700円 (本体2,500円+税8%)

 本書は、医療や福祉の現場で働く社会人を中心に20年にわたる大学院での研究指導の経験から著者が得た、研究のノウハウと指導のポイントをまとめたものである。「研究方法」や「論文の書き方」など研究プロセスの一部を取り上げた本は多い。しかし、初心者が最初に読んで、研究全体の流れや目指すべきもの、各段階で必要となる考え方や進め方など、研究の育て方が1冊でわかる本は意外に少ない。そこで、研究に関する考え方、進め方、論文の書き方など研究に必要な全体像を1冊にまとめたと言う。
 本書の目的は、研究の初心者から中級者を対象に、研究の育て方について、そのゴールとプロセスなどを「見える化」し、コンパクトに伝えることである。よい研究とは何かから、研究テーマの育て方、研究プロジェクトを育てるための助成獲得に向けた計画書、学会発表、ライフワークの育て方まで伝えるべきことは多い。また、それらは研究だけでなく、臨床・実践や学習・教育・研修指導などにおいて、新しいゴールを設定したり、新しい方法を取り入れたりするプロセスにおいても活かせる視点や考え方、手法に満ちていると著者は言う。
 「見える化」としては、「目的が3つあれば結論も3つ」、「優れた文献だけを20〜50本選んで引用する」、「5〜7回は推敲する」という数字が象徴的である。同時に、「よい研究は、質の高い臨床や健康長寿社会の実現のために必要で、普遍的な価値がある」として、社会に開かれた研究の位置づけを示す。
 著者は、「研究と勉強の違い」について、次のように述べる。大学院が「研究」をする方法を学ぶところと知らずに、もっと「勉強」したいと入ってしまう大学院生がときどきいる。そんな院生が求められて最初に提出する計画書は、「研究計画書」でなく「勉強計画書」である。本人にとっては、確かに「今まで自分が知らなかったことを明らかにする」計画にはなっているのだが、既に他の人によって明らかにされていることを学び、勉強する計画にとどまっている。勉強と学術研究とは違う。本人だけでなく、それまでの学術研究の蓄積のなかで、知られていなかったこと、何らかの意味で新しいことを明らかにするのが学術研究である。
 評者は考える。教師にとって、現場ならでは、そして自分ならではの仮説を持ち、研究を深めることは、義務であり、喜びといえよう。なかには、教職大学院でさらに研究を深めようとする教師もいるだろう。そのときに大切なことは、「勉強したい」という気持ちをさらに一歩進めて、「世界で唯一の研究をする」という自負を持つことである。その研究は実践から離れては成立しない。多忙とは思うが、教師が一人一学説を携えて、交流し、議論し、その成果を実践に還元する教育活動を夢見ている。

【説明文】
「研究」に取り組むすべての人に
「総合リハビリテーション」集中講座「研究入門」(2016年1月〜2017年3月掲載:全15回)の書籍化。20年にわたる大学院での研究指導の経験から得た、研究のノウハウと指導のポイントをもとに、研究に関する考え方、進め方、論文の書き方など研究に必要な全体像を1冊にまとめた。初心者でもイメージしやすいように、基礎的な用語解説や具体例を含む「コラム」を用いることで、「研究」の全体像を掴めるようにした。

序 文
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本書の目的は,研究の初心者から中級者を対象に,研究の育て方について,そのゴールとプロセスなどを「見える化」し,コンパクトに伝えることである.
 私は,医療や福祉の現場で働く社会人を中心に,60人余りの大学院生を指導教員として受け持ち,(博士号取得後の)ポスドク研究員(postdoctoral fellow,博士研究員)などの相談にものってきた.そのなかには,学会発表すらしたこともなく漠然と研究に憧れている初心者から,数本の論文を書いた経験はあるが,よい研究とは何かを知りたい人,臨床医から研究者を目指す道に転じるべきか悩む人までいろいろな人たちがいた.
 その人たちの疑問に応えようとすると,研究方法や論文の書き方にとどまらず,よい研究とは何かから,研究テーマの育て方,研究プロジェクトを育てるための助成獲得に向けた計画書,学会発表,ライフワークの育て方まで伝えるべきことは多い.また,それらは研究だけでなく,臨床・実践や学習・教育・研修指導などにおいて,新しいゴールを設定したり,新しい方法を取り入れたりするプロセスにおいても活かせる視点や考え方,手法に満ちている.
 「そんな話は初めて聞きました」と言われたことも少なくない.参考になりそうな本を探してみると,「研究方法」や「論文の書き方」など研究プロセスの一部を取り上げた本は多い.しかし,初心者が最初に読んで,研究全体の流れや,目指すべきもの,各段階で必要となる考え方や進め方など,研究(テーマ/プロジェクト/論文/者)の育て方が1冊でわかる本は,意外なことに(少)ないことに気づいた.
 そこで,以下のような特徴を持つ本書を企画した.

・研究方法論や論文執筆の方法などの「手段」だけでなく,よい研究の条件やライフワークなどの「目的」,研究を学べる場などの「環境」まで,研究に関わる全体を扱う
・一方で,網羅的に書くと,ページ数が増えて通読が困難となる.あくまで初心者が最初に通読して全体像が掴めるようにコンパクトにまとめる
・研究経験が乏しい初心者でもイメージが湧きやすいよう基礎的な用語解説や具体例を使ったコラムをたくさん入れる
・研究の成果物である原著論文の構成(背景,目的,対象・方法,結果,考察,結論)に沿って,何を書くべきかという考え方や構造・枠組み,そしてチェックリストを示す
・「臨床と研究の両立」など今まで受けることが多かった質問への回答も入れる

 本書の読者としては,主に研究に初めて取り組む学部生などの初心者から,大学院進学を考え始めた人,院生を想定している.今までの経験からすると,数本の論文を書いて研究者を目指そうかと迷っている専門職など中級者や研究指導にあたっている人にも役立つ内容が含まれていると考えている.また研究分野や手法によって,それぞれのお作法やガイドラインがあるが,本書では私の経歴を反映し,臨床医や看護師,リハビリテーション専門職などの医療職が取り組む臨床研究や疫学研究における量的なデータ分析手法と,医療ソーシャルワーカーや地域包括ケアに関わる福祉専門職,社会政策など社会科学系の質的な分析手法や地域介入研究まで,多様な研究領域や方法にかかわらず共通する基本的な知識や考え方を紹介できたと思う.
 「研究を研究」した本書によって,「研究の育て方」,そのゴールとそこに至るプロセスが「見える化」され,経験者しか知らない大変さとそれを突き抜けたときの喜びを知る人が増え,根拠にもとづく医療や実践,政策形成とその社会実装が,日本でも進むことを願っている.

 2018年8月
 近藤 克則

【目次】

第1部 総論
 第1章 研究のゴールと研究プロセス
  研究とは何か
  研究の種類
  研究のフェーズ
  研究発表の形と研究水準の高さ
  研究プロセス
  研究力
  まとめ
 第2章 よい研究の条件
  研究の質を決める2つの軸
  よい研究デザインの3条件―意義・新規性・実現可能性
  7種類の新規性
  研究構想を育てる前に
 第3章 研究の種類の選択
  研究の種類を選ぶ
  研究の種類―基礎研究・応用研究・橋渡し研究
  不足している研究人材と学部生研究室配属・社会人大学院のねらい
  意思決定の根拠と研究の位置づけ
  現場での研究の必要性
  理論主導かデータ主導か
  研究の種類選択のときに気をつけるべきこと
 第4章 論文の種類
  論文の種類
  院生や研究者を目指す人が書くべき論文はどれか

第2部 構想・デザイン・計画立案
 第5章 研究テーマの育て方
  何を決めなければならないのか
  研究テーマの大きさと俯瞰図
  博士論文・研究者を目指す人のテーマの育て方
  初心者における研究テーマの育て方
  初心者は相談を
 第6章 研究構想・デザイン・計画
  着想から計画まで
  構想や仮説を育てるための関連要因図
  よい計画書とは
 第7章 原著論文の構成
  原著論文の構成・構造
 第8章 背景と文献レビュー
  「背景」の構造と書くべきこと
  レビューですべきこと
  まとめ
 第9章 目的
  「目的」に書くべきこと
  リサーチ・クエスチョンと仮説の違い
  よいリサーチ・クエスチョンの条件
  よい検証仮説の条件
  まとめ
 第10章 対象と方法
  同じ目的でも達成する方法はいろいろ
  「方法」の構成
  研究デザインとセッティング
  対象
  方法
  研究倫理
 第11章 採択される研究助成申請書の書き方
  研究助成を得るメリット
  研究助成の探し方
  主な公的研究費助成団体と研究費の種類
  科学研究費補助金(科研費)の審査方法
  研究助成申請書作成上のポイント
  不採択になる研究計画書の共通点と対策
  ないのは研究費だけ
 第12章 研究倫理に関する指針
  ヘルシンキ宣言
  日本における医学研究に関する指針
  まとめ

第3部 研究の実施・論文執筆・発表
 第13章 データ収集
  重要な予備的調査・実験・分析
  データ収集
 第14章 データ分析
  記述統計とデータクリーニング
  2次データ・分析
  3次分析
  研究目的達成に向けた(4次)分析
  主な所見のまとめ
 第15章 期待した結果が得られないとき
  仮説を巡る問題
  分析上の問題―「見かけ上の関連」でないか
  データの問題
  まとめ
 第16章 結果の記述
  主な結果の示し方
  言葉を選ぶ
  図表の活用
  まとめ
 第17章 考察・結論の考え方・書き方
  考察の目的・位置づけ
  分析に有用な視点・ツール
  考察の書き方とチェックリスト
  結論の考え方・書き方
  まとめ
 第18章 共著者・謝辞・文献リスト
  共著者の決定
  謝辞(Acknowledgment)
  文献リスト
 第19章 全体の推敲と要旨
  全体の推敲
  要旨の書き方
  まとめ
 第20章 研究発表―学会発表
  学会発表の事前準備―発表資料・リハーサル・Q & A
  学会発表の当日
  まとめ
 第21章 研究発表―論文発表
  学会発表と論文の位置づけ
  論文掲載までのプロセス
  まとめ

第4部 研究に関わるQ & A
 第22章 研究を学べる場の条件
  寄せられた質問から
  「学びの共同体」が必要
  研究「方法」を知るだけでは研究はできない
  大学院の勧め
 第23章 臨床と研究の両立
  臨床と研究のスペクトラム
  臨床家が研究することの意義
  臨床と研究の両立のためのタイムマネジメント
  重要性と緊急性からみた優先順位
  ポートフォリオの勧め
  まとめ
 第24章 研究者の成長プロセス,ライフワーク
  4段階の成長プロセス
  研究者のライフワーク
  まとめ

巻末資料
 STROBE声明(要旨)

あとがき―私のポートフォリオ
索引

コラム
 (1)研究活動とは
 (2)研究と勉強の違い
 (3)技術論の3段階
 (4)理論は仮説から始まる
 (5)2つの妥当性―内的妥当性と外的妥当性
 (6)下村教授のノーベル賞
 (7)研究の意義
 (8)パラダイム(認識の枠組み)の重要性
 (9)実装科学・橋渡し研究
 (10)新しい科学
 (11)査読制度
 (12)「悩む」ことと「考える」こと,問題解決プロセス
 (13)臨床研究デザインに有用なフレームワーク
 (14)おいしいミカン
 (15)医学雑誌における学術研究の実施・報告・編集・出版のための勧告
 (16)批判的吟味とエビデンスレベル
 (17)ピクセル(画素)によるたとえ話
 (18)95%信頼区間
 (19)平均年齢や回収率を記載するのは,方法それとも結果
 (20)変数の呼称
 (21)標準化された尺度
 (22)尺度の種類
 (23)私の経験―研究助成獲得と審査委員
 (24)見落とされていた温度条件
 (25)異常値や外れ値発生の原因
 (26)理論仮説の適用限界とメタ認知
 (27)バイアスによる「見かけ上の関連」の一例
 (28)多重共線性(multicollinearity)
 (29)高度な統計解析手法―傾向スコア・多重代入法
 (30)p値よりも実数を知りたい
 (31)栗ようかん・串だんご・ネコのお尻
 (32)研究者の説明がわかりにくい理由
 (33)3色だんご
 (34)「ない」ことも情報になる
 (35)引用・転載許諾
 (36)謝辞の書き方―科学研究費補助金の記載例
 (37)インパクトファクター
 (38)文献欄の書き方の例
 (39)長い文章だとわかりにくくなる
 (40)添削前の論文要旨
 (41)添削の視点・修正した理由
 (42)添削後の要旨
 (43)ポートフォリオ登場の背景






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