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若者論のトレンドCONCEPT

書評

 評者は考える。教育においては、教師の自律性、主体性が尊重され、そのため、「人材育成」や「能力管理」は、具体的な教師像や必要能力を提示できず、精神論だけ横行している。本書で言うNAVIシステムの4機能など皆無と言えよう。向上心に燃える若手教員にとっては有難迷惑な話である。「チームとしての学校」を本気で実現するためには、本書で主張するような「能力開発を効果的に進め、結果として対象者の能力を発揮できるような環境を整える」という経営目的を鮮明にすることが必要である。とくに若手教員は、暗黙知を含めて知りたい、目標とすべきキャリアパスに沿ったラダーごとの必要能力を示してほしいと思っているのではないか。このような今日の教員の求めに対して、各教育現場における展望と方法を示すことは、管理者として役割発揮できる楽しい使命だと評者は考える。なぜなら、現場でなければ「診断」、「向上」、「検証」、「予測」はできないからである。



書評


森 和夫 (著)
実践 現場の能力管理: 生産性が向上する人材育成マネジメント
出版社: 日科技連出版社
(2020/8/21)


 本書は、個人ではなく、組織の充実発展のための能力開発を追求する。これによって、人材一人ひとりに自己の能力発揮が可能となるので、個人は充実した生活と未来を切り拓けるようになると言う。
 本書で特に注目すべきは「現場力向上NAVIシステム」である。システムといっても、現場と無関係に作られた既成システムではなく、個々の現場の資源に合わせて柔軟かつ統合的に作成し、運用するシステムである。今どのような能力保有状態なのかを明らかにする「診断機能」、能力を向上させる「向上機能」、向上したかどうかを判定する「検証機能」、そして、これからの能力に関する「予測機能」の4つから成る。組織全体のパフォーマンスを人材育成の視点から俯瞰する経営ツールといえよう。


書評長
 評者は、本書を「チームとしての学校」と「(専門職としての)学校教員の育成」の視点から読んでみた。チームとしての学校を実現するための3つの視点を、中央教育審議会は、次のように挙げている。(「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」2015年)

1 専門性に基づくチーム体制の構築
 教員が、学校や子供たちの実態を踏まえ、学習指導や生徒指導等に取り組むため、指導体制の充実が必要である。加えて、心理や福祉等の専門スタッフについて、学校の職員として、職務内容等を明確化し、質の確保と配置の充実を進めるべきである。
2 学校のマネジメント機能の強化
専門性に基づく「チームとしての学校」が機能するためには、校長のリーダーシップが重要であり、学校のマネジメント機能を今まで以上に強化していくことが求められる。そのためには、優秀な管理職を確保するための取組や、主幹教諭の配置の促進や事務機能の強化など校長のマネジメント体制を支える仕組みを充実することが求められる。
3 教職員一人一人が力を発揮できる環境の整備
教職員がそれぞれの力を発揮し、伸ばしていくことができるようにするためには、人材育成の充実や業務改善の取組を進めることが重要である。

 非常に有意義な指摘とは思うのだが、以下で森氏が懸念するように、「能力を管理する権限が誰にあるんだ?」「能力は個人のもので、他人がとやかく言う筋合いではない」という筋違いの批判に正しく応えるためには、前出答申では十分に核心を突いているものとはいえないように思う。本書がテーマとする「能力管理」というキーワードをはっきりと掲げる必要があるだろう。それは、森氏が本書で主張するような、「能力開発を効果的に進め、結果として対象者の能力を発揮できるような環境を整える」という「能力管理の目的」をもっと鮮明にすることである。また、学校経営としては、「教員個人の充実発展」から「組織の充実発展」に軸足を移して推進することが必要であり、「マネジメントなのだから、与えられた条件下で最大の成果を得るように実施することが要」であることをはっきりと打ち出すことが求められていると考える。
 教育においては、教師の自律性、主体性が重視され、そのため、「人材育成」や「能力管理」は、教育の真髄にせまらず表面をなぞっている状態になりがちであったと考える。そして、「煩雑なルール」や「事務処理」などに多大な時間と労力を奪われ、繁忙で展望の見えないブラック職場と化してしまっているのではないか。新人教員は、教えられるものは、精神論ではなく、暗黙知(カン・コツ)を含めてきちんと教えてほしい、主体的研鑽のためのキャリアパスに沿ったラダーと必要能力を示してほしいと思っているに違いない。ベテラン教師の暗黙知可視化教材や当該校のラダーごとの必要能力を、研修で明示している学校など、評者は見たことがない。教員としての能力開発は、このような人材育成の貧しい状況を乗り越え、チームとしての学校を真に実現することによって花開くに違いない。本書は、このような今日の教員の求めに対して、展望と方法を示すことができると評者は感じている。


 そこで、ここでは、本書のポイントを紹介したい。
 森氏は、本書のコンセプトは「個人としての能力開発」と「組織としての能力開発」の調和だと言う。「個人の充実発展」から「組織の充実発展」に軸足を移して推進することを探究している。類書には「個人の充実発展」を基盤にしたものが多数あり、これまで、森氏もその観点から書いてきたが、「技術・技能伝承は何のために行うか」を考えるとき、組織の維持・発展を願い、存続することが前提にあるとし、現場教育の問題を超えた経営の問題として、マネジメントの一環としての能力開発の視点から書かれた。「人財育成」や「企業は人なり」というのはマネジメントの問題としての能力開発を想定しているとして、本書では、社員一人ひとりの個の充実と組織の維持・発展を調和させるキーワードとして「能力管理」を取り上げて執筆したと言う。
 かつて、能力という言葉は良くも悪くも、扱いづらい言葉であり、まして能力管理という言葉は、その本意とは離れて誤解されることが多くあったと森氏は言う。「能力を管理する権限が誰にあるんだ?」「能力は個人のもので、他人がとやかく言う筋合いではない」などの声が聞こえてきたが、ようやく能力管理という言葉が使えるようになったと言うのだ。
 能力管理は、組織に属する人々が能力開発や人材育成で最大の成果をもたらす環境を整備するための方法であり、これによって、人材一人ひとりに自己の能力発揮が可能となるので、充実した生活を送り、充実した未来を切り拓けるようになると言う。能力管理のねらいは能力開発を効果的に進め、結果として対象者の能力を発揮できるような環境を整えることであり、マネジメントなのだから、与えられた条件下で最大の成果を得るように実施することが要だと言う。
 森氏はこれまでに技術・技能論を始めとして、技能習熟論、技術・技能伝承、能力開発を扱ってきた。本書では、能力管理をテーマに考え方と実践をまとめる機会として、「技はどのように上達するか」という技能研究から始まり、一人の技能者が組織のなかで育っていく場面までを描いている。
 本書は、「@能力管理の考え方」(第1章 職場の課題と能力管理、第2章 能力管理とは何か、その範囲と機能)、「A能力管理の方法」(第3章 能力マップによる能力管理の方法、第4章 作業指導による能力管理の方法)、「B能力管理の実際」(第5章 能力管理の推進モデル、第6章 能力管理の実際(事例編))という順序でまとめられている。
 第1章および第2章では、個人としての能力開発ではなく、組織としての能力開発の考え方がなぜ大事かについて述べている。第3章では、能力管理の基礎をなすものは組織に所属する人材の能力状況を把握することにあると考え、その方法を具体的に述べている。最も重要なことは現場で必要とされる能カリストを書き上げることだとして、その方法としてクドバス手法を用いて短時間で能力項目を書き上げる作業を紹介している。この能カリストは現場の能力状況を明確化する尺度となる。これによって社員の保有能力水準を明らかにでき、これを能力マップで整理すれば現場人材の弱み・強みも明らかになる。弱みを強みに変え、強みを生かせば生産性を向上できる。能力マップはこの他にも、人材の多能工化、高度化、技術・技能伝承などに活用できる。このように計画的な人材育成ができるようになれば、効率の良い能力開発を実施できると言うのだ。具体的な能力開発の進め方として作業指導をテーマに解説している。
 [仕事のやり方]を能率良く、確実に指導できれば生産性向上の見通しが立つとして、第3章および第4章では技術・技能指導を中心に述べている。技術的知識や態度については類書に委ね、困難の多い技術・技能指導を丁寧に解説している。ここでは教育用手順書、技能分析表、技能マニュアルの作成法を解説し、技能教育道場の開設の仕方までを紹介している。このような能力開発の結果、目標への到達度を評価できるようになり、能力開発活動自体の成果も検証できるようになると言う。
 第5章では「能力管理を進める全プロセスを体系的に展開するにはどのようにするか」をモデルとして示している。組織によって課題やニーズは異なるので、「モデルのどの部分を重点的に行うか」を審議したうえで、必要な範囲を採用することが望ましいとして、必ずしもすべてを行う必要はなく、コスト投人可能な時間や人を考慮して設定することで、どのような組織でも導入できると言う。
 第6章では能力管理の導入事例を紹介している。本書で扱われたすべての内容を含んだシステムの事例として、「現場力向上NAVIシステム」が紹介されている。NAVIシステムは、人材育成・企業内教育で必要となる4つの機能で構成している。今どのような状態かを明らかにする診断機能、能力を向上させる向上機能、向上したかどうかを判定する検証機能、そして、これからの能力に関する予測機能の4つである。
 NAVIシステムの全体像としては、人材育成の結果、現場力が向上することで企業活動に貢献するこのシステムにより、経営の今日的課題に即応し、社員の能力を向上させ、職場改革と課題解決を進めることが可能となると言う。
 組織は常に経営環境の変化に囲まれている。例えば、組織の変更、仕事の多様化、省力化ニーズなどである。このような環境のもとで掲げた経営方針を具体化し、企業理念の実現を図る。当面解決すべき課題も少なくないとすればどう能力管理から解決に貢献できるかと、森氏は問いかける。そして、そのため、これまでバラバラに行ってきた能力開発や人材育成の取組みを1つの考え方で整理してより有効に機能できる姿を描くことにしたと言う。これがNAVIシステムである。このシステムを通じて組織がもつ過去の資源も未来の資源も整理・統合して、組織が変化に対応するのをサポートしたいとのことである。なぜなら、NAVIシステムは個々人の能力の向上をもたらし、職場の改革につながり、個々の課題解決を可能にするからだと言う。
 NAVIシステムの特徴は、個々の機能が相互に関連しあって最大の効果をもたらすことだと言う。現場力を継続的に維持・管理する「能力開発システム」と言い換えることもできる。企業にとって、現場力の安定的な確保は生産性の向上に欠かせない。とりわけ、高度な技術・技能が要求される部署はなおさらである。このシステムはまた、合理的な能力管理の仕組みを提供する。いわば能力開発プラットフォームをイメージしている。従来から取り組んできた能力開発の資源をNAVIシステム上に再配置することで、そのすべてを生かすことができる。例えば、能力開発に関係した図書や文書、機材などもこのプラットフォーム上に配置する。これまで使用してきた作業手順書やOJT指導書、力量考課表なども形を変えながら使いやすい形で配置できる。これらの内容は単一の目的、単一の機能である場合が多く、他との関連性や拡張性などは考慮されてこなかったものばかりである。そのため、NAVIシステムの柔軟性・適応性は高いと森氏はNAVIシステムの意義を説明する。
書評(生産現場の管理士向け)  職場によっては「能力管理」、「人材育成」という言葉に抵抗を感じる人は多い。この方々に向けて丁寧に説明すると共に人の扱い方にも丁寧にあるべきだ。個人化が進む今日の社会の若者にとっては、「管理」されたり、「育成」されたりするのはいい迷惑、なるべく組織とは距離を置いてつきあっていこうということになってしまうだろう。能力管理を担当する人が「一人一人が自己の能力発揮が可能となり、充実した生活を送り、充実した未来を切り拓けるようにするためのもの」(本書より)と胸を張って若者に言えるようにすることが必要である。そのために、本書は有益な示唆を与えてくれる。  ここでは、本書のハイライトを紹介しよう。  本書のコンセプトを「個人としての能力開発」と「組織としての能力開発」の調和としていることだ。「個人の充実発展」から「組織の充実発展」に軸足を移して推進することを探究すると言う。社員一人ひとりの個の充実と組織の維持・発展を調和させるキーワードとして「能力管理」を取り上げると書かれている。  次に能力管理のねらいは能力開発を効果的に進め、結果として対象者の能力を発揮できるような環境を整えることであるとしている。  本書の構成は次のようになっている。始めに「能力管理の考え方」について述べ(第1章 職場の課題と能力管理、第2章 能力管理とは何か、その範囲と機能)、次に「能力管理の方法」を記載している(第3章 能力マップによる能力管理の方法、第4章 作業指導による能力管理の方法)。そして、「能力管理の実際」を紹介する(第5章 能力管理の推進モデル、第6章 能力管理の実際(事例編))。  本書で特に注目すべきは第6章である。ここでは「現場力向上NAVIシステム」が紹介されている。システムといっても、現場と無関係に作られた既成システムではなく、本書で扱われたすべての内容を、現場の資源に合わせて柔軟かつ統合的に製作し、運用するシステムである。NAVIシステムは、人材育成・企業内教育で必要となる4つの機能で構成している。今どのような状態かを明らかにする「診断機能」、能力を向上させる「向上機能」、向上したかどうかを判定する「検証機能」、そして、これからの能力に関する「予測機能」の4つである。NAVIシステムの全体像としては、人材育成の結果、現場力が向上することで企業活動に貢献するこのシステムにより、経営の今日的課題に即応し、社員の能力を向上させ、職場改革と課題解決を進めることが可能となると言う。あくまでも組織全体のパフォーマンスを人材育成の視点から俯瞰する経営ツールといえよう。NAVIシステムによって、個々人の能力の向上をもたらし、職場の改革につながり、個々の課題解決を可能にすることができる。これが、個々人の「自己肯定感」につながるとともに、最初に述べたように「自己の能力発揮が可能となり、充実した生活を送り、充実した未来を切り拓けるようにする」方法と言えよう。 
【広告文】
■飛躍的な生産性向上を可能にする人材育成マネジメント手法「能力管理」を習得できる一冊!
組織の維持・発展には、組織のもつ優れた技術・技能を他者に伝えることが欠かせません。組織が生み出す製品・サービスの品質を担保するのは、最終的には一人ひとりの技術・技能だからです。
能力管理は、「保有する技能・技術を効果的な能力開発につなげることで、結果として個々人が能力を発揮できるような環境を整える」マネジメント手法です。かつては「誰に能力を管理する権限があるのだ?」と誤解され、ようやく使えるようになったのはつい最近のことです。
本書は、体系化されたマネジメント手法としての能力管理を具体的な事例をもとに解説しており、すぐに現場(会社)で役立てることができます。

第1章 職場の課題と能力管理
第2章 能力管理とは何か、その範囲と機能
第3章 能力マップによる能力管理の方法
第4章 作業指導による能力管理の方法
第5章 能力管理の推進モデル
第6章 能力管理の実際(事例編)

【目次】
第1章職場の課題と能力管理
1-1 人材育成I能力開発をめぐる課題
1-2 人材育成I能力開発とは何か
1-3 能力とは何かI職業能力とは何か
1-4 能力開発のプロセスと考え方
1-5 能力管理による能力開発のシステム展開
1-6 職場が抱える課題と能力問題
1-7 能力評価によるインセンティブ

第2章能力管理とは何かIその範囲と機能
2-1 能力管理とは何か
2-2 能力管理の範囲と機能
2-3 職場の課題解決への能力管理アプローチ
2-4 能力マップを用いた能力管理の方法
2-5 能力管理と連携した能力開発が実現する世界
2-6 能力管理導入のメリット
2-7 能力管理のあるべき姿の描き方

第3章能力マップによる能力管理の方法
3-1 能力管理の方法の全体像
3-2 求める職業能力をリストする
3-3 能力マップの作成と能力開発プログラム

第4章作業指導による能力管理の方法
4-1 能力管理のための作業手順書
4-2 技能分析で熟練を記録する
4-3 技能分析表から技能マニュアルと技能教育道場
4-4 暗黙知管理の方法

第5章能力管理の推進モ引レ
5-1 能力管理による能力開発の推進プラン
5-2 能力管理で実現する人材育成モデル〜現場力向上NAVIシステム〜
5-3 現場力向上NAVIシステム構築のプロセス
5-4 現場力向上NAVIシステムを活用する

第6章能力管理の実際(事例編)
6-1 現場力向上NAVIシステム開発の経過
6-2 現場力向上NAVIシステムによる教育
6-3 現場力向上NAVIシステムの全体構成
6-4 検証機能の内容
6-5 向上機能の内容
6-6 診断機能の内容
6-7 予測機能の内容





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