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若者論のトレンドCONCEPT

書評 市川力,井庭崇『ジェネレーター〜学びと活動の生成』学事出版、2022年3月


 ジェネレーターは多くの場合、見えないなりゆきを追ってゆくので、そもそも場をまわせない。見通しはまだないし、何から語ってよいかもはっきりしない。コミュニケーションをとるだけでは解決しないケースに直面している。だから、語る前にあてもなくどこかをふらついたり、自分が感じたことを素直に出して、とりあえず何かやってみることから始めたりせざるを得ないのだと言う。
 ワークショップなどの場合、教師でも「教える」という枠組みから自由になって、ジェネレーターのように子どもたちのワークに「巻き込まれてみる」ことも、新しい価値の生成にとって有効なときもあるのだろうと評者は思う。


書評


市川力,井庭崇
『ジェネレーター〜学びと活動の生成』
出版社:学事出版 (2022/3/10)
発売日:2022年3月



 ジェネレーターとは「生成するもの」という意味であり、本書ではこのコンセプトをもとに、教育の枠を超え、自ら探究し、創造する社会をつくる新たな学び、生き方のスタイルを提案する。工業化・産業化が進む前は、人間が創造的に暮らすというのは、自然なことだったと著者は言う。ものや生活の知恵・仕組みも、日々の暮らしの中で、仲間とともに自分なりに工夫して生み出していたと言うのだ。本書は、ジェネレーターにより、このような創造的な暮らしを取り戻そうと提唱する。
 ジェネレーターは、みんながどんな考えでも出せるように、あるいは違うアプローチに気づくようになるための迂回路としてトリックスター(道化)的にふるまうと言う。時には正論を示し、また時にはトリックスターとなるジェネレーターとしての教師は、学生に対して強烈な影響を与える。それは、客観的な立場で指導したり、コントロールしたりしているのではなくて、自分もその中に巻き込まれており、相手に影響を強く及ぼすと同時に影響を受ける側でもある。そのため、語る前にあてもなくどこかをふらついたり、自分が感じたことを素直に出して、とりあえず何かやってみることから始めたりせざるを得ないと言う。
 ワークショップなどの場合、教師でも「教える」という枠組みから自由になって、本書の言うように子どもたちのワークに「巻き込まれてみる」ことも、新しい価値の生成にとって有効なときもあるのだろうと評者は思う。


著者は、「新たな学び、生き方のスタイル」について、次のように説明している。
 ここから先は、ワクワクする創造的な世界が広がります。ここでは、いろいろなものに出会うでしょう。きれいに整理された人卜的な世界ではなく、ちょっと混沌としていて雑多なものが混じり、関わりあい、新しい出来事が生じている、そんな森です。これは、過去から現在にかけて蓄積された世界であり、また、未来が始まっている世界でもあります。
 これからの時代は、どんな人も創造的に暮らす時代だと言えるでしょう。「創造的な暮らし」というと、これまでとは異なる新しいことのように聴こえるかもしれませんが、工業化・産業化が進む前はごく当たり前のことでした。なぜなら、私たちは日常で必要なものを自分たちでつくって生活していたからです。ものだけでなく、生活の知恵・仕組みもこうして日々の暮らしの中で、仲間とともに自分なりに工夫して生み出していました。むしろ、人間が創造的に暮らすというのは、自然なことだったのです。
 しかし、私たちは消費社会・情報社会を生きるなかで、自らつくり出さずとも安楽に暮らせるようになりました。それは自然を征服し、人為によってコントロールし、安定して暮らすという人類の目論見の産物でした。その仕組みは、ある面では成功しましたが、他方で、人工的な環境・制度のなかで人間性が大きく損なわれるという事態も生み出しました。人類全体が幸せを享受する道をひらくことなく、持てる者と持てない者との格差を生んでしまいました。そのうえ、地球の環境に大きな負荷をかけ、このままでは人類の未来の生存は危ういというレベルに達していることは、ここで改めて言うまでもないでしょう。また、新型コロナのような感染症が、あっという間にこれまでの常識を覆し、否応なく新しい社会の仕組みをつくらざるを得ないように私たちを追い込んでいます。
 こうした状況において、とりあえず自分なりにやり始めてみようかなと動き始めた人がいます。一方で、動きたいと思っても「どうしたらよいかわからない」と、行動に踏み出せないでいる人たちもたくさんいます。こうした人たちが、ゆるやかに交わりながら創造的に暮らしていくためにはどうしたらよいのでしょうか?その鍵が、「ジェネレーター」として生きるというあり方です。



目次
はじめに――ジェネレーターの森を散策する
第1部 ジェネレーターの誕生
Episode01 生成 Becoming 井庭 崇
創造的コラボレーションの担い手・ジェネレーター
ジェネレーターは内側に入って、ともに活動する
生成 becoming を促す・生きる
ジェネレーティブ・パーティシパントという言葉の誕生
映像のマジックに魅了された中高時代
プロデューサー兼ディレクターという役割
グループワークにのめり込んだ大学時代
プロデューサー兼ディレクターとしてチームで研究に取り組んだ大学院時代
大学教員になって――「コラボレーション技法」という授業
教員/学生という非対称性と個人研究という壁
学生とコラボレーションして研究するスタイルの確立
市川さんとの出会い――ジェネレーター概念の誕生
ティーチャー、ファシリテーター、そしてジェネレーターへ
創造のスパイラルを生成する
意味を増幅・共鳴させる場をつくるジェネレーターシップ
相互ジェネレートによるエネ返し
Episode02 起源 Origin 井庭 崇
語源から考えるジェネレーターシップ
「generate」などの言葉の語源を紐解く
「generator」という言葉の歴史
conduct・educate・produceの語源的意味
create と makeの違い
日本語の「生成」の語源
哲学的に見た「生成」
システム理論から見た「生成」
Episode03 創造社会 Creative Society 井庭 崇
ジェネレーターが求められる社会とは
3つの「C」で見る社会の変化
「つくる」ことが豊かさを象徴する創造社会
創造社会の到来
自分でつくることができる社会、つくらなければならない社会
四半世紀で世界は大きく変わる
極度の分業による分断化
創造実践を行う複合としての自分
自由な創造実践を支えるパターン・ランゲージ
創造のコラボレーションを促進するジェネレーター
形骸化した仕組み・制度をつくりなおすためのパターン・ランゲージとジェネレーター
プラグマティズム型の創造的民主主義の時代
社会を変える方法――ヴォイスとイグジットから、ジェネレートとリフレームへ
自分たちで自分たちの課題を解決し、よりよくするためのジェネレーター
「大きく」「一気に」ではなく、「小さく」「じわじわ」ジェネレート
ひたすら「愚」直に「つくる」道を歩むのがジェネレーター
人間関係を超えた自然・創造・ファンタジーの世界へ飛び出ること
第2部 ジェネレーターの役割
Episode04 なりゆきをつかむ GRASP 市川 力
ジェネレーターという「あり方」の発見
ジェネレーターという発想の原点となったプロジェクトのやり方
「ジェネレート」とは子どもを駆り立てること
「好き」と「好奇心」の違い
「好奇心」を開くためにともにたくらむ
たくらむ中で自然にジェネレートする「知識獲得」モード
つら楽しいことを面白がる存在
子ども「を」つかむのではなく、子ども「と」「見えないなりゆき」をつかむのが「GRASP」
「GRASP」の「G」は「ガイド」すること
「Guide」したら「Release」 解き放ち、待つ
思いつき・発見を「A=Accept」することで生まれる信頼感
「変」なのがいい
相手を巻き込むならまずこちらが盛り上がる
失敗も無様な部分も「さらけ出す」のが「Show」
本物を「見せて」「魅せる」機会をつくる
「一蓮托生」の場に「参加=Participate」する
面白がりの「伝染」
「ジェネレーターシップ」を発揮している人の3つのふるまい
不確実な状況を「Accept」するジェネレーター
発見の連鎖をとめないように率先して引き受けるのがジェネレーター
ジェネレーターは「5つの禺=5G」を追いかける
ひらめき・偶然は心をオープンにして没入したときに飛び込んでくるもの
ジェネレーターは二者択一せず矛盾・対立をパラレルで追いかける
ジェネレーターは「ユーモア」で思「枠」はずし
もうひとつのリアルこそファンタジー
「もうひとつの世界」という「仮説」を生み出すファンタジーの力
ジェネレーターはみんなで試し、作り直して、不確実な状況で企て続け、変わり続ける
ジェネレーターはなんとなくの方向性という北極星をたよりに見えないなりゆきを進む
Episode05 中動態 Middle Voice 井庭 崇
ジェネレーターのふるまいの根本にあるもの
創造のコラボレーションに参加するジェネレーター教師のあり方 井庭研での事例
相手を評価する学びから、学生たちとともに対等な立場で創造し、高みを目指す学びへ
ジェネレーターのトリックスター性
他者への評価の仕方で自分も評価されるのがジェネレーターシップ
ジェネレーターの生成の場となる――中動態としてしか表せない出来事
自己の「内側」と「外側」が一体化して「参加」するのがジェネレーター
「私」と「私のすること」を引き裂いた近代社会
自分をものさしとして自分を計測するジェネレーター
西洋的ロゴスの思考を乗り越えて、何かを感じる人になる
ジェネレーターは没入し、自分が場の一部となって発見の連鎖に加担する
ジェネレーターシップの「定義」
Episode06 場の力 Field Force 市川 力・井庭 崇
ジェネレーターとともにつくりだす舞台
ジェネレーターはプロジェクトの場への「生成的な」参加のあり方
日常所属している組織の変革よりも「鎧」を脱いで面白がれる場をつくることが先決
大人と子どもが一緒に企み、思いつきを解き放つ場をつくる
教育場面におけるファシリテーターのマインドとジェネレーターのマインドの使い分け
目先の成果を追わず、つら楽しく生成し続ける場をつくるのがジェネレーター
強者と弱者が生まれないフラットな関係を生み出すメタメタマップ
創造に真剣に向きあい、ジェネレーターも参加者も対等にしのぎを削る場
ジェネレーターシップを発揮しやすい人数サイズ
一対一でのジェネレーターもある
プロジェクトの場にジェネレーターは何人いてもかまわない
とまどいと問いを与える「場」をつくり、トリックスターとしてふるまうジェネレーター
よりよい作品をともにつくり込むガチのジェネレーター
とらえ直しのショートパスを出し続けるジェネレーター
ジェネレーターは機能であり、属人的特徴ではない
感情的にポジティブなのではなく、創造の「場」という「舞台」に巻き込まれている
第3部 ジェネレーターの成長
Episode07 なりきる Mimesis 市川 力
なりきリフレームで意味づける
ジェネレーターはリフレームして面白がる
なりきリフレームというワーク
自分なくしによる思「枠」はずし 無責任になる
予想外の自分が浮かび上がる「なりきリフレーム」
フィクションの「木を植えた男」が「なりきリフレーム」を引き起こし現実を動かした
対象になりきって俳句づくり なりきり俳キング
四コマなりきリサーチで推理
目の前にあるちょっとした不思議に眼を向けて「なりきリフレーム」することを習慣化
「面白いふり」をするのではなく「面白くしてしまう」のが「面白がる」こと
新たな意味でとらえなおし「リフレーム」するための知識獲得
Episode08 歩き、つくる Walk and Work 市川 力
あてなき探索を続け、あるべきカタチを追究するジェネレーター
Feel度 Walk 歩くと場から感じる感度が高まる
歩き愛でスイッチがONになるのがジェネレートの始まり
発見の拡張 Discovery Driven Expanding
なんとなく気になることを写真に撮る Feel度 WalkでMy Discovery
My Discoveryのシェアが生み出すYour Discovery
発見がひとつに合わさる Our Discovery
個人を「モチベーション」することよりを「面白いね! 」と認めあうこと
Feel度 Walk・Focus Walk・Ferment Walkという探索・試行・表現
歩くように試行し、思考する
プロジェクトというWork
発見のFeel度が高まるWork ?カオス研究の事例?
出「遇」いと出「遇」いがつながって生まれる「偶」に導かれるFusion Work
質の高い、あるべきカタチを目指して作品化して表現するFantasy Work
Fusion Work・Fantasy Workのための読書
ありふれたものに新たな光を当てて手近なWorkを始める
ジェネレーターシップはWalkとWorkの積み重ねの末に「持つに至る」もの
Episode09 仲間 Collaboration 市川 力
仲間とたくらむ「コ」Laboレーション
発見の「拡張」は発見の「コ」Laboレーション
合わせず、ズレて重ねる対話で発見の「コ」Laboレーションを促す
「コラボレイト」は「コー+レイバー」 つら楽しいプロセスから生まれる「連帯感」
同じ思いを持つ小さい「仲間」をつくり実験的にチャレンジする
生煮えの思いや実践を共有し、出会い、学び続けるコミュニティ We are Generators
学びと活動を生成し続けるジェネレーターシップに満ちた社会

商品の説明
著者について
市川 力(いちかわ・ちから)
一般社団法人みつかる+わかる代表理事

1963年生まれ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。元東京コミュニティスクール 校長。
長年、大人と子どもが一緒になって探究する学びを研究・実践。全国各地を飛びまわり、多様な人たちが持ち前の好奇心を発揮してともに成長する場をつくるジェネレーターとして活躍。なんとなく気になったことを集めて歩き、旅し、妄想し続ける「雑」のアーカイバー。
主な著書は『探究する力』(知の探究社)、『科学が教える、子育て成功への道(今井むつみとの翻訳書)』(扶桑 社)分担執筆者として、井庭崇編『クリエイティブ・ラーニング 創造社会の学びと教育』(慶応義塾大学出版会)、『もし「未来」という教科があったなら』(学事出版)。

井庭 崇(いば・たかし)
慶應義塾大学総合政策学部教授

1974年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、2003年同大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。博士(政策・メディア)。
株式会社クリエイティブシフト代表、一般社団法人みつかる+わかる理事、および、東京大学発達保育実践政策学センター協力研究者も兼務。
著書に『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』『プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』(以上、慶應義塾大学出版会)、『プロジェクト・デザイン・パターン』(翔泳社)、『対話のことば』(丸善出版)、『コロナの時代の暮らしのヒント』(晶文社)など多数。





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