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書評生田周二『子ども・若者支援のパラダイムデザイン』
 著者は、学習支援、生活支援、就労支援など特定の分野に偏ることなく、支援をする上での「共通基礎」として備えるべき「専門的能力」の必要性を主張している。評者は、今後の学校教員にも、その専門性の発揮は「本務」の一環だと考える。「社会教育士」資格を有する教員の拡大などの潮流に期待したい。

書評


生田周二
子ども・若者支援のパラダイムデザイン
かもがわ出版
2021/4/28
¥2,640

 著者は、子ども・若者支援とは、家庭・学校・地域と連携しながら、家庭、学校とは異なった観点から、子ども・若者の自立、つまり「子どもから大人への移行」を支援することだとする。そして、日本の子ども・若者が直面している課題に対応する仕組み・構造について、包括的な“第三の領域"、支援する専門職、学問領域、支援を受ける権利の理解がともに欠けていると言う。
 本書は、「第三の領域」と「社会教育的支援」の観点として、@社会福祉、臨床心理学、キャリア教育、職業訓練などの領域と関連づけた構造的把握、A個人の自主性、自発性に基づく自由で自立を志向する学びや活動を重視する自発性理論を基本的価値とする自己・相互学習、B子ども・若者問題を個人の問題に矯小化しない集団的・地域的志向性、C支援には統制的・教化的傾向性などの問題があるという理解・把握などを挙げる。
 「専門性を構成する専門的能力」としては、ナレッジ(知識)=社会制度や資源、子ども・若者に関わる問題についての知識、スキル(技能)=課題に向かうための技能、マインド(価値観)=活動を支え、方向づける基盤となる理念・思想・哲学、センス(感受性)=社会的ニーズを発見するなどの感受性、の4要素を設定する。
 著者は、学習支援、生活支援、就労支援など特定の分野に偏ることなく、支援をする上での「共通基礎」として備えるべき「専門的能力」の必要性を主張している。評者は、今後の学校教員にも、その専門性の発揮は「本務」の一環だと考える。「社会教育士」資格を有する教員の拡大などの潮流に期待したい。

【長文】
 著者は言う。若者は社会の問題ではなく「リソース(資源)」である。著者は、民主主義国家スウェーデンのロジックを「若者政策」を介して解き明かす。そして、若年層の投票率が高く維持されているスウェーデンの若者が社会に参画する姿をレポートしながら、若者の7割が参画する「若者団体」や、教育政策と学校、若者の余暇政策と実践などについて解説する。
 スウェーデンの若者政策について、著者は次のように説明する。移行期にある若者は、身体的な成長や健康、学校での就学、余暇での活勣、政治への参加、就業による経済的な自立、家庭の形成など、さまざまなライフイベントを経験する。それに対応するように、若者政策が構成されている。そして、スウェーデンの若者政策は「参画」という言葉より「影響力」という言葉が使われる。若者の「社会への影響力」は、若者に関すありとあらゆる決めごとや政策、実践に若者が参画する機会が与えられ、若者の声、考え方、視点に耳が傾けられ、その結果、政策や実践に反映され、社会が変わるときに初めて「影響力が発揮された」となる。「参画」はあくまで過程であり、若者の参画の結果として社会が変わるところまで、スウェーデンの若者政策は見ている。
 著者は、「あとがき」で次のように言う。スウェーデンで起きていることは非常にシンプルである。あらゆる人の一人一人の人権を保障し、「あなた自身の社会」を実現すること、つまり「民主主義をつくり出す」という理念に集約される。若者団体やスタディサークルなどのアソシエーション活動こそが民主主義の根幹をつくると位置付けるのがスウェーデンであり、学校やユースセンターが主軸ではない。これこそスウェーデンの民主主義のロジックである。
 「非行の温床ともなり得るユースセンターがそれでも必要な理由」として、著者は次のように述べている。若者の日常は常に非行と隣り合わせの環境である。スウェーデンのユースセンターの歴史に照らせばユースセンターから若者の「非行」は切っても切れない。もともとは思春期にエネルギーが有り余っている若者たちのために「何か新しいことに打ち込める機会」を提供する「集いの場」として導入された。1970年代のユースセンターでは、施設内での若者の飲酒などによる問題で活動の質の低下が目立ったが、当時、ユースセンターに若者を留めておくことは、社会的な問題を防止する役割を持つとみなされていた。この後、80年代には若者に施設の運営に参画してもらうことで自治の機能を高め、非行予防という色は薄まった。
 青少年施設に勤めていた評者から見ると、この「器の大きさ」はうらやましい限りである。わが国では、施設内で若者の小さな非行があると、行政や世間から叩かれ、まずは「施設内では非行を駆逐すること」を求められる。ユースワークがそこで拘泥している状態では、若者の主体性を尊重した社会参加の促進にまでは進めないだろう。
この開かれた交流と活動などが想定される。「経済的側面」=能力開発(キャリアの基礎:知る・できる)。承認の欲求や自己実現の欲求の充足と関連し、キャリア形成の基礎として、学校での学び、資格取得及び課外活動などにより、能力形成を図り、社会参入を促進する段階である。自分づくりの側面を持ちつつ、集団的側面、社会への関与の側面も強い。系統的学習だけではなく、課題探究型のプロジェクトやテーマを設定した活動なども重要となる。「政治的側面」=参画・参入・意見表明(参画:関わる・担う)。自己実現の欲求の充足と関連し、自己の考えや意見を踏まえた自己決定かできるようになり、企画や決定への関与、運営などに関わっていく段階。学校や地域、職場におけるプロジェクト・取り組みなどにおける企画運営、参画などの機会の活用や創出がある。
 「専門性を構成する専門的能力の四要素(仮説)」としては、次の4つを設定している。「ナレッジ(知識)」=社会制度や資源、子ども・若者に関わる問題についての知識。「スキル(技能)」=課題に向かうための技能。個人・グループ・システムに働きかける。「マインド(価値観)」=活動を支え、方向づける基盤となる理念・思想・哲学。「センス(感受性)」=社会的ニーズを発見するなど、状況の要請に対する必要な感受性。
 著者は、学習支援、生活支援、就労支援など特定の分野に偏ることなく、支援をする上での「共通基礎」として備えるべき「専門的能力」の重要性を主張している。評者は、社会教育との連携とともに、個別最適化と多様化の教育において、学校教員にもそのような専門性の発揮を期待したい。「社会教育士」資格を有する教員の拡大などを考えれば、それも夢の話ではないと思う。


【資料】
■もくじ■
第1章子ども・若者支援における概念整理─支援、ケアとの関連において─
第1部“第三の領域" の概念と欠損の背景
第2章「第三の領域」と「社会教育的支援」概念─ドイツにおける議論を中心に─
第3章子ども・若者期を支援する包括的な「第三の領域」の欠損の背景
第4章子ども・若者支援の歴史的理解──「学問」領域の欠損
第2部子ども・若者支援の基礎概念:居場所、自尊感情、対話、自立
第5章自立について……自立の五側面
第6章居場所、アニマシオン、自尊感情
第7章対話の意義と役割
第3部子ども・若者支援の専門性
第8章子ども・若者支援領域の言語化をめざして──専門性の欠損への対抗
第9章子ども・若者支援に従事する者の専門性試論
第10章補論 social(社会的)な視点から見た子ども・若者支援

■著者略歴■
生田 周二(イクタシュウジ)
奈良教育大学名誉教授/子ども・若者支援専門職養成研究所代表。専門テーマは、人権教育・社会教育。

子ども・若者支援とは、家庭・学校・地域と連携しながら、家庭、学校とは異なった観点から、子ども・若者の自立、つまり「子どもから大人への移行」を支援(支え、援助し、見守る)することです。

いま、日本の子ども・若者が直面している課題に対応できる仕組み・構造の不在という現実を、包括的な“第三の領域"、支援する専門職、それらを支える学問領域、そして支援における権利性の欠損と捉え、ここからどのように社会を再構築していくのか、実践者たちとともに新たな枠組みを構想する。




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