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若者論のトレンドCONCEPT

書評

 対話は、ソクラテス以来、教育の原点である。ただし、そのゴールは、問題解決による完結型ではなく、著者が言うような新たな疑問が生まれるという発展型であるところに本質があると言えよう。さらに、対話による「建設的相互作用」によって、新たな価値が創造されるということに、第二の本質があると考えられる。アクティブラーニングのおおもとには、「同質同士の競争」を超えたこのような自己内と対他者の対話による「異質同士の共生」と価値創造があるのだと考えたい。


書評





白水始
対話力―仲間との対話から学ぶ授業をデザインする
出版社: 東洋館出版社
2020/5/18
¥2,200

 著者は次のように言う。一つの問いにみんなで答えを出そうとする協調学習の場では、対話が考えの違いをもたらし、その違いを一人ひとりが何とかまとめようとして、各自の考えが深まる。自分で確信をもっていた答えも対話すると壊れてしまう。不安になる。けれど、対話していくとよりよいアイデアや表現が見えてきて、確信のもてる新しい答えが見つかる。安心できる。しかし、その答えにもまた、次に問うべき問いが潜んでいることに対話を通して気づいていくので、さらに学び続けていくことができる。
 こうやって、自分の考えを「壊して、つくって」深める学びが、小学校1年生から可能である。けれど、その誰もが生まれながらにしてもつ力を、子どもたちがいつも使っているかというと、そうではない。その力を引き出す対話の場が適切に用意されていること、さらに、そうした場を日ごろから繰り返し経験していることの二点が必要だからである。もし個人に何らかの「対話力」の多寡があるとすれば、この場数をどれだけ踏んできたかによるだろう。
 対話には、熱中すればするほど、問題に答えを出したり新しいアイデアを思いついたりするのに忙しすぎて、どうやってそれが問題解決やアイデア創生に結びついたかを、当人たちは意識できないというジレンマがある。「認知科学」と呼ばれる研究分野は、対話を記録にとってつぶさに見直し、一人ひとりがどう考えを深めたのかを分析して仮説をつくってきた。こうした仮説をもとに「学習科学」という分野が学校内外での人々の学習を支援し、その実践をもとに仮説を理論へと高めていこうとしていると言う。そして、「協調学習」は対話の仕組みを学びに結びつけたものであり、その実現のための一つの手段が、本書で紹介する「知識構成型ジグソー法」だと言う。
 本書は、人が対話を通して理解を深める『建設的相互作用』が起きる鍵は、その場の参加者に、お互いの考えの「違い」が見えること、その違いをまとめて答えを出そうとすることであり、参加者たちが「解いてみようか」「やってみようか」と思える問題があって可能になると言う。そして、そのための授業手法として「知識構成型ジグソー法」を提唱する。その手法は、@先生から提示された問いについて学習者がまず一人で答えを出し、自分の最初の考えを確かめる、A問いに答えを出すためのヒントとなる「部品」を小グループに分かれて担当して理解する(エキスパート活動)、Bそれぞれ異なる「部品」を担当したメンバーが集まって新しいグループをつくり、その内容を交換・統合して問いに対するよりよい答えをつくり上げる(ジグソー活動)。C各グループの答えを教室全体で共有・比較吟味する(クロストーク活動)、D最後にもう一度、問いに対する答えを納得いくまで一人で出してみる、という5つのシンプルなステップから構成される。
 「対話から創造へ」については、次のように述べる。一人ひとりが自分の考えを少しずつつくり直していかざるをえない。それがある程度共感を得る答えになった場合は、それを足場にまた次の疑問が見えてくるし、共感できない場合は、各自の考えをよりしっかりさせようとする動機づけが働く。こんなふうに疑問を解いては次の疑問が生まれる過程に繰り返し従事することで、子どもたちは気づけば自分で答えを創り出していくのだろう。そして、「たとえその答えが、大人から見ればすでに世で知られているものであっても、子どもの視点から見れば、未知の答えを自分で創ったという点で小さな創造と言える」として、対話から創造が生まれてくるのが、協調学習の醍醐味だと言う。また、そうやって社会的に構成された知識は、もちがよく、使い物になる。なぜなら、子どもたちは対話のなかで、自分たちで問題をつくり出し、それに対する少し変わった考え方や間違った考えもたくさん提案し合って、探索・批判・修正し合うからだと言う。その過程を経ることで、答えにたどり着いた際には、単に「答えが何であるか」だけでなく、「どうしてその答えでなくてはいけないか」まで一緒に理解することができるのだと言う。
 著者は、「先生方の授業からの学び」について、一つには「授業をこうデザインしたら、子どもがこんなふうに学んだ。だから、次の授業はこうしよう」という気づき、二つにはこの気づきをみんなで蓄積することによる「授業はこうデザインするとよさそう」というデザイン原則、三つには「だから授業をつくるとき・やるときはこんなところに気をつけよう」という授業観に現れると指摘する。
 授業研究会において、生徒たちが一朝一夕で急に話せるようになるわけではないという、いわば「無い袖は振れない」という現実的な制約のなかで、どこを重点的に話し合ってもらうのかということについて、実行可能で実効的な解決を見いたそうとするものにすることによって、再度同じ内容で実践したときに、その成果を見とって仮説の妥当性を検証することにつながりやすいと著者は言う。「資料が読めない」「人間関係ができていない」といった一般的な結論は検証につながらず、常に同じ批判が使えてしまうという問題があると指摘し、どこが具体的に読めないのか、どこでインタラクションが失敗したのか、それらをつぶさに見とる授業研究ができるようになってはじめて、子どもの学びにつながると主張する。
 評者は考える。対話は、ソクラテス以来、教育の原点である。ただし、そのゴールは、問題解決による完結型ではなく、著者が言うような新たな疑問が生まれるという発展型であるところに本質があると言えよう。さらに、対話による「建設的相互作用」によって、価値が創造されるということに、第二の本質があると考えられる。アクティブラーニングのおおもとには、「同質同士の競争」を超えたこのような自己内対話と対他者対話の「異質同士の共生」と価値創造があるのだと考えたい。

以下は広告文

「人はいかに学ぶのか? 」
認知科学の「理論」、10年に及ぶ「授業実践」に裏づけられた「学び」のエビデンスに基づき、この問いの本質に迫ります。

対話を通した子どもの学び方とは?
学びがいのある対話をつくり出す授業力向上の手立てとは?
授業改善に取り組む小学校、中学校、高等学校の先生方必見!
著者は、国研ライブラリー『資質・能力[理論編]』のメイン執筆者の一人・白水始先生

本書は、協調学習の理論と実践を通じて、新しい学習指導要領でも最重要視されている「対話的な学び」をいかに充実すればよいのか、「深い理解」へと導く授業をどうやってデザインすればよいのかを明らかにします。
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「対話から学ぶ力」は誰にでもある!

一つの問いにみんなで答えを出そうとする協調学習の場では、対話が考えの違いをもたらし、その違いを一人ひとりが何とかまとめようとして、各自の考えが深まります。

自分で確信をもっていた答えも対話すると壊れてしまう。不安になる。
けれど、対話していくとよりよいアイデアや表現が見えてきて、確信のもてる新しい答えが見つかる。安心できる。
しかし、その答えにもまた、次に問うべき問いが潜んでいることに対話を通して気づいていくので、さらに学び続けていくことができる。

こうやって、自分の考えを「壊して、つくって」深める学びが、小学校1年生から可能です。けれど、その誰もが生まれながらにしてもつ力を、子どもたちがいつも使っているかというと、そうではありません。
その力を引き出す対話の場が適切に用意されていること、さらに、そうした場を日ごろから繰り返し経験していることの二点が必要だからです。もし個人に何らかの「対話力」の多寡があるとすれば、この場数をどれだけ踏んできたかによるでしょう。

対話には、熱中すればするほど、問題に答えを出したり新しいアイデアを思いついたりするのに忙しすぎて、どうやってそれが問題解決やアイデア創生に結びついたかを、当人たちは意識できないというジレンマがあります。「認知科学」と呼ばれる研究分野は、対話を記録にとってつぶさに見直し、一人ひとりがどう考えを深めたのかを分析して仮説をつくってきました。こうした仮説をもとに「学習科学」という分野が学校内外での人々の学習を支援し、その実践をもとに仮説を理論へと高めていこうとしています。

「協調学習」は対話の仕組みを学びに結びつけたものであり、その実現のための一つの手段が、本書で紹介する「知識構成型ジグソー法」です。本書では、限られた紙幅で上記の課題を一貫して追求するために、筆者が深くかかわっているプロジェクト(東京大学CoREFと自治体との連携による「知識構成型ジグソー法」を活用した協調学習実践研究)を例に話を進めます。

第1章ではその授業例を一つ紹介し、第2章では対話で人の考えが変わる仕組みを検討します。
第3章では「知識構成型ジグソー法」で授業がどう変わり、子どもがいかに学ぶか第4章ではそれをどう評価することができるかを学びの深さとも絡めて論じます。
第5章では授業づくりからの先生の学び、第6章では自治体と研究者の学び、そして第7章では教育の未来について見えてきたことについて語ります。

目次
第1章 国境を超えて
第2章 対話から学ぶ仕組み
第3章 「知識構成型ジグソー法」と子どもの学び
第4章 対話的な学びの評価
第5章 対話から学ぶ教師のコミュニティ
第6章 学びのネットワークをつくる
第7章 対話から創造へ



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