書評高橋俊介『キャリアをつくる独学力―プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』東洋経済新報社、2022/8/26
この先「なくならない」「必要とされる」仕事をするためには、「真のプロフェッショナル」として成長しつづけ、生き残る必要がある。そのためには何が必要か。それは、「学びつづける」ことである。常に「アウトプット」と「思考の準備」を怠らず、「自論」を語れる人になり、「学び」「仕事」「キャリア」3つの自律を回し、人生を切り開いていく。本書は、その方法を教える。生徒の「主体的な学び」のために尽力している教師であれば、本書の内容は、勇気づけられるものといえよう。同時に、教師自身も、「子どものために役立つ」ことよりも先に、「楽しさと意味を感じる学び」として「研究と修養」の義務をとらえ直すことが必要だと評者は考える。
書評
高橋俊介『キャリアをつくる独学力―プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』東洋経済新報社、2022/8/26
本書は次のように言う。この先「なくならない」「必要とされる」仕事をするためには、「真のプロフェッショナル」として成長しつづけ、生き残る必要がある。そのためには何が必要か。それは、「学びつづける」ことである。常に「アウトプット」と「思考の準備」を怠らず、「自論」を語れる人になる。「学び」「仕事」「キャリア」3つの自律を回し、人生を切り開いていく。日本企業においても、社員の「リスキリング(学び直し)」が注目を集めているが、その社会人の学びは、「独学」が基本である。だからこそ、いま最も求められているスキルが「独学力」なのである。
著者は、現在の教育のあり方の議論にも直結する提案をしている。
著者は「タテ型OJT」から「ヨコの学び合い」へと題して、次のように述べている。日本企業でも、「タテ社会的」な組織モデルが有効だったころは、上司や先輩が自らの経験をもとに部下や後輩を育てる「タテ型の人材育成」がもっぱら行われてきた。上下関係の中で下が上に学ぶ「タテ型OJT」がきわめて強力に機能した。しかし、環境変化により、上司や先輩が積み上げてきた経験や既存の知識が通用しなくなり、「タテ型OJT」が次第に機能不全になってきたことから、「ヨコの学び合い」による創発型の職場学習を重視する企業も出はじめている。「ヨコの学び合いの場」が有効なのは、互いに刺激し合い、気づきを得ていくことで、個々人の「学びの主体性」が引き出されるからである。その意味で、独学力と「ヨコの学び合い」は、学び方を変えていくためのクルマの両輪といえる。
「ビジネスモデルの変化」については、次のように述べている。ビジネスモデルはさまさまな条件のもとて成り立つため、多くの場合、条件が変わることによって成り立たなくなるという「賞味期限」がある。これらの流れを考え、もし自分の関わっている事業のビジネスモデルが陳腐化する、あるいは、大きな変容を求められると予想されたら、次のビジネスモデルを想定し、そのための独学を始めるへきてある。「ビジネスモデルの賞味期限」を意識するということは そのビジネスモデルを成り立たせている条件について深く掘り下けるということである。それは 条件の変化に対応するための次のビジネスモデルを想定することにもつながり、そのためには「何をどのように学んでいけばいいか」が見えてくるはずである。
著者は、いま個人に本当に求められているのは、「ジョブ選択を通じたキャリア自律」以上に、「学び方改革が生み出すキャリア自律」だと言う。重要なのは、「仕事自律」と「学び自律」を相互に関連させながら回していき、結果として「キャリア自律」が実現する、ということである。自分に向いている仕事につくというより、自分に向いているように仕事をする。仕事の仕方も学びの仕方も、「自分らしさ」の連鎖により、結果的に自身のキャリアが出来上がっていくことが大切である。
著者は、「近視眼的功利性の詰め込みから、楽しさと意味を感じる学びへ」と題して、次のように述べている。日本において、主体的な学びを妨げるひとつの要因として、学びに楽しさや面白さを感じる人が少ないことがある。その背景にあるのは、学生時代の丸暗記の受験勉強の体験だろう。歴史についても、登場する人物の名前と年号の丸暗記の記憶しかない。それが成人になって、日本史や世界史関連の本を読むと、歴史の面白さを再認識する。そのギャップは丸暗記式の受験勉強の不毛さを物語る。大切なのは、近視眼的な功利性の追求ではなく、学びの楽しさや意味を感じることである。自分は学習自体を楽しんでいるのか、学習の中身に意味を感じているのか。あるいは、たんに資格合格などの特定の目的の手段なのか、まわりのみんながやっているからなのか。自身の学習動機を棚卸ししてみよう。
著者は、「正解のない課題に対する『自論』の力を重視する学びへ」と題して、次のように述べている。ピラミッド組織では、正解のないなかで。何をするかという「What」を創出する仕事はごく一握りの中枢幹部に集中させ、管理職はその「What」から論理的もしくは経験的に正解を導き出せる「How」に分解し、第一線の社員に「単純化したDoの仕事」を振り分けていた。しかし、環境変化によりビジネスモデルが大きく変化し、個別性の高いソリューションビジネスが重要になってくると、第一線で顧客の抱える課題を掘り起こし、その都度、解を導き出し、「What」を明示していかなければならない。正解のある問題について正解を導く「正解主義」ではなく、正解のない事象について、その都度、「私はこう思う」と自分の考えを明確にし、発信していく「自論」の力をつける学びがより重要になってくる。
著者は、次のようにリベラルアーツを学ぶよう提案する。独学力を身につけるうえで、幅広い普遍的な学びであるリベラルアーツが知的な基盤となる。著者自身、日本企業における人材マネジメントを社会人類学や社会心理学のリベラルアーツの中でとらえ直したことが、本書を執筆するひとつの起点となった。リベラルアーツを学ぶ意味については、次のような理由が指摘される。「グローバルな環境でのリーダーとしての素養」=従来、日本企業のトップには、とくにリペラルアーツの素養は求められなかった。しかし、「ヨコ社会」で「信頼社会」の海外では、エグゼクティブ同士で社交ができることが経営トップの条件のひとつになっている。グローバルな環境では、ビジネスリーダー同士でも、ビジネスの話題とは関係なく、リベラルアーツの素養が求められるような会話が行われるのが通例である。日本人として、少なくとも日本の歴史や文化について「自論」を語れるだけの学びが必要である。
「リベラルアーツを学ぶ基本的な作法」では、次のように述べている。問題意識を持ってインプットにのぞむ=たとえば、日本人と欧米人の思考や行動の違いについて、世の中に流布する「農耕民族対狩猟民族論」を鵜呑みにするのではなく、「本当にそうなのか」「本質的な違いはとこにあり、それはなぜなのか」といった、普遍的な問題意識を持つことが学びの起点になる。問題意識を持って勉強するかどうかで、気づきの数と深さは格段に異なる。ファクトに対して謙虚である=自分の考えや仮説や先入観、さらには思想や信念にとって都合のいいファクトだけをつまみ食いしてはならない。自分の考えとは合わないファクトがいくつも出てきても、それを受け入れ、自分の考えを修正する謙虚さを持つことが大切である。権威者に対してではなく、ファクトに対して謙虚であることを意識しよう。インプットをペースに、「自論」を形成する=ファクトをインプットしたら、必ず「自論」を形成する。それは、いま述べたような「自論」の修正も含める。「自論」をアウトプットし、「ヨコ」で議論し、気づきを得る=「自論」を「ヨコ社会的」なコミュニティなどの学び合いの場でアウトプットし、議論し合うなかで、気づきや刺激を得ていく。異なった意見を前向きに議論する=アウトプットの際、自分とは異なる意見が出てきても、表面的な好き嫌いで判断したり、一方的に否定したりするのでなく、前向きに議論し合う。なぜそのような意見が出てきたか、背景を理解することが大切である。異質の分野間での関係性に気づき ファクトを意味としてつなげる=リベラルアーツを学ぶ作法で最も大事なのは、異質な分野間の関係性に気づくことである。自分の専門性とは一見関係のないように思える分野のファクトについても、その意味合いを理解していくことで、つながりを見つけ出すことができる。日本のGPAトップクラスの学生の話を紹介したところで、講義を受けるとき、自分の知識やほかの授業とのつながりを意識して聴いている例をあげたが、まさにそのような学び方が重要なのである。こうした学びの作法を繰り返すことで、独自の世界観を構築していく。これが「普遍性の高い学び」である。
生徒の「主体的な学び」のために尽力している教師であれば、本書の内容は、勇気づけられるものといえよう。同時に、教師自身も、「子どものためにすぐに役立つ」ことよりも先に、「楽しさと意味を感じる学び」として「研究と修養」の義務をとらえ直すことが大切であると評者は考える。
【広告文より】
【キャリア論の第一人者が「社会人のための学び」を完全解説!】
【「何かを学びたい人」「教養とスキルを高めたい人」「今、独学を始めようとする人」にとって最高の入門書!】
【教育にも最適!独学力が高い人材を「育てる」ヒントも満載!】
日本のビジネスモデルは、大変革を遂げようとしています。
「これまでと同じ」では、もう生き残れません。
この先「なくならない」「必要とされる」仕事をするためには、
「真のプロフェッショナル」として成長しつづけ、生き残る必要があります。
そのためには何が必要か?
プロフェッショナルとして生き残るために必要なことは、「学びつづける」ことです。
常に「アウトプット」と「思考の準備」を怠らず、「自論」を語れる人になる。
「学び」「仕事」「キャリア」3つの自律を回し、人生を切り開いていく。
日本企業においても、社員の「リスキリング(学び直し)」が注目を集めています。
その社会人の学びは、「独学」が基本。
だからこそ、いま最も求められているスキルが「独学力」なのです。
「新しい時代」の変化に対応する「独学力」を高めるための
「画期的バイブル」「最高の入門書」が、遂に登場です!
【現在、社会で起きている「変化」を徹底分析!】
★「その仕事」がいつなくなるのか
★「人間が担うべき仕事」が、どう変化するのか
★ビジネスモデルの変換で、個人のキャリアはどうなるのか
★日本企業の「タテ型構造」が大きく崩れるときが来た
★「受け身のリスキリング」では、太刀打ちできない
【日本の「タテ社会」から欧米各国の「ヨコ社会」への転換】
★日本の強みが無力化する時代
★自分がいる業界の「ビジネスモデルの賞味期限」はいつ?
★必要なのは「仕事自律」「学び自律」、そして「キャリア自律」の好循環
★お金や社会的地位の「外的仕事満足」から、
やりがいや自己成長などの「内的仕事満足」の時代へ
【独学ができる人・できない人では、この先大きな差がつく!】
★ビジネスモデルは「野球型」から「サッカー型」へ
★年功序列、権威勾配がもたらす弊害
★大切なのは「応用力」につながる普遍性の高い学び
【変化の自体に「揺るがない」キャリアの築き方】
★「専門性コンピタンシー」とは何か
★磨くべき専門性を理解し、自分にしかできない仕事をする
★企業にとっても重要な「先物キャリア人材」
★「ピアレビュー(同僚評価)」を重視する
★「ヨコ型のコミュニティ」で専門性を磨く
【自分に合った「独学」を実践するための「50のヒント」を紹介】
(例)
★「越境学習」で刺激を受ける
★「メタ認知」で自らを客観視し、「認知の歪み」を修正する
★若い時代の「異質な体験」で、ものの見方を成長させる
★学んできたことを「捨てる勇気」も、時には必要
★「バズワード」は背景を理解し、自ら再定義し、意味づけしてから活用する
★「ネットワーキング行動」で、チャンスにつながる布石を打つ
★気になることは「英語で検索」の習慣をつける
◎珈琲店オーナー、サッカー指導者、研究者、企業家──
一流の独学者4人から学ぶ、キャリアと学びの具体例を紹介
◎アートとキャリアの専門家に聞いた、独学への考察
好奇心さえあれば、学びは日常のありとあらゆる場面に存在する!
独学力を高め「新しい時代に必要な力」を身につけよう!
<目次>
【第1章】「仕事」と「学び」を根本から変える5つの大変化──いま起きている変化と問題の本質
【第2章】目指すは「キャリア」「仕事」「学び」3つの柔軟な自律性
【第3章】独学力を高めるとは、どういうことか
【第4章】一流の独学者の事例に学ぶ独学の作法と意味
【第5章】自分自身の「専門性コンピタンシー」を強化せよ
【第6章】リベラルアーツを学ぶ意味と基本的な作法──リベラルアーツは、独学と世界観の出発点
【第7章】独学を実践するためのヒント──個人は独学をどう進めればいいのか
【特別付録】独学力を高めるリベラルアーツのための読書案内
「独学」とは我流ではなく「学びの主体性」である
独学とは「学びの主体性」を意味し、その「学びの主体性」は「Why」「What」「How」の3つの要素から構成されます。
つまり、「なぜ学ぶのか」「何を学ぶのか」「いかに学ぶか」これらを自ら選ぶことが求められます。
本書は、独学力が注目されるようになった背景、仕事とキャリアと学びとの有機的な関係性、独学力を高める意味合い、独学の主たる目的のひとつである「専門性コンピタンシー」の強化の仕方、独学の進め方.....など独学力に関する「Why」「What」「How」に答えるものです。
より具体的に学ぶ独学者の事例、さらには、独学を支える知的基盤としてのリベラルアーツ(教養)を学ぶ作法も紹介しています。
変化が激しく、正解のない時代にあって、独学力が高い人はどのように学んでいるのか?
学習コミュニティ
目標をたてる GOAL
自己主張
@「内向きのタテ」から「外向きのヨコ」へ
社内での過去の経験や、知識の「タテ型の伝承」に偏ることなく、主体的に学ぶ個々人が形成する「ヨコの学び合いの場」などに参加し、刺激し合い、気づきを得ていく。このようにすることで、「創発」が生まれます。
A詰め込みの学習から、楽しさと意味を感じる学びへ
自分は学習自体を楽しんでいるのか、学習の中身に意味を感じているのか。あるいは、単に資格合格などの特定の目的の手段なのか、まわりのみんながやっているからなのか。
自身の学習動機を棚卸ししてみましょう。
B正解のない課題に対する「自論」の力を重視する学びへ
正解のある問題について正解を導く「正解主義」ではなく、正解のない事象について、その都度「私はこう思う」と自分の考えを明確にし、発信していく「自論」の力をつける学びがより重要になってきます。
学びは日常生活の中に溢れている
好奇心さえあれば、学びは日常のありとあらゆる場面に存在するのです。
「主体的な学び」は、仕事上のキャリアだけでなく、人生全体を豊かにします。若い世代にとって最初の資本となるのは、好奇心や夢、そして体力でしょう。それらの資本を活用して、主体的に学びながら、知恵を増やし、人々との関係性を広げていくことで、キャリアや人生を切り開いていく。
そして、これまで以上に主体的に学び、キャリアや人生を切り開いてきたミドルやシニアも、人生資本の再投資により、豊富な引き出しや、自身の人生を肯定するさまざまな記憶、多様な人達との関係性という資産を獲得していく。
若い世代も、ミドルやシニアも、生活のすべてにおいて独学力を身につけ、主体的に学ぶことで人生のオーナーシップを取り戻してほしいと思います。(おわりにより)
著者について
高橋俊介 (たかはし しゅんすけ)
1954年東京都生まれ。1978年に東京大学工学部航空工学科を卒業し、日本国有鉄道に入社。1984年に米国プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼー・アンド・カンパニ−東京事務所に入社。1989年に世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国ワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現ウイリス・タワーズワトソン)に入社。1993年に同社代表取締役社長に就任。1997年に社長を退任後、個人事務所ピープルファクターコンサルティングを通じて、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援などを行う。
2000年に慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。個人事務所による活動に加え、湘南藤沢キャンパスのキャリア・リソース・ラボを拠点とした個人主導のキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事。2011年より、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。2022年4月より、現職である慶應義塾大学 SFC研究所上席所員。キャリア形成、人材マネジメント、リーダーシップ、働き方改革などに確かな知見を有し、本質を見抜く目に定評がある。
沖縄県那覇市にも事務所兼住居を持ち、1年のうち3割は沖縄で暮らしながら仕事をしている。
主な著書に『キャリアショック どうすればアナタは自分でキャリアを切り開けるのか?』『新版 人材マネジメント論 儲かる仕組みの崩壊で変わる人材マネジメント』『21世紀のキャリア論 想定外変化と専門性細分化深化の時代のキャリア』(以上、東洋経済新報社)、『人材マネジメント革命 ポスト終身雇用 自由と自己責任の新人事戦略』(プレジデント社)、『自分らしいキャリアのつくり方』(PHP新書)などがある。
若者文化研究所は若者の文化・キャリア・支援を専門とする研究所です。