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若者論のトレンドCONCEPT

書評古屋星斗『ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由』中公新書ラクレ、2022/12/8

 2020年のパワーハラスメント防止法等、一連の「職場運営法」改革が行われ、職場が「ゆるく」なった。著者の調査では、大手企業新入社員は、このような会社が好きで満足はしているのだが、自らのキャリア形成に関しては不安が高まって辞めてしまうと言う。これを著者は「不満型転職から不安型転職へ」と表現する。学校においても、一つの企業に定着して働く「囲い込み型」ではなく、転職してキャリアを自律的に育んでいくような生き方を応援できるような「開放型」のキャリア教育が求められているのだと評者は考える。


書評



古屋星斗『ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由』中公新書ラクレ、2022/12/8


 ブラック企業が問題となり、2020年のパワーハラスメント防止法等、一連の「職場運営法」改革が行われ、職場が「ゆるく」なった。本書は、負荷は高くないし理不尽さもない、叱られないし居心地が良い、これを「ゆるい職場」と呼ぶ。著者の大手企業新入社員への調査によると、リアリティショックもなくなり、会社のことが好きで満足もしているのだが、不安が高まっていると言う。「会社のことはゆるくて好きだが、キャリアは不安なので、退職を考えている」と言うのだ。この「職場がゆるくて辞める」状況を「不満型転職から不安型転職へ変わった」ことだととらえる。
 入社前から社会的な経験を持ち、自律的な姿勢を身に着けている若手の方が離職率が高いという問題に対して、キャリア形成への不安は「離れ小島」と感じている社内だけでは解消できない、外の視点を入れる必要があると言う。「不満」の解消と異なり、「不安」の解消は管理職個人だけでは問題の構造的に不可能である。昨今、「まず若手の意見を聞け」と言うが、この意見をまず聞くというコミュニケーションスタイルは「不満」のマネジメントの手法ではないか。若手の「不安」を解消するために必要なのは、管理職が「勇気を持ってしっかりと自分の意見を若手に伝える」ことではないか、と訴える。管理職が自分の意見を伝えなければ、若手がその意見を選択肢のひとつにすることすらできないとして、「その若手にとっての選択肢・参考情報の一つとして自覚し、自分の意見や意思を明確に伝える」という情報提供のスタイルを提唱する。
 情報化社会の中で、常に相対的な意見を比較するスタイルを若手が持っているからこそ、管理職層がこの勇気を持つことが必要と言う。それは「まず意見を聞いて、その若手に最適な正解を管理職がアドバイスする」という、結局のところ管理職が唯一絶対の正解を示すスタイルではなく、「その若手にとっての選択肢・参考情報の一つとして自覚し、自分の意見や意思を明確に伝える」という情報提供のスタイルである。様々なソースからの情報の取捨選択だけが、「不安」を解消する選択肢を獲得できるチャンスを増やす。その一つの情報源として自分の意見を開示し、そしてほかの情報源も提示する。これが「不安」に対するマネジメントスタイルになると言うのだ。
 また、ゆるい職場の時代には、若手の職場外での活動が増え、かつそのキャリア形成における重要性が高まる可能性が高いと言う。このため、職場外での活動を取り込んでいこう、という動きも盛んになっていくことが予測される。この結果として、ひとりの若者が様々な場で経験を得て、様々な場でその経験を活かす。ある経験が別の経験を豊かにする。ゆるい職場はそんな職業社会を現実のものとする可能性があると言うのだ。そのため、若手の社外活動を積極的に応援し、成長を促すとともに、会社に対する気持ちをポジティブにしていき、辞めたとしても退職者やプロジェクトで自社に参画してもらい、ゆるやかにつながるよう提言する。
 著者は、昔、自身が参加した平日夜開催の社会人講座で、学び直しに来ている社会人の半数ほどが「会社に黙ってきている」と言っていたことを想起する。「職場で言うと、上司や同僚に暇だと思われそう」「先輩に仕事を振られて邪魔されそうだから」だそうである。しかし、お金のかかる学習プログラムに自費で、自分のプライベートの時間を削ってきている若手は、社会にとって、そして会社にとっても宝物ではないだろうかと著者は訴える。そして、こうした若手に「なぜ上司に報告しないのか」というのは、残念ながら少しズレているとし、若手の社外活動を積極的に応援し、成長を促すとともに、会社に対する気持ちをポジティブにしていく。辞めたとしてもアルムナイやプロジェクトペースで自社に参画してもらい、ゆるやかにつながる。これを、著者は、メンバーシップ型を超えた、「バイパー・メンバーシップ型」の会社と呼び、こうした会社こそが、ゆるい職場の時代に人で勝つ会社だと言う。
 学校においても、一つの企業に定着して働く「囲い込み型」ではなく、転職してキャリアを自律的に育んでいくような生き方についても、応援できるような「開放型」の教育が求められているのだと評者は考える。

【広告より】

「働きやすい会社」を、なぜ若者は辞めてしまうのか?
新時代の、若者・仕事・日本社会を紐解く――

「一度も叱られたことがない」
「ここにいても、成長できるのか」
「学生時代と変わらない」

「今の職場、“ゆるい”んです」「ここにいても、成長できるのか」。そんな不安をこぼす若者たちがいる。2010年代後半から進んだ職場運営法改革により、日本企業の労働環境は「働きやすい」ものへと変わりつつある。しかし一方で、若手社員の離職率はむしろ上がっており、当の若者たちからは、不安の声が聞かれるようになった――。本書では、企業や日本社会が抱えるこの課題と解決策について、データと実例を示しながら解説する。
自律的でパフォーマンスの高い若者ほど退職する問題

【目次】

●はじめに――若者はなぜ会社を辞めるのか。古くて、全く新しい問題

●第一章 注目すべきは「若者のゆるさ」ではなく「ゆるい職場」

1 若者の早期離職状況 
日本の若者就労の特徴/3割の退職者/大手企業だけが上がっている

2 これだけ変わった日本の職場運営ルール
「職場運営法」改革/すべてはブラック企業批判から始まった/若者が求める職場環境の条件/日本の職場を変えた3本の法律/ほかにもある職場運営法改革/後押しするマーケット/「ゆるい職場」の登場

●第二章 若者はなぜ会社を辞めるのか

1 グレートリセットされた日本の職場
不可逆的な変化/新卒社員の労働時間/負荷の低下/叱責されたことがない/職場環境の好転/リアリティショックの縮小
2 好きなのになぜ辞めるのか
高まる若者の不安/転職できなくなるんじゃないか
3 若者の「不安」の正体
なぜ職場環境が良くなっているのに不安なのか/不満型転職から不安型転職へ/不安をどうマネジメントするか/ロールモデルになりえない上司・先輩/世界でも起こる若者と職場の関係変化

●第三章 「ゆるい職場」時代の若者たち
1 二層化する若者
「最近の若者」論の限界/コスパ志向/異なる2つの姿勢
2 “白紙”でなくなる新入社員たち
入社時点ですでに違う/学生時代の活動/社会的経験の量/世代間での大きな差/「社会的経験」がもたらすもの/「不安」を感じる新入社員/新入社員の“大人化”
3 「過去の育て方が通用しない」を科学する
10年前の新卒社員と比べる/2016年卒という転機/難問の浮上

●第四章 「ありのままで」、でも「なにものか」になりたい。入社後の若者に起こること

1 “優秀な若者”の研究
若者の悩みと希望/矛盾する2つのキャリア観/情報だけが多くても展望は開けない/行動がキャリアをつくる/4つの実像
2 スモールステップで動き出す若者たち
育成の主語の転換/小さな行動から始める/スモールステップの特徴/アクションと性質/実践5要素/ゆるい職場とスモールステップ

●第五章 若者と職場の新たな関係

1 定着させることが本当の目的なのか
離れ小島に囲い込む/社外活動の効用/転職がなくなるとき
2 「コミットメントシフト」がもたらす新しい関係
関係社員を増やす/新しい関係の成立/ハイパー・メンバーシップ型

●第六章 若手育成最大の難問への対処

1「ゆるい職場」時代の解決不能な問題
2つの難問/成長した若手ほど辞める
2 第一の難問に対処する
いかに関係負荷なくストレッチな仕事をさせるか/横の関係で育てる
3 第二の難問に対処する
自律的でパフォーマンスの高い若者/仕事外の新たな使い方/社内・職場内の「外側の世界」/開示しやすい空気/不安をマネジメントする
●第七章 助走としての学校生活

1 若者を育てるスタートライン
学校を変えなくては優秀な若者は採用できない/動機なき学校選択
2 学びの動機はどうつくられるか
外側にしか学校生活の動機は存在しない/学びの選択が自由な国

●第八章 ゆるい職場と新しい日本

1 キャリア選択が世界一自由な国をつくる
自由の二重奏/行動と動機の好循環を巻き起こす/企業の新しいメンバーシップ/余白を活かすキャリアづくり/あらゆる経験が活きる
2 日本が今後直面する課題
「誰が若手を育てるのか」問題/自律なき自由/はびこるパターナリズム/遅い選択の問題

●おわりに
●参考文献


商品の説明
著者について
古屋星斗
1986年岐阜県生まれ。リクルートワークス研究所主任研究員、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。2011年一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、「未来投資戦略」策定に携わる。2017年4月より現職。労働市場について分析するとともに、学生・若手社会人の就業や価値観の変化を検証し、次世代社会のキャリア形成を研究する。







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