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書評川口俊明『全国学力テストはなぜ失敗したのか―学力調査を科学する』

さまざまな教育問題が山積していると言われる教育現場において、「即戦力」を求める気持ちはわからないではないが、それが教員養成課程で学ぶことのできる知識を限定し、現行の全国学力テストを維持するのみならず、それを改善しようという試みを潰す方向に働いていることも理解してほしいと著者は言う。本書に書いたような話をすると、全国学力テストに振り回されているはずの学校の先生から反論を受けることがあると言う。「政策のためのテストが必要だと言われても、学校現場は多忙なんだ。すぐに役立たないテストをしている暇はない」、「目の前の子どものために何ができるかが知りたいのであって、どうにもならない学力格差の話が聞きたいわけじゃない」と言われることは決して珍しくないと言う。
 評者は考える。このようなことでは、評価活動が格差の解消などの改善につながらず、教員各自が自分の目先の活動に追い回され続けることになるだろう。まずは、この狭い視野を広げないといけない。

書評

川口 俊明 (著)
全国学力テストはなぜ失敗したのか―学力調査を科学する
2020/9/5
岩波書店
\2,090

 本書は言う。全国学力テストは、毎年数十億円という予算をかけて実施されているにもかかわらず、関係者たちが当初期待していたような目的を果たせないどころか、さまざまな混乱を引き起こしている。だが、本書は、全国調査は必要と説く。ただし、そのためには、「学力調査」への見識と尊重が欠けているというのだ。
 とくに問題となる全国学力テストの市町村別・学校別の正答率を公表するべきか否かという議論だが、それは現行の全国学力テストの目的や調査設計が中途半端であるために生じたものであり、適切に調査を設計すれば、こうした議論はそもそも生じる余地がないと言う。
 著者は、問題のもっとも大きな要因として、日本の教育行政に「実態を把握する」という発想が欠けているという点にあると指摘する。日本の教育政策は一部の関係者の「思いつき」で決定され、実行に移されることが少なくないと言うのだ。そのため、日本には、自国の子どもたちの学力の変化を把握できる自前の学力調査が存在しておらず、子どもたちの学力は、この20年で向上したのか、それとも低下したのか、あるいはそれほど変わっていないのかといった基本的な情報すらわからないのだと言う。
 著者は、現行の全国学力テストを維持している要因の一つには、教育関係者の社会調査に対する無知があると言えるのかもしれないと警告する。さまざまな教育問題が山積していると言われる教育現場において、「即戦力」を求める気持ちはわからないではないが、それが教員養成課程で学ぶことのできる知識を限定し、現行の全国学力テストを維持するのみならず、それを改善しようという試みを潰す方向に働いていることも理解してほしいと言う。本書に書いたような話をすると、全国学力テストに振り回されているはずの学校の先生から反論を受けることがあると言う。「政策のためのテストが必要だと言われても、学校現場は多忙なんだ。すぐに役立たないテストをしている暇はない」、「目の前の子どものために何ができるかが知りたいのであって、どうにもならない学力格差の話が聞きたいわけじゃない」と言われることは決して珍しくないと言う。
 評者は考える。このようなことでは、評価活動が格差の解消などの改善につながらず、教員各自が自分の目先の活動に追い回され続けることになるだろう。まずは、この狭い視野を広げないといけない。


目次

はじめに
 本書の目的
 本書を執筆した動機

第1章 全国学力テストをめぐる混乱
 1 都道府県の順位競争
 2 市町村別・学校別の平柊正答率を公表する
 3 全国学力テストの結果を評価に反映させる
 4 学校現場の疲弊
 5 専門家たちの批判
 6 文部科学省の責任は?

第2章 全国学力テストの歴史と概要
 1 1950〜60年代の全国学力テスト
 2 40年の空白と学力低下論争
 3 全国学力テストはなぜ求められたのか
 4 全国学力テストの設計
 5 全国学力テストが明らかにしたこと
 6 2020年現在の全国学力テスト

第3章 PISAから学ぶ学力調査の科学
 1 PISA調査の概要
 2 学力をどう測るか
 3 社会調査の考え方
 4 背景指標を取得する
 5 PISAから知るのが難しいこと

第4章 全国学力テストはなぜ失敗したのか
 1 全国学力テストは学力を測っていない
 2 「指導のためのテスト」と「政策のためのテスト」
 3 全国学力テストの根本問題
 4 「実態を把握する」という発想がない日本の教育
 5 「学力テストを作るのは簡単だ」という思い込み

第5章 全国学力調査を再建するために
 1 今すぐにできること――既存のデータを活用しよう
 2 何のために全国学力調査が必要なのか
 3 理想的な全国学力調査はどのようなものなのか
 4 実態把握を大事にする文化を育てよう

ブックガイド
 大規模な学力調査のデータに触れる
 テスト理論を学ぶ
 社会調査を学ぶ
 家庭環境と学力について学ぶ
 因果推論を学ぶ
 日本社会について学ぶ

おわりに
 いつまで失敗を続けるのか?
 謝 辞





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