書評
本書は、教師の4割は月1冊も本を読まない、毎年5000人の教師が精神疾患で休職などの危機的状況を次のように説明する。@担任がいない、授業ができない、優秀な人が来ない。A読解力の低下、少ない公的資金、受け身の生徒の増加など質が危ない。B長時間労働、うつ病の増加など失われる命。C理不尽な校則、画一的な指導、考えなくなるなど学びの放棄。D多発する不祥事、失敗から学ばない学校などによる信頼喪失。
著者は、「学校のシェイプアップ、教師の役割の縮小」を期待する。また、「欲ばりな学校」をやめて、学校や教員の役割や業務を絞り込み、真に大切な部分に時間とエネルギーを集中してつぎ込むこと、登下校や休み時間の生徒指導等の仕事については、教師以外のスタッフに任せること、授業に関しても、時間を削減し質を高める方向にシフトすることを提案し、そのために、教師個人ではなく、学校組織全体や社会全体が「1つのチーム」として課題意識を持ち、「本質」に目を向けて行動していかなければならないと言う。
書評
妹尾 昌俊 (著)
教師崩壊ー先生の数が足りない、質も危ない
PHP新書
2020/5/12
「学校のシェイプアップ、教師の役割の縮小」によってどう改善するかについては、クライシスごとに次の効果を指摘する。「クライシス1教師が足りない」=教師が本来のコア業務である「授業とその準備」にもっと集中できるようになれば、教員人気も再び高まる可能性がある。多忙な教員の現状が解消されることで、育児・介護等の事情があっても、教師を続けられる人が増え、人材流出も抑制される。すでに退職した人のなかから、復帰する人(再任用も含めて)も増える。副校長、教頭の負担を減らすことで、教頭らの本来のコア業務である「職場の人材育成」にもっと時間を割くことができる。「2教育の質が危ない」=先生たちが読書をしたり、学校の外に出かけたりして、自らの視野を広げる機会を増やすことは、中長期的には授業の質を高めることにつながる。正規の勤務時間中に授業準備が終えられる職場環境にすることで、「流すような授業」はなくなり、子どもたちが学び合いながら、創造性・思考力等を高められる授業になる。「3失われる先生の命」=教師の役割を縮小していくことで、過重労働が解消される。新人教師にいきなり学級担任等の重責を負わす体制を改めることで、過労死、過労自死、精神疾患などの防止を進める。「4学びを放棄する教師たち」=教師の日常に精神的、時間的なゆとりを取り戻すことで、自らの能力を高める時間と機会を与える。校則など日常的な指導も見直す動きにつながる。副校長や教頭、主任層らの業務を減らすことで、教職員の間で相互に学び合う機会 と習慣を広げられる。「5信頼されない教師たち」=コア業務以外の教員の負担を減らし、様々なスタッフがケアすることで、児童生徒の事件、事故のリスクが下がり、SOS等に早期に気づくこともできるようになる。組織的な対応も行いやすくなる。
著者は、「修学旅行の班決めや、大学人試の志望校探しなどに貴重な総合の時間や探究の時間が費やされていることも見聞きします。どうしてこんなもったいないことになってしまうのでしょうか」と言って、次のように指摘する。多忙化により、教員たちに創造的な思考をする時間、余裕がどんどんなくなっている。倍率低下などに現れているかもしれないが、探究的な学びを自身が十分体得できない人が採用されている可能性がある。高校では、保護者や世間の評価が、大学進学実績などの一部の指標に集中するため、高校の側も長期的な視点で学びの質を高めるという思考になりにくい。また、小中学校では全国学力テストなどの影響もあり、じっくり探究的な学びを進めるという思考になっていないところもある。
以上から本書は、先生たちの時間とゆとりを増やして、授業や学校行事をもつと探究的な学びにしていけるように促すことを提案する。単なる役割分担の明確化や時短を提案しているわけではないと言う。
最後に、次の3つを提案する。「欲ばりな学校」をやめて、学校や教員の役割や業務を絞り込み、真に大切な部分に時間とエネルギーを集中してつぎ込む。登下校や休み時間の生徒指導等の仕事については、教師以外のスタッフに任せる。そして、授業に関しても、時間を削減し質を高める方向にシフトする。そのために、教師個人ではなく、学校組織全体や社会全体が「1つのチーム」として課題意識を持ち、本質に目を向けて行動していかなければならない。
評者は考える。教員採用は、これまでのペーパーテスト重視から、「生きる力」や「社会性」重視に移行しつつある。だが、それが「大きい声で挨拶できる」など、本質から外れたところに走ってしまった感がある。挨拶一つでも、生徒に心が届くようなやり方を追求するゆとりを持ちたいものだ。しかし、それにしても、「学ばない教師」についてはどうにかしたい。「学びたい人」からしか、生徒は「学びたい」とは思えないだろう。「良い授業をするため」という矮小な義務感を超えて、「学びたいから学ぶ」という生涯学習の本質から楽しく自己を充実する余裕を確保したいものである。
【本書の内容】
第1章クライシス1教師が足りない――担任がいない、授業ができない、優秀な人が来ない
・教師不足で「担任がいない」「授業ができない」
・いまや「誰でも先生になれてしまう」時代?
・現場では「教師の質の低下」を実感している
第2章クライシス2教育の質が危ない――読解力の低下、少ない公的資金、受け身の生徒の増加
・世界一教育にカネをかけない国、ニッポン
・「基礎的な読解力」がない生徒が増加している
・先生の悩み第1位は「授業準備の時間がない」こと
第3章クライシス3失われる先生の命――長時間労働、うつ病の増加、死と隣り合わせの学校現場
・「電通事件より過酷」な長時間労働の蔓延
・毎年5000人の精神疾患休職を出す学校業界
・先生の多忙化が子どもに与える「4つの悪影響」
第4章クライシス4学びを放棄する教師たち――理不尽な校則、画一的な指導、考えなくなった先生
・身震いするほど怒っても「指導」と言い張る教師
・「筆算は定規を使わないと減点」に見る思考停止
・4割の教師が「月に1冊も本を読んでいない」
第5章クライシス5信頼されない教師たち――多発する不祥事、失敗から学ばない学校、教育行政
・子どもといる時間が幸せだった─神戸の教員間暴力問題
・神戸の教員間暴力がもたらした「教師不信」「学校不信」
・教師によるわいせつ事件は過去最多を記録
第6章教師崩壊を食い止めろ!――ティーチャーズ・クライシスの打開策
・「マルチタスク地獄」にいる日本の教師
・それは、本当に先生がやるべき仕事ですか?
・学習指導要領の「2割削減」を目指せ
若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。