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若者論のトレンドCONCEPT

書評

著者の出口治明氏が、「働き方改革を進めなければ日本に未来はない」という対談で、「長時間働いても成長しないのはマネジメントが機能していないからです」と指摘しています。注目に値する発言と言えるでしょう。
デジタル毎日

 製造業の工場モデル(生産ラインでの仕事)で求められる人材としては、朝から晩まで長時間働ける人材、仕組み全体の改変などには興味を持たず、目の前の作業の改善に注力し、与えられた仕事を黙々とこなす人材、従順で、素直で、上司のいうことをよく聞く協調性の高い人材を挙げる。そして、これまでの日本の教育は、考える力も、常識を疑う力もそれほど強くはない均質的で従順な若者を量産してきたと言う。
 サービス産業モデル(アイデア勝負の仕事)で求められる人材としては、自分の頭で考え、自ら進んで行動し、新しいアイデアを生み出せる人材、尖った個性を持つ多様な人材、継続して勉強を続ける高学歴人材を挙げる。そして、これからの日本の教育は、常識を疑い根底から考える力と生涯学ぶ意欲を強く持った個性豊かな若者を輩出することが急務だと言う。
 そして、日本は、先進国でもっとも高齢化が進んでおり、高齢化が進むと出費が増えるということは、その分成長して稼がなければ、貧しくなる一方だからこそ、ユニコーン(新しい産業)を生み出すことが必要だと言う。
 学校は、卒業先の社会を生き抜く武器を生徒に与えることが重要である。評者は、そのとき、学校が旧態依然とした「製造業の工場モデル」をイメージしているとしたら、教育と現実社会とのあいだに大きなギャップが生ずると考える。



書評

「教える」ということ
日本を救う、[尖った人]を増やすには
2020/5/1
出口治明
¥1,650

 本書は、後輩たちに「社会を生き抜く武器」を与えるため、根拠にもとづいて話すことや、選択肢を与えることの重要性を説いた上で、「尖った人」を生み出すための高等教育と正しい「人間洞察」を前提にした社会人教育のあり方を提唱する。ライフネット生命の経営者として部下をマネジメントし、その後、立命館アジア太平洋大学の学長として教育の現場に身を置いた著者は、サービス産業モデル(アイデア勝負の仕事)においては、自分の頭で考え、自ら進んで行動し、新しいアイデアを生み出せる人材、尖った個性を持つ多様な人材、継続して勉強を続け、常識を疑い根底から考える力と生涯学ぶ意欲を強く持った人材が求められると言う。そして、日本は、先進国でもっとも高齢化が進んでおり、高齢化が進むと出費が増えるということは、その分成長して稼がなければ、貧しくなる一方だからこそ、ユニコーン(新しい産業)を生み出すことが必要だと言う。
 「根拠なき精神論が教育をダメにする」では、組み体操について、1年間で数千人がケガをしているというファクトがあり、国連の「子どもの権利条約」委員会も問題視しているのに、「チームワークが養成できる」とか「伝統だ」と組み体操を肯定する教育者がいることについて、非科学的と批判する。「幼児教育がもっとも教育投資効果が高い」では、大人になってからの経済状態や生活の質を高める上で、就学前教育が有効であることが実証されているとして、とくに、幼児期に適切な教育を受けた子どもは、物事をやり抜く力、集中力、コミュニケーションカといった非認知能力が向上・持続すると言う。社会人になっても学び続ける人は、単純にいえば、上司からかわいがられるので出世しやすく、生涯給与も普通の人よりずっと高くなるとし、また、高校生から大学生の初期のころまでに、「知らないことを学ぶのは楽しい」「わからないことが腹落ちすると気持ちがいい」という感覚を身につけると、その後の人生においても、好きなことができて、その上、経済的にも満たされるようになると言う。「子育て」については、男性は、実際に子どもを育てる作業を通じてオキシトシン(幸せホルモン)が分泌されるとして、父親が育児休暇を取って子育てをするのは、科学的にも理にかなっているのだと言う。
 2019年7月末時点で日本に本社を置くいわゆる「ユニコーン」企業は、3社しかないことを挙げ、日本の国際競争力がこの30年間で低下した主因は、新しい産業を生み出せず、産業の新陳代謝が起きなかったことにあることは明らかだと言う。このことについては、日本は、戦後の復興を製造業の工場モデルで成し遂げたため、いまだにものづくりの神話にとらわれていると批判する。製造業は日本の宝だが、いくら宝であっても、GDPに占める比率は約2割、雇用に至っては、1000万人程度で全産業の約16%にすぎない。そのような産業がこれからの日本を牽引できるとは思えない。これからはアイデア勝負の時代だと言う。
 戦後の学校教育もこれに準拠して、文句を言わず、みんなで協調して我慢強く働き続ける従順な人間を養成するしくみとして完成されたと言う。「みんなで決めたことを守る」「協調性が高い」「空気を読める」「素直で上司の言うことをよく聞く」「我慢強い」などという能力を持った人材を育てなければ、工場のベルトコンベアが止まってしまうため、自分の頭で考える力や自由に発想する力よりも、グループ全体の平均点を上げるために、そこそこの知識を詰め込みつつ、チームの和を乱さない従順さを養うことに重きを置いてきたと批判する。
 評者は思う。学校が「尖った人材」を育てるのは重要であろう。だが、「尖った教員」がチームとしての学校で、歓迎され、個性を発揮することなんかできるのか。そこで、ヒントになるのが、著者の言う「誰がやっても同じ結果が出るしくみ」としてのマニュアル作成である。著者はこれを「人間を画一的に縛るもの」ではなく、「人間の個性や多様性を認めながらも、仕事のやり方や進め方を共有し、平均化を行うためのもの」だと言う。徹底的なマニュアル化、これが若手教員を困惑から救い出し、「尖った教員」を活躍させるポイントになるのだと評者は考える。

書評長文


 本書は、後輩たちに「社会を生き抜く武器」を与えるため、根拠にもとづいて話すことや、選択肢を与えることの重要性を説いた上で、「尖った人」を生み出すための高等教育と正しい「人間洞察」を前提にした社会人教育のあり方を提唱する。

 「根拠なき精神論が教育をダメにする」では、組み体操について、1年間で数千人がケガをしているというファクトがあり、国連の「子どもの権利条約」委員会も問題視しているのに、「チームワークが養成できる」とか「伝統だ」と組み体操を肯定する教育者がいることについて、次のように言う。組み体操には、科学的にも、医学的にも、子どもにやらせていいという合理的な根拠は一切認められない。それなのに「やめられない」としたら、なんという非科学的な社会だろう。僕に小中学生の子どもがいて学校が組み体操を強制するなら、僕は迷わず転校させると思う。一事が万事で、そのような学校でまともな教育が受けられるとはとうてい思えないからである。
 「幼児教育がもっとも教育投資効果が高い」では、大人になってからの経済状態や生活の質を高める上で、就学前教育が有効であることが実証されているとして、とくに、幼児期に適切な教育を受けた子どもは、物事をやり抜く力、集中力、コミュニケーションカといった非認知能力が向上・持続する。だから、教育投資効果は幼児期が一番高いと言う。そして、そうであれば日本の課題は明らかで、7人に1人といわれている子どもの貧困問題にまずは集中的に取り組むべきだと主張する。
 また、最近の脳科学によると、人間の向学心や好奇心は、18〜19歳ごろにピークを迎えるという研究結果が出ているとして、中学生や高校生から、「どうして勉強する必要があるのか?」と質問されたとき、次の2つのことを話していると言う。@「選択肢」が増える、A「生涯収入」が高くなる。社会人になっても学び続ける人は、単純にいえば、上司からかわいがられるので出世しやすく、生涯給与も普通の人よりずっと高くなる。また、高校生から大学生の初期のころまでに、「知らないことを学ぶのは楽しい」「わからないことが腹落ちすると気持ちがいい」という感覚を身につけると、その後の人生においても、好きなことができて、その上、経済的にも満たされるようになる。だから、楽しく豊かな人生をおくるには、幼児期から18歳、19歳までの学習習慣が決定的な役割を担っているのだと言う。
 「子育て」については、「科学的に見ても、父親が子育てをしたほうがいい」として次のように言う。女性が出産する際には、脳内で「オキシトシン」というホルモンが大量に分泌される。オキシトシンは、別名「幸せホルモン」「愛着ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれていて、オキシトシンが体内で放出されると、母親は赤ちゃんと深い愛情で結ばれる。母親が子育てを厭わないのは、オキシトシンが分泌されているからである。一方、男性の場合は、オキシトシンは自然には分泌されない。男性は、実際に子どもを育てる作業を通じてオキシトシンが分泌される。つまり、「子育て」というプロセスを経ることでオキシトシンの分泌が促され、子どもに対する愛情が芽生える。男性の場合は、子どもがかわいいから面倒を見るのではなく、面倒を見るからかわいいという気持ちが生まれる。したがって、父親が育児休暇を取って子育てをするのは、科学的にも理にかなっているのだと言う。もっといえば、男性は育児を行うことによって、愛情にあふれた一人前の男性に成長していくのだと言う。その上で、EUの「新ワークライフバランス指令」の中の「育児休業指令」には、働く父親と母親両方に対する育休の最低必要条件と、これに関連する雇用保護について規定されていると言う。
 2019年7月末時点で日本に本社を置くいわゆる「ユニコーン」企業は、3社しかないことを挙げ、日本の国際競争力がこの30年間で低下した主因は、新しい産業を生み出せず、産業の新陳代謝が起きなかったことにあることは明らかだと言う。
 このことについては、日本は、戦後の復興を製造業の工場モデルで成し遂げたため、いまだにものづくりの神話にとらわれていると批判する。製造業は日本の宝だが、いくら宝であっても、GDPに占める比率は約2割、雇用に至っては、1000万人程度で全産業の約16%にすぎない。そのような産業がこれからの日本を牽引できるとは思えない。これからはアイデア勝負の時代だと言う。
 日本の戦後の経済政策は、アメリカへの「キャッチアップ」(後発国が先進国に追いつこうとすること)というグランドデザインに洽って進められてきた。GE(ゼネラル・エレクトリック)やGM(ゼネラルモーターズ)を真似て、日本にも電機・電子産業や自動車産業を創ろうという考え方であり、日本の企業はそれほど独自性を出さずともよく、極論すれば政府(経産省)に指導されたことをそのまま実行していればそれでよかったのだと言う。
 そこで、戦後の学校教育もこれに準拠して、文句を言わず、みんなで協調して我慢強く働き続ける従順な人間を養成するしくみとして完成されたと言う。「みんなで決めたことを守る」「協調性が高い」「空気を読める」「素直で上司の言うことをよく聞く」「我慢強い」などという能力を持った人材を育てなければ、工場のベルトコンベアが止まってしまうため、自分の頭で考える力や自由に発想する力よりも、グループ全体の平均点を上げるために、そこそこの知識を詰め込みつつ、チームの和を乱さない従順さを養うことに重きを置いてきたのだと指摘する。
 しかし、著者は、これからの産業の中心は、サービス産業であり、サービス産業モデルでは、多様な人材が活躍することでしか企業は成長しないと言う。
 製造業の工場モデル(生産ラインでの仕事)で求められる人材としては、朝から晩まで長時間働ける人材、仕組み全体の改変などには興味を持たず、目の前の作業の改善に注力し、与えられた仕事を黙々とこなす人材、従順で、素直で、上司のいうことをよく聞く協調性の高い人材を挙げる。そして、これまでの日本の教育は、考える力も、常識を疑う力もそれほど強くはない均質的で従順な若者を量産してきたと言う。
 サービス産業モデル(アイデア勝負の仕事)で求められる人材としては、自分の頭で考え、自ら進んで行動し、新しいアイデアを生み出せる人材、尖った個性を持つ多様な人材、継続して勉強を続ける高学歴人材を挙げる。そして、これからの日本の教育は、常識を疑い根底から考える力と生涯学ぶ意欲を強く持った個性豊かな若者を輩出することが急務だと言う。
 そして、日本は、先進国でもっとも高齢化が進んでおり、高齢化が進むと出費が増えるということは、その分成長して稼がなければ、貧しくなる一方だからこそ、ユニコーン(新しい産業)を生み出すことが必要だと言う。
 学校は、卒業先の社会を生き抜く武器を生徒に与えることが重要である。評者は、そのとき、学校が旧態依然とした「製造業の工場モデル」をイメージしているとしたら、教育と現実社会とのあいだに大きなギャップが生ずると考える。


【内容説明より】
私たちが遺すべきもの、次世代が学ぶべきこと

先がまったく読めない時代に必要な「社会を生き抜くための武器」とは何か。
日本を救う「尖った人」を増やすには、どうしたらいいか。
我々は何を、どのように後輩たちに継承するべきか。

これは、あらゆる立場の人にとって難問といっていいでしょう。
親として、教師として、上司として……この「先輩としての責任」を
難なく果たせている人はそう多くありません。

大学二回生で恩師から「わかること」「教えること」の本質を提示されたときから、会社員として、ベンチャー企業の創業者として、そして大学の学長という立場から考え続け、実践してきた著者の結論とは?

「教える」「教育」を切り口にして、日本の最重要課題に切り込む。

【特別対談も収録】
「教える」ということの本質と課題を多角的に考察する、
各界専門家との特別対談も必読です。
・久野信之先生(立命館慶祥中学校・高等学校校長)
・岡ノ谷一夫先生(東京大学教授「生物心理学」)
・松岡亮二先生(早稲田大学准教授「教育社会学」)


[本書の構成】

第1章 後輩たちに「社会を生き抜く武器」を与える

特別対談 久野信之×出口治明

第2章 根拠にもとづいて話す。選択肢を与える

特別対談 岡ノ谷一夫×出口治明

第3章 「尖った人」を生み出すための高等教育

特別対談 松岡亮二×出口治明

第4章 正しい「人間洞察」を前提にした社会人教育

さまざまな|ド教える立場」にある人へ
読者のみなさんは、「親として」、「教師として」、「上司として」、あるいは「人生の先輩として」……といったさまざまな立場から、本書を手に取っていただいていると思います。
僕は還暦から10年間、ライフネット生命の経営者として部下をマネジメントし、古希を迎えた2018年からは、立命館アジア太平洋大学(APU)の学長として教育の現場に身を置いています。
本書では、この2つの経験を通して僕自身が腹落ちした「教えること」の本質について、わかりやすくお伝えしたいと思っています。

第1章 後輩たちに「社会を生き抜く武器」を与える
「自分の頭で考える力」と「社会を生き抜く武器」を与える
「国家」「選挙」「税金」……についてきちんと教えることができるか
「政治とは、税金の使い道を決めること」とシンプルに説明できますか?
 ヨーロッパの子どもたちが教わっている「原理原則」とは
 お金を上手に使えなければ社会で生きていけない
 フェイクニュースにだまされないように情報の真偽を確かめるクセをつけよう
 子育てに時間がかかる理由のひとつは、人間が頭が大きく二足歩行をする動物だから
 母親に子育てを任せるのではなく、「集団で育てる」のが教育の基本

特別対談 久野信之×出口治明

第2章 根拠にもとづいて話す。選択肢を与える
 興味のないことはすぐに忘れるが、興味のあることは忘れない
 精神論に終始せず、科学的根拠にもとづいた教育をする
「タテ・ヨコ・算数」で教え、考えさせる
 教える相手に「伝わりやすくなる」話し方
 教えるから覚えられる。インプットとアウトプットはセット

特別対談 岡ノ谷一夫×出口治明

第3章 「尖った人」を生み出すための高等教育
 日本の高等教育の問題は、教育費にお金をかけられないこと
 大学は衰退産業ではなく、超有望な成長産業である
 新しい産業を創る人を育てないと日本経済は低迷したまま
 自分の好きなことを徹底的に究めた「変態」を育てる
 日本の低迷を救う3つのキーワード「女性」「ダイバーシティ」「高学歴」
 人間は怠け者だから、勉強せざるを得ない環境に身を置く
 考える力を養うには、ピア・ラーニングが最適

特別対談 松岡亮二×出口治明

第4章 正しい「人間洞察」を前提にした社会人教育
 社会人に仕事を教えるときは「マニュアル化」に尽きる
 誰が作業をしても「最低60点」は取れるようにする
 マニュアル作成の「4つ」のポイント
 部下とのコミュニケーションは「就業時間内」に行うのが基本
 定期的な「1 ON 1ミーティング」で組織内の地図をつくる
 新しいアウトプットを生み出すには「人・本・旅」によるインプットが不可欠
「上司のいうことを聞かない部下がいる」のは健全な証拠



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