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書評苅谷剛彦著『コロナ後の教育へ』

 評者は、教育改革を時代の要請ととらえる立場だが、それでもなお、教育のローカリティと学問を尊重する社会こそ、子どもにも大人にも望ましい市民教育を実現するための基本的条件だと感じる。

書評

苅谷剛彦 著
コロナ後の教育へ
オックスフォードからの提唱
初版刊行日2020/12/9
出版社:中央公論新社
定価本体946円(税別)



 二〇二〇年度は新指導要領、GIGAスクール構想、新大学共通テストなど、教育の一大転機だった。そこにコロナ禍が直撃し、オンライン化が加速した。だが、本書は、文部科学省や経済産業省の構想について、印象論やエセ演繹型思考から発想される改革案であるとして、格差や「知」の面での問題を指摘する。二〇〇七年の学校教育法改正以後、為政者を統制する法の支配の思考が日本の教育改革を主導するようになり、上位法から下位法までの一貫性を求める政策立案の発想が、教える内容や教え方の細部にまで浸透するようになったと言うのだ。そして、この思考様式が演繹型思考と結び付くことで、日本の教育改革神話が強化されてきたと言う。しかも、教育改革の目標に掲げられる表現の中身や改革がめざす資質・能力の内容は一見変わったように見えても、そこでの論理構成は一向に変わっておらず、議論の「正しさ」は、事実に照らした妥当性によって保証されるのではなく、社会での通用性によって受け入れられてしまっていると批判する。
 著者は、英国と日本を比較し、日本では大学改革を主導する政府の前提が「大学性悪説」であるのに対して、英国では大学への社会のリスペクトがあるから、大学が自由や表現の自由が保障される機関として、とりわけ人文系学問がコロナ禍での対応を冷静に相対化できる「賢い市民」を育成する役割を果たしていると言う。
 評者は、教育改革を時代の要請ととらえる立場だが、それでもなお、教育のローカリティと学問を尊重する社会こそ、子どもにも大人にも望ましい市民教育を実現するための基本的条件だと感じる。




 たとえば、国際貢献やビジネスの世界で実際に通用してきたグローバル人材とは、具体的にどのような資質や能力を備えた人たちか。その資質や能力はどこでどのように獲得されたのか。そのような人材は今後どれだけ必要なのか。これらを抽象的にではなく、実績から帰納的に積み上げていく。その中で日本の大学が実際に果たしてきた貢献を、プラス面もマイナス面も含めて憶測を交えずに評価する。このようにして、世界ランキングのような外部の参照点ではなく、自らに正対する日本の大学像を構築しようと著者は訴える。
 本書は、戦後の教育改革が長年求めてきた、「主体性」の育成という改革のゴールについては、そのゴールポストが、定位することなく、移り変わってしまったこと、とくに「主体性」変遷の歴史をたどる。文部官僚を中心とした「法治主義」的な政策立案に埋め込まれた思考様式であるとし、為政者を統制する法の支配の思考が、2007年の学校教育法改正以後、日本の教育改革を主導するようになった背景を描き出す。上位法から下位法までの一貫性を求める政策立案の発想が、教える内容や教え方の細部にまで浸透するようになったと言うのだ。そして、この思考様式が演繹型思考と結び付くことで、日本の教育改革神話が強化されてきたと言う。主体性の形成というテーマについては、大学性悪説という知識の基盤が、アクティブラーニングという、流行の教育思潮を呼び入れてしまったと指摘する。

書誌データ
初版刊行日2020/12/9
判型新書判
ページ数256ページ
出版社: 中央公論新社
定価本体860円(税別)
ISBNコードISBN978-4-12-150708-2

教育改革をその前提から問い直し、神話を解体してきた論客が、コロナ後の教育像を緊急提言。オックスフォード大学で十年余り教鞭を執った今だからこそ、伝えたいこと。
 そもそも二〇二〇年度は新指導要領、GIGAスクール構想、新大学共通テストなど、教育の一大転機だった。そこにコロナ禍が直撃し、オンライン化が加速している。だが、文部科学省や経済産業省の構想は、格差や「知」の面から数々の問題をはらむという。
 以前にも増して地に足を着けた論議が必要な時代に、今後の教育を再構築するための処方箋をお届けする。

内容(「BOOK」データベースより)
教育改革を前提から問い直してきた論客が、コロナ後の教育像を緊急提言。オックスフォード大学で十年余り教鞭を執った今だからこそ、伝えられること―そもそも2020年度は新指導要領、GIGAスクール構想、新大学共通テストなど一大転機だった。そこにコロナ禍が直撃し、オンライン化が加速。だが、文科省や経産省の構想は、格差や「知」の面から諸問題をはらむという。以前にも増して地に足を着けた論議が必要な時代に向けた、処方箋を示す。


【目次】(「BOOK」データベースより)
第1部 日本型教育改革の習性(教育を論じる思考の習性/「変化の激しい、不透明な時代」という前提を問い直す/文部官僚による「法を道具にした統治」/大学教育は「抽象的改革論」に抵抗できるか)/第2部 入試改革、グローバル化…大学大混乱を超えて(2019年入試大混乱を生んだ「教育改革神話」を駁す/和製グローバル化の悲哀)/第3部 人文科学の可能性(文系研究の日本的特徴/海外の日本研究の推移が問いかけるもの/人類の危機に人文学は貢献できるか)/第4部 教育論議クロニクルー2016〜20年(グローバル人材と大学/英語ができない日本人/グローバル・メリトクラシー/日本語の壁と大学ランキング/「口先だけの英語使い」はいらない/同学年一斉スタートのリスク/「英語を話せる日本人」が増えたとしても/欲張りすぎる教育改革ふたたび/新大学入試で浮上した「採点問題」/入試改革の闇は「見えないコスト」/ビッグデータ不在の教育行政)/コロナ渦中の教育論


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