書評
著者は、「一人一人の支援をしているだけでは、とても乗り越えられない壁がある」と言う。多様で多文化な個人の特徴や属性を尊重する面は重要であるが、この個人尊重、個人重視の論理では、個人を結びつけ、統合し、協力するという考え方は生まれてこないと指摘する。そして、「少数派の周辺的な文化の尊重するという価値」を普遍的な価値、社会全体の理想、目標として掲げるよう提唱する。評者は考える。学校教育の相談業務においては、個人との1対1の面談で終わりがちだが、もっと社会に広がった視点から個人の悩みを捉えることも必要なのだろう。
書評
下村 英雄 (著)
社会正義のキャリア支援
: 個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ
出版社: 図書文化社 (2020/1/30)
2020/1/30
¥2、970
2016年国際キャリア教育学会大会は、「社会の不平等、不正義、環境悪化、デジタル格差が増大する世界では、社会的に正しく、文化的に繊細な実践を促進する必要がある」と謳った。著者は、これを受け、わが国の不安定就労、格差、貧困、外国人、性的少数者など、社会の縁辺で苦しむ人々の問題解決に向け、社会正義=社会的公正を実現するキャリア支援を提唱し、次の事例を示す。
配偶者からのDVを受けた女性は、まずは、自治体が設置する配偶者暴力相談支援センター等で提供する一時保護を利用する。そこで、家を出る相談に乗ってもらい、その後の生活に関する支援を受ける。さらには母子家庭の母親と子どもが一緒に入所して生活できる母子家庭生活支援施設に入所する。あわせて、離婚に向けて法テラスにも相談する。ただし、ここでの一番のポイントは、いろいろな支援を受けて、様々なサービスを利用して、ある程度の生活の基盤を整える見通しがついた時、最後の最後に、本人にとって重要になるのが「自分の将来」であり、その第一は生活の経済的な基礎を確立することであり、具体的には仕事を探すことだということになる。世の中にはたくさんの専門家がいるが、最終的に、自立して生活できるように手助けをするのは、キャリアカウンセラーであり、支援の「アンカー」として責任と誇りを持つべきだと言う。
本書では、社会正義のカウンセリング論の「3つの可能なプラクティス」として、@深い意味でのカウンセリング、Aエンパワメント、Bアドボカシーを挙げる。@については、特に「不利な立場にある対象層、周辺的な対象層」の存在の承認、個人の悩みとして聞くのと同時に、組織・制度・社会の歪みとして捉えること、Aについては、より現実的、具体的、直接的な問題解決を志向、問題そのものを解決するのではなく、「問題を解決する手段」を提供する、自己決定の手段により多くアクセスできるようにすること、Bについては、セルフアドボカシー(クライエント自ら交渉し、説明し、改善することを支援する)、クライエントアドボカシー(クライエントのかわりに代弁、説明、交渉)、システムズアドボカシー(組織・制度・社会全体への介入→組織改革、組織開発)を挙げる。
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不安定就労、格差、貧困、外国人、性的少数者など、社会の縁辺で苦しむ人々の問題解決に向け、いま全世界で広がりつつある社会正義=社会的公正を実現するキャリア支援。本邦初の本格的な概説書。
著者は、不安定就労、格差、貧困、外国人、性的少数者など、社会の縁辺で苦しむ人々の問題解決に向け、社会正義=社会的公正を実現するキャリア支援を提唱し、次のような例を示す。
目次
序章 社会正義のキャリア支援とは何か
第1章 欧州キャリアガイダンス論
第2章 多文化キャリアカウンセリング論
第3章 社会正義のカウンセリング論
第4章 3つの可能なプラクティス1―深い意味でのカウンセリング
第5章 3つの可能なプラクティス2―エンパワメント
第6章 3つの可能なプラクティス3―アドボカシー
終章 社会正義の実践に向けて
若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。