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若者論のトレンドCONCEPT

書評

著者は、新型コロナウイルスの直撃による長期休校は学びのあり方を根本的に問い直す好機となったと言う。「コロナ後を見据えた学び」をテーマにしたイベントのアンケートから、著者は、自律的な学習習慣や自己調整力、探究心などの非認知能力による新しい学びの格差拡大を予見する。受け身で一方向の学びに終始し、管理されることに慣れている子どもたちが、自学自習のスキルやマインドセットを十分に備えていないのは当然であるとして、子どもの幸せを望まない教育者や保護者はいないはずだが、幸せな人生の実現を支援するための学校のあり方についての議論は少ないと警告する。そして、明治に始まり戦後70年以上の歳月を経て確立した教育観やシステムを進化させるのは、容易ではないが、地域コミュニティや教育委員会といったステークホルダー(利害関係者)も関与しながら、それぞれの学校がじっくりとホール・チャイルド・アプローチヘの転換を検討すべきだと言う。


書評



竹村 詠美 (著)
新・エリート教育 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?
2020/7/23
¥1,980

 2人の子育てをする中、著者は「クリェイティブ・リーダー」がどのような教育環境で育ったのかについて強い関心を抱くようになり、コンサルティング業界で鍛えられた調査力と好奇心で世界の教育を探究し始めた。以来、100校を超える欧米やアジアのトップ校・先端校の実践を学び、30校を超える欧米の学校を訪問してきた。そこで浮き彫りになったのは、今までインターネット業界など変化の激しい業界に限られていたクリエイティブ・リーダーシップの発揮が、あらゆる分野において新・エリートの条件となってきていることだ。そうしたクリエイティブーリーダーシップを発揮できる力を身につけるために有効なアプローチが、1人ひとりの興味に合わせて心身頭を統合的にバランスよく育む「ホール・チャイルド・アプローチ(Whole child approach)」という学びの考え方である。
 著者は、日本の生徒一人あたりの義務教育予算はOECD(経済協力開発機構)加盟国中で15位と高くはないが、国際学習到達度調査(PISA)の比較では、数学(6位)と科学(5位)で上位、読解(14位)もトップ10と僅差のレベルであり、従来の教科型教育において、学びの保障を効率よく実現してきたとしている。
 しかし、変化が激しくグローバルな時代に求められるクリェイティブ・リーダーの資質やスキルは、限られた教科のテストで良い点を取る学力だけで育たないことは言うまでもく、従来型の学校が抱えるジレンマが一気に露呈するだろうと危惧する。
 教科で分断した教育の成果を、単元の履修やテストの点数という狭い範躊の学力や認知能力にフォーカスしすぎると、2020年から施行された新学習指導要領で提唱されている「主体的・対話的で深い学び」からは遠ざかる。なぜなら「主体的・対話的で深い学び」に達するには、豊かな人格や態度、価値観などのいわゆる非認知能力の育成を必要とするからだとし、これらの力を育むには、外的モチベーション(テストの点数、真正な目的のない大学受験など)ではなく子ども自らが目的意識を持ち、高い内的モチベーションで学校生活に取り組める環境が必要としている。
 ホール・チャイルドの育成に必要な環境とは、「生徒一人ひとりが学びに目的を見出し、高い次元の思考力を実践する学びの環境になっている」、「子どもたちが先生や生徒たちを心から信頼し、建設的なフィードバックを与え合いながら、自らの高みにチャレンジできる環境になっている」、「生徒が訪問者に尋ねられたら、現在取り組んでいる課題の目的や、社会とのつながりについて説明できる」、「様々な表現能力を身につけて、学内外の人たちに発表する機会がある」。
 さらに、著者は、新型コロナウイルスの直撃による長期休校は学びのあり方を根本的に問い直す好機となったと言う。「コロナ後を見据えた学び」をテーマにしたイベントのアンケートから、著者は、自律的な学習習慣や自己調整力、探究心などの非認知能力による新しい学びの格差拡大を予見する。受け身で一方向の学びに終始し、管理されることに慣れている子どもたちが、自学自習のスキルやマインドセットを十分に備えていないのは当然であるとして、子どもの幸せを望まない教育者や保護者はいないはずだが、幸せな人生の実現を支援するための学校のあり方についての議論は少ないと警告する。そして、明治に始まり戦後70年以上の歳月を経て確立した教育観やシステムを進化させるのは、容易ではないが、地域コミュニティや教育委員会といったステークホルダー(利害関係者)も関与しながら、それぞれの学校がじっくりとホール・チャイルド・アプローチヘの転換を検討すべきだと言う。
 北欧のような高福祉国家と異なり、現在の日本の教育費の脆弱性を考えると、公共予算だけでホール・チャイルド・アプローチを実現することは難しいが、地域コミュニティや次世代の人材に期待したい企業がESG(環境・社会・企業統治)投資として幼小中高の教育に参画することも大切だろうと言う。そのため、後章では、米国での産学民連携の最前線をレポートしている。
 著者は、地球のどこにいてもハーバード大学やケンブリッジ大学のオンライン授業が受けられる日はもう来ているとして、素晴らしいことに、子どもたちは世界の最先端教育にアクセスしやすくなっているのだと言う。この学習環境の大転換を踏まえた上で、「学びへの内発的動機にあふれたホール・チャイルドを育むための学校はどうあるべきかを対面授業とオンライン授業を俯瞰的に捉えながら考える必要がある」と主張する。
 著者は言う。「従来型の分断された授業にとらわれるのではなく、多様な個性や発達段階にある子どもたち1人ひとりの心身頭の健全な成長にフォーカスしたアプローチに移行することで、生涯にわたる自律的学習者が育つ地盤が形成される。土壌を耕し多様なタネの特徴を尊重しながら成長を支えることで、未来の日本は創造性やイノベーションにあふれ、幸福度の高い国となり得るのだ」。

【内容紹介】
わが子には、どんな困難にあっても知恵を出して
生き延びる力を身につけさせたい! !
世界中のグローバルエリートが、こぞって子弟を
通わせたがる最先端のすごい学校を一挙紹介。
すべての人が知っておきたい真新しい教育マニフェスト!

経済・社会が激変するなか、変化の波は教育に押し寄せる。
すべての価値観が一新されつつある今、わが子、次世代の若者に、
変化に対応して生き延びる知恵をつけさせるには、どうしたらいいのか?
IT企業の創業者でもある著者は、創造性豊かな人材の不足を痛感。
米国西海岸の先端的な学校に注目し、日本に紹介する活動を始めた。

著者はこれまで取材してきた公立・私立約50校(小・中・高)の取り組みから、テストの点数よりも
人間的な魅力で判断される「Whole Child Approach(全人アプローチ)」が台頭していることに注目する。

AI全盛時代だからこそ、わが子には、暗記によるテストの点数より、AIができないことや創造性を伸ばしてほしい。
シリコンバレーの起業家やIT企業に勤めるニューエリートたちほど、先を争い、新しいアプローチの学校に子弟を学ばせる。
本書は日本にいながら、そうした最前線の海外エリート教育を垣間見ることのできる内容となる。
教育関係者、親、人材育成にかかわる、すべての大人が知っておきたい真新しい教育のマニフェストの登場!

目次

序 日本の教育は、子どもたちの幸せな人生につながっているか
第1章 教育目標とエリートの再定義ーーテストの点数より人間味あるクリエイティブ・リーダー
第2章 学力絶対主義からホール・チャイルド・アプローチへのパラダイムシフト
第3章 ホール・チャイルドを育てるトップ私学や先端校の心身頭を育む学び
第4章 社会が学校をつくるーー最先端企業、地域団体、NPO/NGO、行政や大学との連携
第5章 日本で広がる全人教育2.0
第6章 日本の教育を改新するには何が必要か

本書が取り上げているキーワード
#VUCA、#クリエイティブリーダー、#Society 5.0は創造社会 、#認知+非認知能力、#キャリア自律、#21世紀教育、#ホール・チャイルド・アプローチ、#全人教育2.0、#心身頭のバランス、#公平性の再定義、#個別化、#EqualityからEauityへ、#社会性と情動の教育、#SEL、#アドバイザリー、#キャラクター・ストレングス、#ウェルビーイング、#STEAM、#メイカースペース、#サービス・ラーニング、#体験学習、#経験学習、#探究学習、#深い問い、#深い学び、#デザイン思考、#プロジェクト型学習、#PBL、#ハークネス・メソッド、#学際カリキュラム、#高次思考スキル、#ラーニングスペースデザイン、#ブレンディッドラーニング、#脳神経科学と学び、#チャータースクール、#産学民連携、#アカデミックマインドセット、#自己調整能力、#民主的子育て、#学習者プロフィール、#教員プロフィール、#戦略計画、#次世代成績証明書


           も く じ

序日本の教育は、子どもたちの幸せな人生につながっているか?7


第1章 教育目標とエリートの再定義ーーテストの点数より人間味あるクリエイティブ・リーダー

情報社会の先にくるSociety 5.0は創造社会
認知能力から認知+非認知能力の時代へ
社会での成功に重要な非認知能力
新しい教育の動きと関連する4つの経済・社会的変化
求められる”キャリア自律”力
起業という選択肢で遅れをとる日本

第2章 学力絶対主義からホール・チャイルド・アプローチへのパラダイムシフト

個人を標準に近づけることで発展した近代社会
テスト成果主義では達成できない学力向上
ホール・チャイルド・アプローチの台頭
「主体的・対話的で深い学び」はホール・チャイルド・アプローチで実現する
求められる公平性の再定義
米国トップ私学や先端校が求めているのは心身頭のバランスがとれた子ども
ホール・チャイルドの学力を再定義するコンソーシアムの台頭
コラム:米国のトップ私立中高受験に求められること

第3章 ホール・チャイルドを育てるトップ私学や先端校の心身頭を育む学び
1心
学力だけでなく心理的安全性やソフトスキルヘの注目
社会性と情動の教育(SEL)とは?
SELがもたらす学力の向上と行動の改善
道徳とSELの違いについて
コラム:学校デザイン全体にsELを取り入れた中学校 ミレニアム・スクール
アドバイザリー 担任の新しい形87
コラム:キャラクター・ストレングスの活用で自分を知り成長の道標とする
2身
人格教育の要となるアートや舞台芸術教育の重視
コラム:総合芸術、音楽、スポーツが大学入試や社会で役立つわけ
一斉科目ではない体育―スポーツとウェルビーイングという考え方
コラム: A(アート)が主要教科の学力向上につながる理由
3頭
生徒にチョイス(選択)とボイス(意見)があるサービス・ラーニング
サービス・ラーニングに積極的なトップ私学の社会貢献活動109
体験学習による心身頭の教育
探究学習で実現する深い学び
深い学びには深い問いが求められる
社会とつながることで目的にあふれた学びを実現するプロジェクト型学習
幼小中高で深いプロジェクトを実践するヌエバ・スクール
公立校におけるプロジェクトの有用性
コラム:教育現場でのデザイン思考の広がり
高度な思考力を育む八−クネス・メソッド
コラム:高次思考スキルとは?
教科を超えた学際カリキュラムによる時代にあった学びを
4学びの個別化と学習環境のデザイン
オンラインの活用で学びを加速するブレンデッド・ラーニング
ラーニングスペースデザインで深い学びの場を用意する
コラム:STEAM教育の基礎やイノベータースキルを育むメイカースペース
脳神経科学を取り入れたカリキュラムーデザイン

第4章 社会が学校をつくる−−最先端企業、地域団体、NPO/NGO、行政や大学との連携
ネットフリッグス創業者も支援してきた特徴ある公立校の制度「チャータースクール」
最先端の人気公立校、クアルコム、ビル・アンド・メリンダ財団などが支援する「ハイ・テック・ハイ」
IT企業の幹部が子弟を入れたがる先端校はスタンフォード大学と連携「シナプス・スクール」
大手ソフトウェア企業オラクルの敷地内に建てられ、デザイン思考に基づく「デザイン・テック高校」
博物館や史跡と組んで歴史保存活動に貢献するハワイの伝統校「ミッド・パシフィック・インスティテュート」
マイノリティや貧困層地域での公立校の底上げ「イーエル・エデュケーショッン」
地域内連携で学びのエコシステムを創出し、若者のアクセスを拡大する「リメイク・ラーニング」
地域コミュニティでプロジェクト型学習を体験できる「アイオワ・ビッグ」
NPO、地域の有力企業などシビック・パートナーと協働する「ミネルバ大学」
ザッカーバーグも支援、拡大する教育科学に基づく学習者中心プログラム「サミット・ラーニング」

第5章 日本で広がる全人教育2.0
身体から心と頭にアプローチする学び「追手門学院高等学校表現コミュニケーションコース」
体験学習を通じた人格育成と信頼関係の醸成「プロジェクトアドベンチャージャパン」
学校、保護者、地域が子どもと共に学びをつくる日本初のイエナプランスクール「大日向小学校」
心理的安全性が担保された環境が生徒の思考力や行動力を育む「かえつ有明中・高等学校サイエンス科、プロジェクト科」
デザイン思考でイノベーターを育成する「青翔開智中学校・高等学校」
最先端の研究設備や産学連携により研究者を育てる「広尾学園中学校・高等学校医進・サイエンスコース」
通信制の強みと運営母体の強みを生かしたプロジェクト型学習を提供する「N高等学校」
第6章 日本の教育を改新するには何が必要か
コロナが加速する教育の機会拡大と格差
デザイン思考プロセスを活用して改新の一歩につなげる
ステップ1共感と理解の醸成
ステップ2問題定義と明確化
ステップ3アイデア創造
ステップ4プロトタイピング
ステップ5テスト
コラム:戦略計画とは?
学習者プロフィールを改革の道標に236
コラム:学習者プロフィールさくせいのすすめ
企業や学外の個人、団体による改新へのサポート
家庭から始まるホール・チャイルドの育成と自己調整力
民主的な子育てスタイルで学習者中心の学びを実現
ひとりの子どもを育てるには村中の知恵と力が必要
あとがき
引用文献

『新・エリート教育』著者 竹村詠美氏に聞く
2020年7月30日
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世界の最先端の教育を視察してきた(一社)FutureEdu代表理事の竹村詠美氏が、『新・エリート教育 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』(日本経済新聞出版・1800円+税)を上梓した。新型コロナウイルスの影響も含め、経済や社会が激変する中、教育にもその変化の波は迫っている。世界のトップ校や先端校の実践から知るべきこととは、どんなことなのか。本書の出版の狙いなどについて、著者の竹村氏に聞いた。

――本書の狙いを教えてください。

竹村詠美著
日本経済新聞出版
1800円+税
過去4年にわたり、これからの学びを考えるドキュメンタリー映画『Most Likely to Succeed』の上映会活動を行う中で、44都道府県の方々から「これからの学びをどのように考えるべきか」という質問をいただいてきました。

映画で取り上げるSTEAM・プロジェクト学習(PBL)や探究型の教育はとても大切ですが、土台となる学習者中心の「ホール・チャイルド・アプローチ」から伝えることで、より後戻りしない、学校全体の本質的な改革を実行できると考えています。

本書では、私が今までに訪問させていただいたり、調査したりした100校を超える米国の学校の実践から見えてきたこと、そしてトップ校や先端校の実践から知るべきことを一冊にギュッとまとめました。エビデンスを基にしたさまざまな実践を知ることで、読者の皆さまの地域に合った学びのアップデートへのヒントになればと考えています。

教育はとてもローカルなものなので、「ワンサイズ・フィッツ・オール」とはなかなかいきませんが、これからの学びを客観的かつ俯瞰的に考えるヒントとして、米国のトップ校や先端校の実情を知っていただければと願っています。

――具体的な内容をご紹介ください。
本書は、VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の時代に必要な「ホール・チャイルド・アプローチ(学習者中心の学び)」の広がりを、米国のトップ校や先端校の取材、そして日本の先端事例からまとめました。

世の中の変化について4つの側面から紹介し、トップ校や先端校ではいかに頭だけではなく、心と身体の発達も大切にした学びが行われているかを紹介しています。

そして、政府や自治体だけに頼らない深い学びの事例として、産学連携のさまざまな事例についても紹介し、最終章では、学びの改新への提案で締めくくっています。

――どんな人に読んでほしいですか。
現在の学校教育環境に疑問を感じている教員や教育関係者、また企業のSDGs担当の方々、保護者、これから教員を目指す大学生などに手にしていただけるとうれしいです。




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