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ブックレビューCONCEPT

牧野篤「社会教育の再設計−生活の基盤としての社会教育・公民館」を読む

 若者文化研究所 西村美東士
 日本青年館『社会教育』誌6月号から標記の講義内容が連載されている。これは、東京大学で行われた公開講座「社会教育の再設計」の第5回において、予定していた講師が病気欠席のため、講座全体をコーディネートする東京大学大学院教育学研究科牧野篤教授がピンチヒッターとして登壇したときの講義録である。その内容が「生活の基盤としての社会教育・公民館−自治を再発明する」のテーマのとおり、自由で挑戦的で刺激にあふれているため、私も「ブックレビュー」として、その思いを書きとどめたくなった。
 まずは、6月号の第1回について述べてみたい。この号では、「公民館は社会をつくる自治の基盤」と書かれており、いまあらためて「生涯学習」ではなく「社会教育」の存在価値を主張する内容になっている。

牧野篤「社会教育の再設計−生活の基盤としての社会教育・公民館」日本青年館『社会教育』誌6月号ブックレビュー

廣瀬裕一「教員の資質向上」でいいのか を読む


 若者文化研究所 西村美東士

 廣瀬は、"improving teacher quality"あるいは"upgrading the quality of teachers"を、我が国では「教員の資質向上」などということについて、この表現は、いつ誰が使い始めたのか知らないが、昭和22年の文部省と日教組の覚書にはすでにあるとしたうえで、次のように批判する。「資質は本来、生得的なものを意味し、向上はしない。言葉の意味は時代とともに変化もするから、今や法律上の文言ともなった『資質』が誤用であるとは言いきれないが、日本語の不適切な使用や解釈が、教員のクオリティ向上を阻害している現状がある」。
 日本語本来の用法に立ち返って、「資質」、「研修」、「人格」、「修養」を本質的に正しくとらえなおして議論しようとする廣瀬の主張は、大きな意義を持っている。

廣瀬裕一「教員の資質向上でいいのか」、日本教育新聞社編集『週刊教育資料』教育公論社、1578号、pp.35-37、2020年8月 を読む

さいたま市立教育研究所長玉川徹「『未来を拓くさいたま教育』を 支える−主体的に学び続ける教職員の育成」 を読む


 若者文化研究所 西村美東士 2020年10月26日

 玉川は「キャリアに応じた教職員研修」として、教職員の育成の重要性を主張している。独立性だけ妙に「尊重」され、戸惑う教員にとっては、夢を与える主張であろう。
 「教育公務員特例法等の一部を改正する法律」(平成29年3月31日告示)により、教員としての資質向上に関する指標の策定が必須となり、さいたま市では「教員等資質向上指標(キャリアnavi)」として策定し、教員等が高度専門職として身に付けるべき、資質を示した。この指標は、教員等が自身のキャリアの現在地を知り、資質向上等に生かす道しるべとして継続的に活用するものである。
さいたま市教員等資質向上指標(キャリアnavi)「教諭・主幹教諭の例」
 ここでは、初任期(1年〜5年)、中堅期(6年〜15年)、熟練期(16年)のラダー(各段階)ごとに、「求められる資質」の内実が書き分けられている。いよいよ(やっとのことで?)科学的・体系的教員養成が始まるのではないかと期待できる。市町村独自に、地域の実態に基づきながら、これまでの独自の実践の蓄積を生かして設定されたというところが、この指標の大きなポイントである。
 ただ、これをもとに研修を充実するというが、その前に、「資質」よりもう一歩進めて、CUDBASなどにより、「能力」の構造化を進めることが期待されよう。「資質」どまりでは、文字通り「持って生まれたもの」であり、戸惑う教員にとっての真に明瞭な道しるべにはなりえない。育成可能な「能力」にこそ、注目すべきであろう。各講師も、その必要能力(=教育目標)に基づいて研修の一コマを担当してこそ、体系的な教員養成カリキュラムは現実化するのである。
 そして、もう一つの注目すべき点は、「授業の達人アーカイブ」である。「見て盗め」と言われてきた「ベテラン教師の技」が動画と指導案とともに公開されている。教員は自分のペースで繰り返し学ぶことができる。
 ただ、この教材をもとに、新人教員が学習しようとしても、肝心の「カン・コツ」については、理解が難しい。各コマの指導の課題を明らかにしたうえで、ベテラン教師の各場面での言動が、どのようにその課題と結びついているのかを知ってこそ、新人教師は、理解と身体化ができるのである。
 ベテラン教師に「解説」を任せていては「カン・コツ」を「えぐる」ことはできない。ベテラン教師自身が言語化できていない「暗黙知」にこそ、教授法の貴重な「カン・コツ」が宿っているのである。
 私は、さいたま市の小学校に勤める若い教え子に期待したい。この動画の先輩のところに行って、「暗黙知インタビュー」を行ってほしい。先輩の言動の場面ごとに、動画を止めて、その先輩に次のように聞くのだ。理由=「なぜ、その言動をしたのか」、判断基準=「その言動をした判断基準は何か」。程度=「どの程度になったら、どの程度の言動をするか」。異なったケース=「違うケースとして、どのようなことがあり、そのときにはどのような言動をするのか」・・・。ベテランが「自明のこと」として、通り過ぎてしまうような「カン・コツ」をえぐり出せるのは、向上心に燃えた新米教員だからこそのことである。
 新人教師が、これらの体系的養成とベテラン教員の暗黙知の可視化のうえで、時代を反映した「自分らしい創意・工夫」で、子どもたちと「新しい価値」を創造することを期待している。
さいたま市立教育研究所長玉川徹「『未来を拓くさいたま教育』を支える−主体的に学び続ける教職員の育成」、日本教育新聞社編集『週刊教育資料』教育公論社、1587号、pp.46-47、2020年10月26日号

つづく


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