書評
評者は考える。社会の一員を育てようとする学校教育の立場からは、親子関係回復による本質的解決を望めないケースも多くあるだろう。なかには、狭い社会的視野から、社会参加の意欲もなく、世間体ばかり考えて、わが子を追い詰める親もいるだろう。親への社会教育や生徒を親から守ると言う社会的養護の視点が求められる。しかし、その際、SOSを発する生徒たちに対して、「やすらぎの中で治ったものはぶり返さない」という個人ケアの視点を忘れてはならない。
桝田氏は、最初に着手すべきは就労・就学支援ではなく「何よりも先に親子関係を回復させる」ことと言う。このような親子の愛着を重視する心理学の知見に基づき、次の5つのプロセスとして、ひきこもるわが子への考え方や回復への全体像を解説する。@希望=絶望状態から、わが子の心に「希望の灯」がともるように親は一貫性を持って支える時期。A意思=ネガティブを基本とした陰陽混合する感情を親がしっかり聴き取る。B目的=心の中に湧き上がってくる「やってみたい」という欲求に基づき、少しずつチャレンジがはじまる。C有能性=実際に他者や集団の中に身をおき、勤勉に何かに取り組む自分の有能感と劣等性のバランスに直面し、葛藤する時期。Dアイデンティティ=「自分が自分で良い」そして「社会や他者からもそんな自分(あなた)で良いと思われているであろうという確信」を持つ。すなわちアイデンティティの獲得に取り組んでいく時期。
本書は、そのつど生じやすい問題と具体的な取り組み方、ひきこもりの状態像、異口同音に発せられるひきこもり青年の言葉の裏側にある意味と理解の仕方などを、親が読んで理解して取り組めるように書かれている。
書評
親から始まるひきこもり回復−心理学が導く奇跡を起こす5つのプロセス
単行本(ソフトカバー)
2019/4/4
桝田 智彦 (著)
¥ 2,160
“8050(ハチマルゴーマル)問題"(引きこもり当人か50代、親が80代)が深刻化している。このように、学童期から50歳までひきこもりが長引くことについて、桝田氏は「直したものはぶり返す。やすらぎの中で治ったものはぶり返さない」として、次のように述べる。「無意識で起きたひきこもり」を、わが子自身の力だけで解決するのは困難、「絶望」から「希望」やがて「自立」への道のりで貫けるものは「親の愛」のほかにない。
桝田氏は、最初に着手すべきは就労・就学支援ではなく「何よりも先に親子関係を回復させる」ことと言う。このような親子の愛着を重視する心理学の知見に基づき、次の5つのプロセスとして、ひきこもるわが子への考え方や回復への全体像を解説する。@希望=絶望状態から、わが子の心に「希望の灯」がともるように親は一貫性を持って支える時期。A意思=ネガティブを基本とした陰陽混合する感情を親がしっかり聴き取る。B目的=心の中に湧き上がってくる「やってみたい」という欲求に基づき、少しずつチャレンジがはじまる。C有能性=実際に他者や集団の中に身をおき、勤勉に何かに取り組む自分の有能感と劣等性のバランスに直面し、葛藤する時期。Dアイデンティティ=「自分が自分で良い」そして「社会や他者からもそんな自分(あなた)で良いと思われているであろうという確信」を持つ。すなわちアイデンティティの獲得に取り組んでいく時期。
本書は、そのつど生じやすい問題と具体的な取り組み方、ひきこもりの状態像、異口同音に発せられるひきこもり青年の言葉の裏側にある意味と理解の仕方などを、親が読んで理解して取り組めるように書かれている。
評者は考える。社会の一員を育てようとする学校教育の立場からは、親子関係回復による本質的解決を望めないケースも多くあるだろう。なかには、狭い社会的視野から、社会参加の意欲もなく、世間体ばかり考えて、わが子を追い詰める親もいるだろう。親への社会教育や生徒を親から守ると言う社会的養護の視点が求められる。しかし、その際、SOSを発する生徒たちに対して、「やすらぎの中で治ったものはぶり返さない」という個人ケアの視点を忘れてはならない。
はじめに
序章 親育ち・親子本能療法――親が取り組めば回復は約束される
親育ち・親子本能療法とは
回復するための5つのプロセス
ひきこもりと親子関係1 親の価値観
ひきこもりと親子関係2 親が子を守る!
ひきこもりと親子関係3 子が親を守る?
親育ち・親子本能療法の前提「愛の定義」
「親育ち」とは自分を変えること!?
親育ち・親子本能療法と不登校
《コラム》ひきこもりをひもとく最新現状 脳科学から考えるひきこもり支援法
第1章 「希望」のプロセス――絶望から希望へ必要なのは無条件肯定が作る「安心と安全」の風土
■「希望」のプロセス・目的
01 ひきこもりの回復には親の参加が絶対条件 ~親子関係断絶、無言の子のワケ~
02 絶望から希望へ、全ての始まりは「親子の信頼関係」から
03 親が無条件に見守り、理解し、付き合えるのに何年?
【事例】
04 安心してひきこもらせる ?マズローの欲求階層説?
05 安心できないひきこもり環境
06 ひきこもりビリーフ(特有の不合理な信念)
07 親の正論はいらない ~百害あって一利なし~
08 脅しや兵糧攻めの無意味さ ~回復データはゼロ~
09 声かけの大切さ ?なにゆえに大切か?
10 無条件の肯定的関心1 ~安心・安全の風土を根づかせる~
11 無条件の肯定的関心2 ~わが子が元気になる魔法の言葉~
12 昼夜逆転、パソコン、ゲームの依存状態について
~生活リズムを戻すのは先か後か~
13 お小遣いをあげるべきか、あげないべきか
14 きょうだいを回復のプロセスに巻き込まない
●「希望」のプロセス・まとめ
第2章 「意思」のプロセス――良いも悪いも親がすべて聴き取る
■「意思」のプロセス・目的
01 社会的欲求の始まりと「吐き出し」
02 「親を守ってきた」わが子の気持ちに気がつき、寄り添えるか
03 親のせいにして復活していくもの
04 悪化してしまったの? ?神経症の始まり?
05 無条件の肯定的関心3 ~落とし穴! ~
【事例】
06 親の正念場 ?本当にこのやり方で正しいのか??
【事例】
07 「親が育つ」むずかしさ
08 衝動性、暴力に対する親の姿勢
09 性に対する親の姿勢
10 混乱・錯乱で入院ということもある
【事例】
11 退行の現実と親の引き受け方
【事例】
12 当てになる親 ~親の成長、広がる価値観が子の世界を広げていく~
13 日々新た! 言の葉を追いかけず家族の一員として扱う
14 無条件の肯定的関心4
~でも・だけど・たら・れば・しかし、良かれ言葉の罠~
15 大切な夫婦のコンセンサス ~子が正直になる時期~
16 子が主役、親は信じて待てるか?
17 「絶対、働かない宣言」の読み解き方
18 親のあり方は、親の人生優先か自己犠牲か
《コラム》心身が反応し出す微熱・高熱は回復の目印
●「意思」のプロセス・まとめ
第3章 「目的」のプロセス――少しずつ始まる行動
■「目的」のプロセス・目的
01 「働かねば」と「働きたい」は全く別物
【快話法1】
02 働くことの前に「遊び」をすることが大切
03 失敗が見えていても、先手を打たない
04 頼まれたサポートはどんなことでも笑顔で引き受ける
05 家を安全基地にする
06 逃げる、避ける、断る、やめることの大切さ
07 ちゃんとひきこもる大切さ
~ちょっと動いたらすぐ疲れる数年間。気力・体力をつけていく大切なプロセス~
08 「転ばぬ先の杖」の投げ方と投影
09 当たり前のことを当たり前に褒めるのが大事
【事例】
10 指図はいらない、育むべきは「欲求感」
11 本人にとって回復する理由
●「目的」のプロセス・まとめ
第4章 「有能性」のプロセス ――自分はやっていける。時々、弱音。チャレンジの連続
■「有能性」のプロセス・目的
01 本格的な社会参加へ
02 ここでの社会参加を、まだ回復としない意味
03 弱音を大切に扱う ?外在化作用?
【快話法2】
04 親の心配りが、わが子を救う
05 ノーと言えて初めて自立、人に頼れて一人前
【快話法3】
06 本人がカウンセラーの知恵と力を借りることも
07 生きる本能とトラブルはハッピーセット
08 アドバイスは求められても、すぐには答えない
●「有能性」のプロセス・まとめ
第5章 「アイデンティティ」のプロセス――自分は自分で良い。そして社会からもそう思われているという確信
■「アイデンティティ」のプロセス・目的
01 自分は「自分で良い」と思える尊さ
02 自分を信じる力、他者と揉める力、助けを求められる力
03 自己実現に向かう
04 親も子も「愛と信頼」と「自立の人生」を
●「アイデンティティ」のプロセス・まとめ
終章 回復した事例と8050問題――ひきこもりから自己実現とアイデンティティの獲得。親が子に残すべきもの
【事例】
8050問題、親が残すべきもの
【事例】
おわりに 支援者の皆様へ
筆者の体験
引用と参考文献
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