書評田内学『きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』東洋経済新報社、2023/10/18
書評田内学『きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』東洋経済新報社、2023/10/18
本書のストーリーは、中学2年の優斗とある大富豪との問答で構成されている。優斗は、自分たちが暮らしている社会において、人々が労働やお金を通して、どのように支え合い、社会を作り出しているのかに気づいていく。そして、「お金を自分の意志に従って道具として使う」という視点を発見する。
最終章の「僕たちは一人じゃない」では、働くこと自体が、誰かのためになる行為そのものであり、誰かが抱えている問題を解決していると言う。お金が発生しない家事や育児も、立派な労働であり、それも含めて、皆が支え合って生きていると言うのだ。さらに、大富豪は、次のように言う。「君たちにとっての『ぼくたち』の範囲を、家族、学校の友人、会社の同僚、同じ国で生きる人々、そして世界全体へと広げてほしい。昔の僕は、どんなにお金があっても孤独を感じていた。自分のためにも、社会の一員として感じられたほうがいい。そのために、誰もが共有できる目的、未来を共有することが大事だ」と。
現在、学校教育においても金融経済教育の重要性が叫ばれている。そのときに、「我が身」を経済破綻から守るということだけでなく、本書が言うように社会的な視点から、「孤独」に陥らないよう、人々の協働や自らの労働の価値に気づくよう導くことが重要と言えよう。さらに、広く世界の貧困や格差の問題についても目を向け、持続可能な経済のための認識を深めることが必要だと評者は考える。
書評
本書では、中学生の優斗が、ある大富豪との問答の中で、私たちが暮らしている社会において、人々が労働を通して、どのように支え合い、社会を作り出しているのかに気づいていく。そして、そのストーリーを通して、「お金を自分の意志に従って道具として使う」という視点を発見する。
問答の中で、優斗は「お金自体には価値がない」、「お金にはみんなを結びつける力がある」と気づき、その優しさを感じる。また、本書は、「点数に取り憑かれた現代社会」を大富豪の言葉を借りて次のように批判する。学校のテストでも「いいね」の数でも、点数を稼ぐことに夢中になると、本来の目的を忘れてしまう。良い点を取ろうと暗記だけしても学力はつかない。「いいね」が欲しくて写真を撮ることに夢中になると、今を楽しめない。そのようにGDPを目的にすると、肝心の幸せになることを忘れてしまう。さらに「社会を作るって言われても、僕は政治家なんかにならないし」という優斗に対して、「社会は政治家が作るものでも、誰かに与えられるものでもない。僕ら自身が形作っている。どんな問題も、僕ら一人一人が協力して解決している。一人一人の意識が変わって、行動が変われば、社会は変わる」と諭す。投資の目的はお金を増やすことだという風潮に対しては、「株価が上がるか下がるかを当てて喜んでいる間は、投資家としては三流だ。投資しているのはお金だけではない。もっと大事なものを投資しているのだ」と言う。また、問題なのは「社会が悪い」と思うことで、社会という悪の組織のせいにして、自分がその社会を作っていることを忘れていることが、一番タチが悪いと言う。
最終章の「最後の謎−僕たちは一人じゃない」では、働くこと自体が、誰かのためになる行為そのものであり、誰かが抱えている問題を解決していると言う。お金が発生しない家事や育児も、立派な労働であり、それも含めて、皆が支え合って生きていると言うのだ。さらに、大富豪は、次のように言う。「君たちにとっての『ぼくたち』の範囲を、家族、学校の友人、会社の同僚、同じ国で生きる人々、そして世界全体へと広げてほしい。昔の僕は、どんなにお金があっても孤独を感じていた。自分のためにも、社会の一員として感じられたほうがいい。そのために、誰もが共有できる目的、未来を共有することが大事だ」。同席していた金融会社の女性社員は「私の仕事も同じで、金融商品の部分までは見えるけど、金融商品によって資金を調達して助かっている会社は確実にあるし、その会社はお客さんの役に立っている」と言う。
現在、学校教育においても金融経済教育の重要性が叫ばれている。そのときに、「我が身」を守るということだけでなく、「孤独」に陥らないよう、本書が言うように社会的な視点から、人々の協働や自らの労働の価値に気づくよう導くことが重要と言えよう。さらに、持続可能な経済に向けて、広く世界の貧困や格差の問題についても目を向けるように促すことが必要だと評者は考える。
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